第35話 クレトのオーク戦

 僕はクレト。十五歳のどこにでもいる普通の男だと思う。強いて他の人と違うところを言うなら、冒険者をやっていることかな?


 貰ったギフトは【強固】。自分や自分の触れているものを固くすることができるギフトだよ。


 最初はこんなギフトで何ができるんだと思ってがっかりしたけど、小さい頃から一緒に遊んでいたアベルはものすごく喜んでくれた。


 アベルが言うには、僕のギフトは冒険者に向いているらしい。アベルは昔から冒険者になりたかったらしいから、僕と一緒に冒険者になれると喜んでくれたんだね。


 僕は、自分で言うのも辛いけど、兄さんみたいに手先が器用なわけでもなければ、弟のように頭がいいわけでもない。どちらかと言えば、要領も悪い方だろう。


 そんな僕に就ける仕事というのはそれほど多くはなかったし、自分からやりたいと思える仕事もなかった。


 だから、アベルに誘われるがままに冒険者ギルドのドアを叩いたというわけさ。


 もちろん家族には反対されたけど、【強固】のギフトを貰った僕を喜んでくれたのはアベルだけだったからね。


 それに、僕が【強固】なんてギフトを貰ったことにも、何か理由があると思うんだ。


 だから、最終的に冒険者の道を自分で選んだつもりだよ。


 そうして冒険者になった僕とアベルだけど、最初の冒険は散々だった。


 初心者冒険者にもお勧めのモンスター、ゴブリン。彼らはだいたい四から六匹程度で固まって行動していることが多い。


 そう。初めての戦闘だというのに、もう数の上で負けてるんだ。もうめちゃくちゃだったよ。


 倒せはしたけど、しこたま棍棒で殴られたよ。僕は【強固】のギフトのおかげでマシだったけど、アベルは辛そうだったな。


 普通なら冒険者なんて辞めると言い出しそうなものだけど、アベルは諦めが悪かった。


「俺たちに足りないのは数だ! 仲間を集めようぜ!」


 そう言い出して、あれよあれよという間に冒険者ギルドにパーティメンバー募集を手配していた。


 本当に、こういうことになると行動が早いのは子どもの頃から変わらないね。


 そうしてセシリアとダリア、そしてペペと出会ったんだ。


 ペペ。アベルが彼を否定して、パーティから追い出そうとした時、僕は咄嗟に彼を庇った。そこには大きな理由があったわけではない。アベルに人を責めるようなマネをしてほしくなかったというのもあるし、ちょっとペペがかわいそうだと思ったから。そして、その要領の悪さになんだか親近感を覚えたから。それだけだ。


 ようするに、彼に情けをかけたわけだね。ペペ自身にはなんの期待もしていなかったともいえる。ただ争うのが嫌だっただけ。


 ペペも自分があまり期待されていないことに気が付いていただろう。


 そんなペペだけど、今ではこのパーティにはなくてはならない存在となった。


 パーティの中で最強ともいえるその強さはもちろん、冒険者としても深い知識を持っているし、柔らかい人当たりで争いを好まないところも好印象だ。


 僕は自分を恥じたよ。人を見る目がなかったというのもそうだけど、ペペにはひどいことをしてしまった。期待されないことの辛さは知っているはずだったのに……。


 今、このパーティ『冒険彗星』は、ペペの力に頼りきりになってしまっている気がする。


 特に顕著なのが、オークをペペしか倒せないという状況だと思う。


 ペペがオークを倒してくれるおかげで、僕たちは安全にゴブリンを狩ることができた。


 ペペには感謝している。でも、もうお守りは卒業しないとね。


 僕たちは先生と生徒じゃない。対等な立場の同じパーティに所属する冒険者だ。


 だからだろう。アベルがオークを倒すと言い出した時、僕が感じたのは恐怖ではなくやりがいだった。


「はああああああああああああああああああああああああああ!」


 戦闘の開始を告げるウォークライ。オークの意外につぶらな瞳が僕を見る。


 そして、僕はオークに向けて走り出した。


 オークが丸太のように大きな棍棒を振り上げるのが見えた。


「全身強固!」


 僕は盾を頭上に構え、スキルを発動する。スキルの効果は、全身を硬くするだけのシンプルな効果。でも――――!


 オークの棍棒が振り下ろされ、盾と激突する。


「ぐッ!」


 足元が地面に埋まり、まるで打たれる釘になった気分だ。


 でも、無事である!


 普通だったら、こんな重量攻撃耐えられなかっただろう。


 やっぱりギフトの力はすごい!


「アベル!」

「おう! どりゃあああああああああああああああああ!」


 僕がアベルに呼びかけると、アベルはわかっているとばかりにオークに大剣を叩き込むのが見えた。


 僕が敵の注意を引き、攻撃を誘引。敵が攻撃した隙をアベルが突く。最初から変わらない僕たちの連携だ。


「PIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」


 悲鳴をあげて、どうと尻餅をつくオーク。


「寝とけや!」


 その顔面に飛び蹴りを喰らわし、首に再度大剣を叩き込むアベル。


 これで僕たちの勝利だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る