11 作戦会議 奇跡のダンジョン 役小角・空海伝説 大騒乱の分析室
「山木先生!日原ダンジョンすごかったです!」
日原ダンジョンから帰宅した夜である。剣奈は帰宅後のお風呂、夕食後、そして食後の歯磨きをいそいそと終わらせた。今日のダンジョン探検の成果報告が待ちきれなかったのである。
剣奈はワクワクしながら山木と藤倉を呼び出した。その開口一番の叫び声が冒頭の台詞である。
「そうか!すごかったか!」山木が笑顔で言った。
「うん!ダンジョンまでの道のりもどんどんダンジョン拠点っぽくなっていってさ」
「うん」
「ダンジョンの入り口は鋼鉄のゲートでダンジョンのモンスターが外に出ないようにされてたんだ!」
「そうなのだね?」
「うん!まさに『ダンジョンで待ち合わせ』に書いてあったとおりだったよ!」
剣奈の興奮は収まりそうもなかった。どや顔の山木である。それを恨めしく思う藤倉……。
(次は俺のターンだ……)
――いや何と闘ってる藤倉!?
「それは良い冒険ができたね」藤倉が割り込んだ!
「うん!すっごく充実してた」
「日原ダンジョンには伝説・伝承が多いんだよ。ひょっとすると玲奈の手掛かりになるかもしれない」
「そうなんだ!教えて!教えて!」
――ドヤ顔の藤倉である。君は恋人の玲奈をダシにして何を言ってる?あ、いや、Xで取らせていただいたアンケートでも「男は新しい恋人ができても初恋の人は忘れられない」と回答してくださった皆さんが多かった。お前もか藤倉。
ともかく。
「日原ダンジョンはそれ自体が「石山大権現」と崇められていてね。日原ダンジョンそのものが大きな霊場、霊脈気のたまり場なんだよ」
「うん!わかる!実際行ってみてほんとそんな感じだった!」
「昔から日原ダンジョンを社とみなしてね。そして内部の石筍や鍾乳石を観音菩薩や地蔵菩薩などに見立てて、拝礼したり、修行の場所とされてきたんだ」
「うんうん!」
「例えば、七〇一年(大宝元年)に修験道の祖、役行者あるいは役小角が開山したといわれてるよ。八〇九年(大同四年)には弘法大師空海が修行し、中興の祖となったという伝承もあるんだ」
「うわあ!役行者!聞いたことあるよ。海を歩いたり、空を飛んだりしたんでしょ?富士山にも飛んでいったって!あと鬼!やっつけたんでしょ?」
「そうだね。小角伝説は多いんだ。「鬼を従えた」、「石橋を掛けようとした」、「伊豆大島に流された。でも夜な夜な海を歩き富士山に登った」、「空を飛んだ」、「巨大骸骨と話した」、「人食い鬼を退治した」、「神仏を降臨させた」、「お母さんの刀良女さんの白蓮池でのカエル伝説」、「石鎚山での天狗伝説」……伝説をあげていけばきりがないね」
「すごいね!ほんとすごい!」
「でね。伝承を集めていって思ったんだ。剣奈ちゃん。君とかなりダブるって……」
「えー!えへへへ、そ、それは言いすぎでしょ。もぅ」
剣奈は真っ赤になって否定した。
――しかし!ドヤ顔だった!そう!ちょっと、いや、だいぶだ!背筋が伸びていた!鼻が……!伸びていたっ!
古刀『じゃのう。ワシもそれは感じておる』
白蛇『そうじゃのう。確かに言われてみれば……似ておるわ』白蛇っ!会ったのか!
「そして不思議なことに弘法大師空海も剣奈ちゃんとかなりダブるんだよ。「白黒二匹の犬に案内させて高野山を開いた」、「各地で杖を突きたてて井戸、温泉、池を湧き出させた」、「各地で雨を降らせた」、「龍神と交流した」、「怪力だった」、「空を飛んだ」などの超人伝説。そしてなにより人助け伝承が多いんだ」
白蛇が目をそらした。みんながジト目で白蛇を見た。そして何やら納得顔だった。
「すごいね!そんなすごい人たちと日原ダンジョンは関係あるんだ!」
「そうだね。奇跡のダンジョンといっても過言じゃないよ。そして剣奈ちゃんも見てきた「水琴窟」、「地獄谷」、「三途の川」、「大広間」、「死出の山」。さらには「落ち武者伝説」、「ガマ岩」。そして水に関わるものとしてその地域の「神明水」や「万寿の水」の言い伝え。天祖山「立岩権現伝説」、「梵天岩」、「籠岩」などをご神体とした伝承。俺も行きたいほどだよ」
「えっ?タダちゃ、来るの?会いたい!会いたい!」
ぐらっときた藤倉である。
真剣に新幹線に飛び乗ろうかとすら思った藤倉である。
――少し後、内閣情報調査室(CIRO)第二分析室
第二分析室のモニターには剣奈の興奮気味な声が鮮明に響いていた。
「山木先生!日原ダンジョンすごかったです!」
オペレーションルームがざわついていた。
「……主任!対象が「日原鍾乳洞」の実地体験を興奮して報告しています!」伊藤が興奮して振り返った。
「「レキシ」が嫉妬心から「石山大権現」、「役行者」、「空海」を持ち出しました!……詳細すぎます!」倉持も叫んだ。
主任の柴崎は腕を組んで画面を凝視した。「シラユキ」の興奮した様子、「レキシ」の割り込み……すべての映像と音声が記録されていた。
ピーッピーッピーッピーッ
分析していたAIが警告を始めた。
《「シラユキ」発話内に宗教的・歴史的固有名詞が高頻度出現!「レキシ」発言に国家的霊場との符合率83%!対象会話内に「役行者」「空海」「三途の川」同時言及。社会不安煽動リスク 72%!当該会話、外部監視対象SNS拡散モデルに酷似!対象心理に「救世主同一化傾向」急増中!》
庶務の本郷が慌てて議事録を作成した。そして即座に上席の鈴村にメールを送信した。
「現場の日原チームに伝達だ。対象が鍾乳洞の内部「地獄谷」、「三途の川」、「死出の山」に言及している!警戒態勢を敷けと!不測の事態に一般観光客が巻き込まれた場合のシミュレーションを行っておけ!」柴崎が真剣な表情で叫んだ。
「AI心理解析。「シラユキ」=「役行者」=「空海」の自己投影傾向あり。対象の救世主妄想が強化フェーズに入ったとの分析結果をたたき出しています」伊藤も叫んだ。
「いや。妄想……なのか?実際「シラユキ」は「淡路大震災」を初動で防ぎ、その後も様々な大事件に発展しかねない案件を収束させているんだぞ?」柴崎が眉にしわを寄せ、腕を組んでつぶやいた。
「しゅ、主任!AIが「シロ」と「役行者」との遭遇符号率88%!「空海」との遭遇符号率98%と!」
ピーッピーッピーッピーッ
《「シラユキ」による象徴同一化進行度75%!「国家的神格化ポテンシャル」増大!》
ガチャ
上席の鈴村が入室するなり叫んだ。
「小学生一人の冒険が内閣官房危機ラインまで叩き起こすとはな。小学校でのいじめ問題……民事不介入とか言ってる場合じゃないぞ!!」
内調第二分析室の夜。全員不眠不休のお祭り騒ぎとなっていた。メンバー全員で夜を徹して熱く語り合っていた。大の大人が!小学生の鍾乳洞探訪に振り回されていた。
警護担当の中川一人のみ鈴村の指示で強制的に仮眠室に追いやられていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます