10 第一次ダンジョン探索 見事な成果(自称) with 秘密尾行


 剣奈が涙ぐんでいるのをそっと遠くから見ている人物が二人いた。剣奈はダンジョン探検に全意識が裂かれており全く気付いていない。観の目を持っているはずなのだが……。他のメンバーは当然気付いている。

 イジメを思い出して心がどんより沈んでしまった剣奈である。場の雰囲気を変えようと白蛇がトリニティネットに話しかけた。


 白蛇『金狐と古刀は当然気付いておるよな?』

 古刀『じゃのう』

 金狐『ですわね』

 

 突然振られた話題に剣奈の意識が瞬時に引っ張られた。白蛇、成功である。


 巫っ子『え?なんのこと』

 白蛇『いつもの怪しげなカップルじゃよ。おっとキョロキョロするなよ?』

 

 剣奈は盲視を使った。十メートル以上離れて男女の気配が感じられた。慣れ親しんだ気配だった。


 巫っ子『あ、ほんとだ。いつものお姉さんとお兄さん』

 古刀『じゃのう。今年に入ってから剣奈が冒険をするときには必ずと言ってよいほどこのつがい、ついて来よるのう。まあ、悪意はなく、護衛のつもりのようじゃがの』

 巫っ子『だよね。挨拶しようと近づいてもスーッと離れてっちゃうもんね。前は鬼ごっこみたいになっておかしかった』

 白蛇『秘密組織メンバーじゃの。まあ悪意がないので秘密の正義組織かの?』

 巫っ子『メガトン警備隊みたいな?』

 金狐『そうよね』剣奈と一緒に変身ヒーローが怪獣と闘う番組を見ている玉藻が同意した。

 巫っ子『秘密組織なら接触は禁則事項かもしれないしね』

 古刀『幽世に行くときもただ見守るだけじゃからの。まあ邪魔をせぬなら良いじゃろ』

 巫っ子『でもどうやってボクが冒険に行くのがわかるんだろ?学校とかにはいないんだよね』

 金狐『きっと秘密の情報収集手段があるのよ』

 巫っ子『だよね。まあ味方ならいいか』


 内閣情報調査室(内調)メンバーの中川と警視庁公安部の風見である。中川は警察庁からの出向である。武術全般に長けていること、剣奈と同じ性別できめ細かい対応ができること、などから剣奈の「冒険」時の見守り担当として抜擢されていた。もちろん本人に正体と任務が露見することは厳禁である。

 コードネーム「キン」(玉藻)の視線や些細なしぐさからバレているらしいことはわかっていた。しかし本人の口から明言されなければバレていないのと同じことである。

 二人は「任務失敗」、「要員交代」との不名誉な烙印を押されるのは望まないので知らない振りをしていた。


 ――いいのか?


 ところで。剣奈見守り部隊は白蛇たちが把握しているよりも、実はずっと大規模であった。

 日原鍾乳洞の管理事務所や巡回として警視庁青梅署から二名(大島と近藤)。警視庁公安から小池と安田。この計四名が剣奈対応として駆り出されていた。

 さらに事故や突発事案に対応するため、駅やバス亭、あるいは道路で待機するため青梅署からパトカーが派遣されていた。乗車しているのは松田と鈴木。

 

 内調モニター室では、鈴村、柴崎、倉持、伊藤、本郷が刻々と届く情報を注視していた。

 交通系ICカードの利用データ、駅のCCTVなど防犯・監視カメラ、駅員や管制など鉄道会社や運行管理システムからの情報、スマホ使用の際の基地局接続データなどである。

 さらにXやインスタの位置付き投稿に偶然「シラユキ」が映りこんでいた場合には即座にデータが送られるようになっていた。

 もちろん中川からの定期連絡は重要な情報源である。


 そんな厳重な監視体制が敷かれているのである。しかし我らが剣奈冒険チームの面々は、直接尾行してきている中川・風見のみが監視・尾行・護衛要員と思っていた。


 ――まあ……なにもしてこないのであればいないのと同じか……


 剣奈たちは細い階段を降り、ライトアップされている谷に到着した。地獄谷」である。鋭く割れた谷のような地形が広がっていた。谷を覗き込むと暗く深い空間が広がっていた。


 白蛇『ひょっとすると「篠の道」につながっていたりはせぬか?』

 巫っ子『玲奈姉の魂が引っ張り込まれた場所と似てるの?』

 金狐『形は違うのだけれど……雰囲気がなんとなく……かしら?』

 巫っ子『異世界に行ったら……、要チェックポイントだね』

 古刀『じゃのう』


 剣奈は手元のマップに、「地獄谷。玲奈姉への手掛かりの可能性。闇坂村で玲奈姉が「篠の道」に入った場所と似てる?」と書き込んだ。


 地獄谷をさらに下ると細い通路がさらに狭くなった。苔むした岩の裂け目から冷たい水音が響いていた。足元には細い小川が見えた。

 小さな橋が架かっていた。小川の水面は洞窟の照明を映してかすかに揺らめいていた。「三途の川」である。水滴がポタポタと落ちた。ひんやりとした空気が体を包んだ。


 巫っ子『三途の川だって!』

 古刀『川は古来からさまざまな「場」の境界とされてきた。ましてや「三途の川」。すなわち、「この世」と「あの世」との境じゃの』

 白蛇『なにやら空間が揺らめいておるように見えるの。これは真に位相の異なる世界の境界になっておらぬか?』

 金狐『そうね。妖力を込めれば別の空間に行けそう。ここも「篠の道」につながっているのかもしれないわね』


 剣奈は手元のマップに、「三途の川。玲奈姉への手掛かりの可能性。「篠の道」へのアクセスポイントかも」と一生懸命書きこんでいた。


 しばらく歩くと急に視界が広がった。「死出の山」である。カラフルなライトアップに照らされて妖しげに美しい。ここは日原鍾乳洞の中で最もダイナミックで印象的な場所の一つである。ライトアップ効果もあり、幻想的な雰囲気が楽しめる人気スポットである。

 剣奈は「死出の山」を見あげた。そして大広間全体をキョロキョロ見回した。


 巫っ子『うわぁ。ここすごいね!広ーい』

 古刀『じゃのう。なんとも幽玄な眺めよのぉ』

 白蛇『神気が感じられるようじゃ』

 金狐『なんだか神妙な気分になるわね』


 剣奈は階段を登った。石がつまれている「賽の河原」をしばらく眺めていた。そしてさらに階段の先、「縁結び観音」まで登った。そして観音様に頭を下げて合掌した。

 

 階段を下りて左手に進むと「十二薬師」があった。剣奈は深くお辞儀をして合掌した。さらに奥に進むと「大広間」と「底なし井戸」である。しかしダンジョン通路には柵が施されて進めなくなっていた。


 巫っ子『あー、大広間が……』

 金狐『柵を壊す?』

 巫っ子『だ、だめ!法律違反!(かな?)』


 剣奈たちは仕方なく道を引き返した。「ガマ岩」左を見ながら通路を進んだ。剣奈はしばらく興味深げに「天井知れず」の高い洞穴を見上げていた。やがて急な階段が現れた。「新洞」への階段である。


 巫っ子『あ!「世紀の断層」だよ!』

 古刀『うーむ。地脈の息吹を感じるのぉ』

 金狐『断層面がこんなにはっきり見えるなんて』

 白蛇『じゃのう。見事じゃの』


 剣奈はさらに急な階段を登った。新洞は起伏に富み、多彩なダンジョン光景が見える場所だった。天井からはたくさんのつらら石が伸びていた。大きな石筍が地面から生えていた。石筍とつらら石がつながったような石柱も見えた。まさにダンジョン壁の造形を感じられる場所だった。


 巫っ子『すごく大きな柱。巨人の宮殿みたい!』

 古刀『その石筍を見よ。山木殿が言っておったじゃろ。一滴一滴の水。それが千年の時をかけて刻みし造形の証じゃ』

 

 巫っ子『千年かあ。すごいよね。でも……きゅうちゃ、そんな長く閉じ込められてたんだね……』

 金狐『長かったわね……。でも……あの時があるから、今があるの。あの時があったから剣奈ちゃんに会えた。私は今、幸せよ?とっても』

 巫っ子『うん!ボクもみんなと出会えてほんと嬉しいよ』

 

 白蛇『山木殿によると、この岩は三億年も前のサンゴや貝ということになろうかの。それがかような岩となり、ダンジョンを作っておる。自然は恐ろしくも美しいものよの……』

 金狐『ええ。そうね。白蛇ちゃんも私も結構な生を生きてきたけれど……それよりずっとずっと昔の話ね……』

 巫っ子『すごいね。ホント自然、地脈の力ってすごい……』


 剣奈はしばらく大広間で呆然としていた。時間があっという間に過ぎていった。


 古刀『剣奈。時間は大丈夫かの?そろそろ帰還の時間ではないかの?』

 巫っ子『えーーーもうそんな?』

 白蛇『千剣破殿は夕食前に帰るようにと言っておったよの?』

 金狐『そうね。来るときは朝九時前に家を出て……ここについたのが昼の一時くらいだったかしら?そうするともう遅いくらいじゃないかしら?千剣破さん指定のあのバスに乗らないとダメなんでしょ?』

 巫っ子『うん!じゃあ本日のダンジョン探索はミッションクリアだね!情報を整理しよう。そして山木賢者、藤倉賢者と共に作戦会議を開かないと』

 古刀『じゃのう』


 こうして剣奈は第一次ダンジョン探索を終えることにした。


 ヒュウ


 ダンジョンの外に出るとひんやりとした風が剣奈の頬をなでた。冒険の余韻で高ぶった身体に冷たい風が気持ちよかった。見上げた空はまぶしかった。

 剣奈はすがすがしい気分になった。


 巫っ子『ダンジョン探索ってすごいね。ボク、すっごくパワーもらったと思う』

 金狐『ええ。とっても楽しかったわ。続きはまた明日以降?』

 巫っ子『うん!「急がば回れ」、「急いては事を仕損じる」、「おやつは三つまで」。お母さんによく言われているもん』

 白蛇『最後はようわからなんだが、さすが千剣破殿よのう』


「じゃあかえりましょうか?」玉藻が言った。


 剣奈は元気よく歩き出した。明るくすがすがしい顔だった。


 チーム一行はほっと胸を撫で下ろしたのである。

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