第3話 目指すはドラゴンへの進化!

 兄弟たちがファンタジーな力で兎を殺したあの日から九日。

 俺たちはなんとかこのファンタジージャングルで生き残っていた。


 特に集団で出てくる二足歩行の犬――犬人間はかなり厄介だ。


 兄弟たちの能力がなければ今ごろ天に召されてただろう。


 ちなみに俺もあのあと調べてみたらちゃんと能力があった。全身の鱗を針のように尖らせるというヘボ能力だったけど……ま、まあこれはこれで防御には使えるから良いとしよう。無いよりはマシだ、無いよりはな。


「ちくしょう……!」


 能力はある。けど俺たちはまだ生まれたばかりで弱い。だから皆で連携して敵に対処している。


 戦闘時の並びはこうだ。

 先頭:俺

 二番:レッド(赤いトカゲ)

 三番:グリン(緑のトカゲ)

 四番:ブルー(青のトカゲ)


 名前は俺がつけた。安直だが変な名前になるよりはマシだろう。

 

 俺がおとり、レッドとグリンが攻撃、ブルーが回復担当だ。バランスは良いな。


 ただ、現状の俺たちでは複数に遭遇した時には死に物狂いで逃げることしかできない。


 この一週間で何度死にそうな目にあったことか。

 せめてもう少し成長して体のサイズを上げたい。


「今のままじゃ下手すると一撃もらっただけで重傷だからなぁ……痛ぅ」


 回復できても痛みが完全に消えるわけじゃないらしい。今も昨日怪我した場所にじくじくとした痛みを感じる。


「はぁ……」


 猫なんかは数か月もすれば結構大きくなるし、トカゲもそうだと考えると三か月ぐらいあれば少しは大きくなるだろうか。


 生まれたばかりでそこそこ大きかったんだ。もしかしたら大人になればコモドオオトカゲぐらいにはなれるかもしれない。


 洞窟の外には夜のとばりが降りてきている。すでに洞穴の中は真っ暗で、一寸先も見えない。


 兄弟たちはもう寝ているのか、身動きする音は聞こえなかった。


「俺もさっさと寝よう」


 明日は十日目、まだまだ先は長い。



 ◇◆◇



 翌日、俺は兄弟たちの騒ぐ音で目が覚めた。


 俺は朝が弱い方で若干機嫌を悪くしながら兄弟たちを見ると、そこにはグリンとブルーと共に大きな赤いトカゲの姿があった。


「なっ!? て、敵か!?」


 驚いて一気に目が覚めた俺は、グリンとブルーを守ろうと急いで駆け寄る。だが、どうも二人の様子がおかしい。


 赤い大きなトカゲも襲って来るどころか、どこか戸惑っているようだ。


 俺は少し冷静になって洞穴内を見渡す。レッドの姿がない。洞穴の出口付近には外に出た形跡もなかった。


「ま、まさかお前がレッドなのか?」


 でかいトカゲにそう問いかけてみると、でかいトカゲは首を縦に振った。兄弟たちはこの十日で俺の言葉を多少理解して頷くぐらいはできるようになっていたんだ。間違いない、このデカいトカゲはレッドだ。


「なんてことだ。いったい何が……」


 あまりの事態に衝撃を受けていると、今度はグリンの様子がおかしくなる。


 突然体をギュッと縮こめ――次の瞬間、皮膚の下でバキバキと骨が折れるような音が響いた。鱗がすべて剥がれ落ち、同時に巨大化を始めた体の内側で骨がうごめいているのを見てしまった俺は、その光景に思わず後ずさる。

 

「うっ……」


 そのうち骨が皮膚を突き破って出てくるのではないか。想像するだけで背筋が寒くなった。


 だが、しばらくするとグリンの身体はすっかり深緑色の鱗に覆われて、サイズも巨大化したレッドとそん色ないほどになっていた。


 グリンは自分に何が起こったのか分からず、オロオロしている。


 俺は混乱しつつも、今のグリンの巨大化を見たことで一つの考えが頭に浮かぶ。


(これは『進化』じゃないのか?)


 以前少しだけ読んだドラゴンが出るWEB小説で、主人公の相棒モンスターが経験を積むにつれてさらに強い種族へと進化するという描写があった。


 普通、進化といえば長い時間をかけて起こるものだが、ファンタジーならあり得ない話じゃない。


「あの作品では確か体のどこかに印があったよな。一応調べてみるか――あ、あった。マジか」


 レッドとグリンの左前足の付け根、そこに★型の痣があるのが見えた。その★にはローマ数字でⅡと書かれている。


 次にブルーの身体を見せてもらうと、同じ場所に★Ⅰの痣があった。


 ということは俺にも★Ⅰの痣があるのだろう。


 「進化、進化か! いや待て、喜ぶのはまだ早いぞ。まずは検証しないと。みんな聞いてくれ、今日の予定だけどちょっとだけ変更する!」


 まず二匹が巨大化した分、必要な食料も増える。なのでこれについては大きくなった影響を調べるのもかねてレッドとグリンに頑張ってもらうことにした。


 その間に俺は進化の検証用に虫をいくつか捕まえる。


 ブルーは念のためにレッドとグリンのサポートだ。


 俺は後ろから見ていただけだが、 レッドとグリンの狩りはそれは凄まじかった。


 レッドの炎は範囲が拡張され、噛みつき攻撃は犬人間の腕をひと噛みで引きちぎっていたし、グリンは不可視の風の刃で獲物の首を飛ばしていた。


 おかげでいつもは敵が集団の場合逃げていたのに、今回は殲滅。犬人間が十匹、兎が三匹と、その成果は昨日までの三倍にもなっている。


「す、凄すぎる。進化による能力の上昇は想像以上だ! これは俺とブルーの進化も期待が高まるな」 


 ただ進化といっても、決まった進化しかできないのか、それとも進化先にバリエーションがあるのかは知っておくほうが良いだろう。


 俺の方もトノサマバッタを五匹確保できた。

 明日からはしばらくこいつらを使って進化の実験だ!


 ふつふつと、期待が募ってくる。


「うおーっ! 俺は必ずドラゴンになってやるぞ! それも、最強で超カッコよくて超美しい鋼竜にな!」

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