第2話 ビーフストロガノフ

 俺はたくたん。今日は、ビーフストロガノフチャレンジをやってみようと思う。


「お父様ーなんで急にビーフストロガノフなんですか」


「NHKでやってたからネ🤗🤗今日も俺の娘は可愛いね❤❤❤」


 素朴な疑問を投げかけてくるめちゃめちゃ可愛い愛しの娘を愛でる。うおおおおもうビーフストロガノフとかどうでも良くなってきた。


 だが俺の心は満たされても、俺の肉体が満たされない! 愛しの娘に泣く泣く泣く泣く泣く泣く別れを告げ、俺はビーフストロガノフの材料集めへと進んでいく。


「おっ、早速野生のキノコ発見!」


 真っ赤なキノコに触ると皮膚が燃えるように痛む。


 くぅ〜、この痛覚最ッ高だぜ!


 このまま全身でこのキノコを味わい尽くしていたいが、このままだとビーフストロガノフ作りは一向に進まないな……。


 あっそうだ、これで服を作るか! 俺は早速真っ赤なキノコを細かくちぎって体に貼り付け、灼熱の痛みでドーパミンをガンガン生産していく!


「うひょぉおおお、このキノコヤベェ!」


 下手な幻覚キノコよりも気持ちぃいいいいい↑↑↑! でも体の感覚がだんだん無くなって動かしにくくなるのが難点だな……さっさと材料集めは済ませてしまうか。


 そこからさらに歩いていくと、タマネギと牛肉を売っている無人販売所を見つけた。


Motchiy's Caféモッチーズカフェ™? なんか聞き覚えのある名前だな、窃盗してくか……ん?」


 隣に俺がふと目をやると、そこには張り紙があった。


『1000円支払うごとにエロ本 必ずもらえる!』


「マジかよ兄弟!」


 即決だな! 俺は所持金十八万を集金ボックスに突っ込み、百八十冊の叡智な聖書を手にした!


 ヒヒヒ、笑いが漏れてくるぜ。ついでにタマネギと肉とバターを十分仕入れた。


 まずは俺はバターを川の水に溶かして頭から被り、バターで洗顔パックを施す。それからタマネギを両目に突っ込む……うおおおおお!


「完璧だ!」


 思わず叫び声が出てしまうほどだな! 俺のMレベルが99の限界を突破して三桁にまで上り詰めたぜ!


 くぅ〜、バターのパックでより効果的にキノコの痛みも増幅する相乗効果! やべえ!


 牛肉はとりあえず生のまま両腕の筋肉を置き換えた。神経がまだ繋がってないが、まあすぐ馴染むだろ。


「後はサワークリームとワインだな!」


 タマネギを両目にしたせいで何も見えない! 血の涙がこぼれてるのがわかるが、仕方ないな闇の中で料理するしか。


「キュッキュッ〜」


「アライグマだ」


 おお、この鳴き声はいつぞやの取引アライグマ。ま、まさかこの匂いは……ブルゴーニュワイン!?


「うーん、でもどうしよう。金は全部あのカフェ(笑)に使っちまったんだよな」


「チッ」


 うわコイツ舌打ちしたぞ。バシャッとやっすいビールがぶっかけられる……おおっ、これも悪くない!


 アライグマに蔑まれるのもいいな……くっ、新しい扉が開きかけてる!


「さて最後はサワークリームか」


 そんなもんないな。


 仕方ない、そこら辺に落ちてた希塩酸のボトルをひっくり返して洗髪する。塩酸も酸っぱいらしいしいけるいける!


「おーいMotchiyモッチー! 俺を料理してくれーッ!!」


「はいはい」


 Motchiy、今日もマジナイスタイミング! どっから持ってきたのかめっちゃでっかい調理器具に放り込まれた俺は、千度を超える蒸気の中で此度の生涯を閉じた……。最後に想うのは、やっぱり妻と嫁と娘……ははは。


「さてこれからどうしよう」


 友達のパーリナイ山本から仕入れた『超絶高圧スチーム煮込み器くんVer0.2β』にたくたんを放り込んだはいいけど、これベータ版だから挙動が不安なんだよなぁ。


 アルファ版の時たしか爆発して、ムー大陸沈没の原因作ったのアレだしイマイチ信用できないんだけど。


 『超絶高圧スチーム煮込み器くんVer0.2β』の画面には残り調理時間が五分と表示されてるし、その間にショート動画の一本でも編集できそうかな。


 そして次に自分が蓋を開けてみると、案の定たくたんはダメになっていた。やっぱりベータ版を信用するもんじゃないな。


 試しにまあ一口といくか……スプーンですくった瞬間に湧き上がる、腐肉と化学薬品の混じった気持ち悪い香り。コケケ!


 結局、太平洋の真ん中に持っていって沈めました。こんな劇物が万一漂流したりしたら大変だからね……。

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