第34話 アベルの提案

 遭遇したゴブリンのパーティを撃破し、ボクたちは森の外縁部を進んでいく。


 ボクが潰したゴブリンの巣やオークの村はかなり大規模だった。それだけ縄張りも広かったのか、それからめっきりゴブリンやオークと遭遇しなくなってしまった。


 そういえば、今頃冒険者ギルドから依頼された調査員が、ボクの潰したゴブリンの巣を探索している頃だろうか?


 今までの対応から考えて、ボクの冒険者ギルドからの信頼は低い。ゴブリンの巣穴をソロで潰したと報告して、証拠品である大量のゴブリンとオークの右耳と巣に隠されていた財宝を持ち帰っても信じてもらえないかもしれない。


 でも、ゴブリンの巣穴を放置することはできないはずだ。必ず、冒険者ギルドは調査員を派遣する。その調査員の報告次第では、冒険者ギルドでのボクの評価は上がり、個人ランクも上がることになるだろう。


 まぁ、もうボクにとってあまり個人ランクに興味はないんだけどね。


 それよりもミスリルが欲しいよ。


 でも、ミスリルってなかなか市場に出回らないし、ものすごく高いんだよね。


 やっぱり、『タイタンの拳』に払った金貨七千枚はちょっともったいなかったかな?


 でも、あれは僕の中から『タイタンの拳』への思いを断ち切るのに必要な儀式であったように思う。


 人から見ればカモられているだけと言われてしまうだろうし、バカな選択かもしれないけど、これがボクなりのケジメの付け方だ。


「ほんと、ゴブリンいないねー……」


 ダリアがほっぺたを膨らませて呟く。


 うーん……。何も考えずに近場のゴブリンの巣を潰してしまったけど、まさかパーティにこれだけ影響が出てしまうとは……。ちょっと時間をかけても、パーティの狩りに影響が出ないようにもっと遠くのゴブリンの巣を潰せばよかった。ボクにももうちょっと考えられる頭があったらと切実に思うよ。


 でも、どうやらやっと潰したゴブリンの巣の縄張りから抜け出せたのか、ちょこちょことゴブリンと遭遇し始めた。


「もうこのへんで狩ろうぜ! ゴブリンも出てきたしよ!」

「そうだね。みんなはどう思う?」

「あたしもさんせー」

「いいと思います」

「ボクも賛成だよ」


 アベルの言葉に頷き、ボクたちはこの地をキャンプ地にして狩りを始める。


 パーティとしての狩りは二回目のはずだけど、みんなももう慣れたものなのか、ゴブリン程度では動じずに狩り続ける。


 たまにゴブリンアーチャーやゴブリンメイジなどの注意すべきモンスターも出現するけど、ダリアは見逃すことなく、これらを冷静に弓で処理していく。


 【弓聖】のギフトの力もあるだろうけど、その大きな力をどう使うかはダリア次第だ。ダリアはギフトの力に溺れず、懸命に強くなろうとしているのが伝わってくる。


 同じく強大なギフトを持つ身としては、ダリアの姿勢は見ていると自分も戒められる気分だ。そうだね。ギフトの力に呑まれることなく、傲慢にならず、ボクもみんなと一緒に成長していきたいよ。


「ゴブリン五匹! オーク一体!」


 釣りに行っていたダリアが帰ってきた。今度はオークがいるらしい。


 オークの処理はボクの役目だ。ゴブリンの数も多いし、さっさと処理してしまおう。


「オークは俺がやる!」

「え?」


 そんなことを思っていたから、アベルのこの一言には驚いてしまった。


「ペペばっかりに頼ってられねえからな! ここは任せろよ!」

「そうだね。僕もやるよ! ペペ、ゴブリンの相手を任せてもいいかな?」

「わかったよ」


 オークはアベルとクレトが相手するらしい。


 ボクはちょっと不安だったけど、二人に任せることにした。


 ボクなら、オークなんて簡単に倒せる。でも、いつまでもオークの相手をボクが引き受けていたら、アベルとクレトの成長の機会を奪ってしまう。


 まだちょっと早い気がするけど、ここは任せてみよう。たとえ失敗しても、すぐにボクがカバーに入ればいい。


 それに、このパーティには治癒魔法を使えるセシリアがいる。もしもの時も安心である。


 それに、もしセシリアでも治せない怪我をしてしまったとしても、ボクの用意した高等級のポーションがある。


 たぶん大丈夫だ。大丈夫だといいなぁ。きっと大丈夫……たぶん。


 その時、ガサガサと草むらをかき分けてゴブリンが現れる。その後ろには、ノッシノッシ歩くピンクの巨体、オークの姿も見えた。


「ソード!」


 ボクは両手の先に時空間を展開すると、ゴブリンに向かって駆けていく。


「えいやっ!」


 ボクはまるでコマのように回り、ゴブリンを時空間を使って切り裂く。


「シールド! はあッ!」


 ゴブリンの攻撃は時空間に吸収し、攻撃だけに集中する。


 単独でゴブリンの巣穴を無傷で攻略したボクだ。今さらたった五匹程度のゴブリンに苦戦することなどない。すぐに片が付く。


 問題はアベルとクレトだ。


 ボクの視線はオークへ、オークと戦うアベルとクレトへと向かった。


「はああああああああああああああああああああああああああ!」


 クレトのウォークライが森に響き渡る。戦闘が、今、始まる!

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