第33話 ゴブリンの不在とスキル
「うお!? 森だ!」
時空間から顔だけ出したのはアベルだった。その顔はビックリしたまま固まり、辺りをキョロキョロと見渡している。
「これどうなってんだよ!? すげー! みんなにも言ってくるな!」
そう言って顔を引っ込ませるアベル。いつの間にか掴まれていた手は放されていた。
「これがペペの新しい魔法! すごいね!」
「やっぱり転移魔法じゃない! すごい! すごいよ、ペペ!」
「一歩踏み出しただけなのに、一瞬で森の中に……。どういう原理なのでしょう?」
アベルが帰ってきたことに安心したのか、クレトもダリアもセシリアも次々とやってきた。
「もちろん、これでエスピノサに帰ることもできるよ。これで移動時間がかなり短縮できるんじゃない?」
「すげーよ、ペペ! お前は天才だ!」
「大袈裟だよ」
アベルが目を輝かせてボクを褒めてくれる。褒められるのは嬉しいけど、天才まで言われてしまうとちょっと恥ずかしいものがあった。
「でも、本当にすごいよ。これはどんなに遠くても一瞬で行き来できるの?」
「ボクが行ったことある場所だったら、どこでも行けると思うよ」
ボクがクレトの質問に答えると、ダリアがガシッとボクの両手を握ってきた。
その手の小ささ、そして柔らかさにちょっと驚いてしまう。
「すごい! 本当にすごいわ! これで大儲け間違いなしよ!」
「あはは……」
ダリアのその緑色の瞳には大量の金貨が映っているように見えた。
いったいどんな使い方をするんだろう? 犯罪じゃないといいけど……。
「まずは、やっぱり今まで馬車を使って運んでいた商品を転移で運ぶのもいいわよね! それに、この早さ! 今までは鮮度の問題で扱えなかった商品も扱えるようになるわ! エスピノサには他に転移魔法を使える商人はいないから、あたしたちの天下になるわよ! やっぱり魚を扱う? でも、足の早い野菜を商品にするものありね! 他の商会では手に入らないものも商品にしたいわ! あぁ! アイディアがいっぱい溢れてきちゃう! これがお父さんの言っていた商機ってやつなの? この機を逃すわけにはいかないわ! まずは――――」
「ダリア、そんなに早口で話しても、ペペさんも困ってしまいますよ」
「ああ、ごめんね! でも、期待してるから!」
「が、がんばるよ……」
セシリアが止めてくれなかったら、いつまでもしゃべってそうだったなぁ。それぐらいダリアの勢いはすごかった。
でも、犯罪っぽいことは言ってなかったし、たぶん大丈夫だろう。大丈夫かな? 大丈夫だといいなぁ。
「おしっ! んじゃそろそろ狩るぜ? ダリア、頼んだ!」
「うん!」
アベルの号令でボクたちは今日の狩りを開始した。
でも……。ゴブリンたちと二度の交戦があった後、釣りに出たダリアがパタリと帰ってこなくなってしまった。
「どうしたんでしょう……」
隣にいるセシリアが不安そうに呟く。
「どうしよう? みんなで探しに行く?」
そんなことをクレトが言い出した時、ダリアが茂みを割って現れた。しかし、いつもは駆け抜けていくのに、今回は歩いて僕たちに合流する。その顔はちょっと怒っているような顔だった。
「もー、どこ探してもゴブリンがいないんだけどー! どうなってるのー!」
「ああ……」
そういえば、昨日かなりゴブリンやオークを倒したし、なんならゴブリンの巣を潰したんだった。
それじゃあ、この辺りにゴブリンがいないのも頷ける。
「マジかよ。じゃあ、場所移動すっかな」
「そうだね」
「ちょっと遠目に移動した方がいいかもね」
「そうだな」
というわけで、ボクたちはそのまま森の外縁部をぞろぞろと移動する。
「あ! ゴブリンみっけ!」
外縁部を歩いていると、ダリアがゴブリンの群れを発見した。ゴブリン五匹の群れだ。他の四匹はよく見るゴブリンだったけど、そのうちの一匹はボロボロのフードを被って、短い杖を持っていた。
フードから見え隠れする緑の肌には、黒いよくわからない文様が塗られている。
ゴブリンメイジだ。この森で遭遇するゴブリンの中では比較的厄介なゴブリンである。初心者冒険者の死因として名前が挙がるくらいには厄介だ。
そんなゴブリンの出現。以前のボクなら慌てていただろうけど、今のボクには余裕があった。
そう。ボクの時空間はモンスターの魔法も収納できる。もし、攻撃が間に合わず、ゴブリンメイジの魔法が完成しても、ボクが収納すればいい。
だから、ここは敢えて手を出さない。みんなには成長してほしいからね。
「ラピッドショット!」
そんな中、最初に動いたのはダリアだった。
彼女は素早く弓を構えると、その瞬間に発射する。
放たれた矢は、短杖を振り上げて魔法を発動しようとしていたゴブリンメイジの額を射抜く。
後方に吹っ飛ぶように倒れるゴブリンメイジ。即死だ。
ダリアはたぶん、スキルを使ったのだろう。ボクはあまり弓のスキルには詳しくないけど、スキルを覚えたての頃はスキル名を口に出すといいというのは知っている。
口に出すことで頭の中でスキルのイメージを明確化して、スムーズに体が動かせるからだ。
それに、スキル名を叫んでも、モンスターに解読されることはおそらくない。だから、ベテラン冒険者でもスキル名を口ずさむ者はいる。
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