第13話 いきなりの帰還

 ジリジットとエルミナを宿屋に残して、自分だけ【転移門ゲート】で本拠地へ帰還したレックス。


 彼が玉座に腰を降ろした時には、守護者執政官インペラトルのルシオラを始め、守護者ガルディアン統括官レガトスに至るまでが集結し跪いていた。

 その壮観な光景に息を飲むも、彼らを護らねばならないプレッシャーを感じて胃が痛いが、同時に崇拝されるが如く敬われている現実に多幸感を覚える。

 何処か複雑な感情がレックスの精神を満たす。


「面を上げよ」


 レックスは出来得る限りの厳かな低い声でそう告げるとルシオラたちが一斉に頭を上げた。


「それで何があった?」


 質問を受けたルシオラがレックスの方へと向いて、普段通りの表情で淡々と状況の説明を始める。


「はい。陛下のご命令通り周辺各国に和平の使者を送り、交渉している最中、突如としてウラーヌス帝國から宣戦布告を受けた次第です」


「ウラーヌス帝國と言えば虎狼ころう族の国家だったな。何故いきなり戦争になるのだ?」


「交渉に当たっていた統括官レガトス、エリザベート・ギデオンが帝國の帝王を殺害致しました」


「は?」


 あまりの話の飛びようにレックスの口から間抜けな声が漏れる。

 何がどうなったらそうなるのか理解不能な事態に陥って、レックスは困惑を隠せない。


「それに激怒した帝國は直ちに挙兵。我が国へと進軍しております」


「待て待て待て! どうして交渉していただけなのに急に殺すことになるんだ!? 余は情報が分かるまでは和平の道を選択すると言ったよな!? それともなんだ? エリザベートが襲われでもしたのか?」


「エリザベート。釈明なさい」


 ルシオラの底冷えのするような言葉と見下すような冷酷な視線を受けて、ガタガタと震えながらエリザベートが立ち上がる。


「は、はい……わたくしはウラーヌス帝國の外交担当と話をしていたのですが……虎狼族の帝王ヴァリグスに呼び出され玉座の間に赴いたのです。そこでヴァリグスから尋ねられる質問に答えておりました。しかし段々と我が国を馬鹿にするような内容が増えてきたかと思うと、終いには覇王陛下のことまで馬鹿にされ……ついカッとなって気付いたらっておりましたわ……」


 変わる――空気。


 まさにこの場が凍りついたかのようになり、一気にピリピリとした雰囲気になる。

 事の経緯は知らされていなかったらしく、守護者たちからは次々と不満の言葉が噴出する。まるで何処ぞのやからのような表情をしている者も多い。


「偉大ななるマグナ陛下を馬鹿にしたと? 一体どのようなことなのか知りたいわね」

「虎狼族如きが覇王陛下を? はん! 死んで当然じゃねぇか!」

「待テ……ここで内容を口にすれば、陛下の御前おんまえで馬鹿にするノト同じだゾ!」

「やれやれ。身のほどを弁えさせる必要がありそうですね」

「虎狼族死すべし、慈悲はない」

「あ、あたしもちょーっとばかりムカっときたかな!」

「死んじゃえー! ボクが暗殺しちゃってもいいかなー?」

「ええっお姉ちゃん、暗殺だと時間が掛かっちゃうよ~だって全員らなきゃいけないんだよ~」


「(こいつら好戦的すぎるだろ……大体何だよ。気が付いたらってたって……。ん? エリザベートの位階レベルは70か。周囲が敵だらけな状況で良く逃げ出せたな。もしかすると虎狼族の強さはそれほどでもないのか?)」


「皆、静まりなさい。マグナ陛下からお言葉があるわ。傾注しなさい」


 沈黙を貫いていたレックスを見て、何か言いたげにしているものと考えたのか、ルシオラが周囲を黙らせた。


 いきなり国家規模の戦争か。

 いくら侮辱されたからとは言え、いきなり王が殺されれば向こうも激怒するよな。

 でも僕は〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉と仲間が残した者たちを護らなければならないんだ。

 きっとこれがこの世界に来た意味なんだ。

 そうに違いない。違いない。違いない。

 レックスはそう思い込むことによって自らを納得させ決断を下した。


「よろしい。ならば戦争だ。余を侮辱した罪は償ってもらおうか」


 レックスの決意の言葉に守護者たちの歓声が玉座の間に木霊した。

 中には狂喜乱舞している者さえいるほどだ。

 騒ぎが収まらないのでレックスが右手を前に出すとぴたりと喧騒が止む。


「ルシオラよ、ウラーヌス帝國の虎狼族の強さについて情報はあるのか?」

「いえ、まだございません。申し訳ございません……かくなる上は――」

「だから止ーめーろ!……ごほん! ならば兵力は如何いかほどだ?」


 ルシオラが何やら不穏なことを口走ろうとしたのでレックスは喰い気味に言葉を被せて止めた。


「はッロクサーヌによれば、二五○○○ほどかと」

「北東に拠点はないからな。恐らく途中で野戦になるだろう。ルシオラ、守護者執政官インペラトルとしてドラスティーナと共にすぐに戦略を考え、守護者ガルディアン統括官レガトスによる部隊を編成せよ」


「はッ」

「余も出陣する。戦いの様子や雰囲気をこの目で見て感じる必要があるからな」


 これから戦争だと言うのにレックスの心は穏やかで波1つ立っていない凪いだ状態であった。理由は分からないが、もしかすると覇王ムーブから本当の覇王へ変わりつつあるせいなのかも知れない。


「お止めしても行かれるのでしょう?」

「無論だ」


 レックスが即答したので誰も止めようとする者はいない。

 守護者執政官インペラトルは内政、外交、戦争の総指揮官に当たる者である。

 ルシオラはすぐにドラスティーナを呼び出そうと魔法を行使した。


伝言メッセージ


『何事だ。我の眠りを妨げるとは……』

「くぉら! ドラスティーナぁ! のうのうと寝ている場合じゃないっての! 仕事をしなさい仕事を!! 少しは執政官としての自覚を持ちやがりなさい? これから戦争が始まるわ。すぐに玉座の間に来なさい!」


『戦争だと? おお……陛下がついにおちになるか! と言うか外に出られると言うことか?』

「そうね。とっとと来るなら考えてあげても良いのだけど?」


 【伝言メッセージ】が一方的に切られたらしく、ルシオラが大きなため息を吐いている。

 すぐに玉座の間に【転移門ゲート】が開いて姿を現した。

 いつもの華やかなドレス姿ではないが、それに近いドレス型の戦闘装備で全て神話級ロギアのはずである。

 相変わらずの妖艶さで、周囲に無自覚な威圧のオーラを放っている。


「我が主、マグナ覇王陛下。ドラスティーナ、お呼びにより参上致しました」

「うむ。ご苦労」


 やって来たドラスティーナを労うと、ルシオラと話し始める彼女の姿を観察するレックス。普段の行動が怠惰に見えるのも設定のせいだと思われるので、特に叱るつもりはない。それに眷族を使って情報収集を行っていると以前に言っていたので口を出すつもりもなかった。


 今回は野戦と言うこともあって、すぐに方針が決まったようで、待たされていた守護者ガルディアンたちへ伝達される。


「まずはメフィストの強化と弱化の能力ファクタスを全体に使用。そしてガブリエル、オメガ零式の広範囲攻撃で敵の数を減らしなさい。その後は陛下に能力ファクタスを使って頂いた上で全軍突撃よ。我が軍を正面から撃ち破ることなど出来ないと知らしめなさい。ロクサーヌ」


「はい。ルシオラ様」


 呼ばれたロクサーヌがすぐに前に進み出るが、これは自分の仕事を理解しているためだろう。その他の守護者ガルディアンたちは正面から小細工なしで戦えると知って大喜びで皆、子供のようにはしゃいでいる。


「(本当に子供みたいだ。まぁ自我を持ったばかりだし子供と言うのも間違いじゃないのかもね。それに皆が作ったキャラだし子供みたいなものか)」


 そう考えるとレックスも自然と顔がほころんでしまう。


「戦闘地点はここよ。地形的にも優位に立てるからこの座標に【転移門ゲート】を開くわ。すぐにフラグを立てなさい」


「はい。分かりました」


 命令を受けたロクサーヌが【転移門ゲート】の出現地点を定めるべく何やらぶつぶつと呟き始めたのを見て、ルシオラはエリザベートに向き直り尋ねる。


「エリザベート、敵の大将は?」

「帝王の嫡男、ヴァルガスかと。それほど強いとは思えませんでしたが……」


 会話を聞いていたレックスは、それなら亜人種でもそれほど強い訳でもないのかと考える。


 『ティルナノグ』にあった獣人のNPC国家は強かったなと当時の記憶が甦る。

 それにしても位階レベルが分かればもっと楽に動けるのだが、ステータス画面は存在しないので正確な強さを数値として見ることができないのが何とももどかしいところだ。


 ルシオラが魔法を行使する。


転移門ゲート


 何もない空間が放電現象のようにバチバチと音を立てて巨大な門が出現する。

 その中は漆黒で底知れぬ闇が存在するのみ。

 全てを飲み込まんとする大口を開けて屹立している。


「よし。では行くか」


 ここに覇王の帝國が動き出した。



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覇王の軍団 VS 虎狼族です。


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レクスはこの世界で縁を持った者たちを護るために物語に関わっていく……


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