第32話 ワープ魔法
「安いよ安いよー!」
「こいつがソーセージマルメターノだ!」
「パンはいらんかねー? 焼き立てだよー!」
「サワガニの素揚げはいらんかねー?」
ちょっと惹かれるものを感じながら屋台が軒を連ねる東門前広場を抜けて、ボクたちは東門から外に出る。
ボクはもう慣れたけど、みんなは歩きながら東門を振り返っていた。
やっぱり、東門の防壁から出るのは、最初のうちは勇気が必要だよね。気持ちはわかるよ。
でも、今日はちょっとボクに付き合ってほしい。
「みんな、ちょっとこっちに来てくれない?」
「おん? どうしたんだよ?」
「どったのー?」
ボクがみんなを誘ったのは、道からちょっと外れた所だ。
「実は、ボクの魔法の新しい使い道を思い付いたんだ」
「マジかよ! それって、新しいスキルを覚えたってことか!?」
アベルが大袈裟なくらい驚いていた。
スキル。それはギフトが成長した時に覚える特殊技みたいなものだ。アベルのような【大剣使い】やダリアの【弓聖】など、武器を扱うギフトはいくつスキルを使えるかで大体の腕がわかると言われている。
だから、アベルはボクの魔法の腕が上がったと思ったのだろう。
スキルはある日、時を選ばずに唐突に覚えるようなものらしい。
でも、ボクの場合は新しい魔法を覚えたというか、発想の転換の方がしっくりくるかもしれない。
「スキルを覚えたんじゃなくて、魔法の使い方を少し変えたって感じかな?」
「それってどういう魔法なの?」
「それ、あたしも気になるー!」
クレトもダリアも興味津々といった感じでボクを見ていた。
さっそく披露しようかな。
「これだよ」
ボクは人が入れるほど大きな時空間を展開した。一つは目の前に、そして、もう一つは東の森の浅い部分に。二つの時空間を連結し、二点間を結ぶ。これでワープの準備は完了だ。
「これって……」
「なあ、言ってもいいのかわかんねえけどよ。これっていつものと何が違うんだ? たしかに少しデカいが、それだけだろ?」
クレトとアベルが困ったような顔を浮かべていた。
「これってペペのいつもの魔法だよね? 実は中からなにか出てくるとか?」
「どうでしょう? この大きさには何か意味があるとは思いますが……」
ダリアとセシリアも疑問顔である。
そこでボクは答えを口にすることにした。
「実はね、この黒いところに入ると、東の森に一瞬で行けるんだ」
「はあ?」
「どういうこと?」
「それって、転移魔法ってやつじゃない!? 全ての商人の憧れよ!?」
「すごい……!」
疑問顔のアベルとクレトだが、続くダリアの言葉にビックリしていた。セシリアもその目を大きく開いて驚いている。
「そんなすげーことができるのか!?」
「まぁ、転移魔法と似たような感じかな? ちょっと手順が面倒だけどね」
ボクはアベルに頷いて答える。
今はこの真っ黒な時空間をくぐらないと転移できないけど、将来的には転移魔法と同じようにものを瞬時に転移できるようになる予感はしていた。
「この魔法、ボクはワープって呼んでるんだけど、これはボクが行ったことのある場所にしか開けないんだ。だから、転移魔法ほど便利じゃないよ。でも、移動時間はかなり節約できるかなって」
「それでも十分すごいわよ! ねえ? ウチに雇われない? 絶対損はさせないから!」
あまりにもビックリしたのか、ダリアがそんなことを言い出した。
たしか、ダリアの家は小さな商会だっけ?
ダリアの商会なら使い潰されるようなことはないだろうし、犯罪に巻き込まれる可能性も少ないだろう。ボクも元々自分のギフトは商人向けだと思っていたし、たまに手伝うくらいならいいかもしれない。
「たまに手伝うくらいでいいなら――――」
「ほんと!? 絶対だからね!」
「う、うん……」
結局、ボクは仕事内容が何かも聞かずに頷いてしまう。
ダリアも商人の娘だからお金に対する嗅覚がすごいのだろうか? すごい勢いだったよ。
その後ろでは、セシリアがダリアを見て少し困った笑みを浮かべていた。
「まぁ、話を戻すけど、一度体験してみるのが手っ取り早いかな? 最初にボクがもぐるから、後から付いてきて」
そう言って、ボクは真っ黒などこまでも続く深淵のような時空間に足を踏み入れる。
最初に感じるのは、もふっとした踏み心地だ。慣れ親しんだ森の腐葉土だね。
そのまま一気に時空間を抜けると、ジメッとした空気が体に纏わりつく。風の臭いも何かが腐ったような臭いに早変わりだ。
ワープは成功したみたいだね。
ボクが振り返るって待っていると、みんな時空間の中に躊躇しているのか、いくら待っても誰も出てこない。
「やっぱり怖いのかな?」
まぁ、ボクは自分の魔法だから信じられるけど、こんな真っ黒な空間に入るのは怖いのかもしれない。
ボクは時空間に手を突っ込むと、おいでおいでとばかりに手招きした。
すると、ボクの手ががっしりと掴まれた。
「へあ!?」
ビックリしていると、誰かがボクの手を握ったまま時空間に近づいてくる。
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