第14話 初の本格的戦争

 見渡す限りの平原がそこには広がっていた。

 レックスが布陣している場所から見て左手には山脈が連なっているようで、徐々に小高い丘になり標高が上がっているようだ。山麓は大森林地帯となっている。


 空気は澄み渡っており地平線の彼方まで見渡すことができるため、ウラーヌス帝國軍が進軍してくる様子がよく見える。


 レックスとしては初めて生身で挑む戦争であり、ダメージが数値で表示されない戦闘でもある。ルシオラを筆頭に守護者ガルディアンたちの表情には余裕が見え、これっぽっちも負ける気はないように感じられる。

 そのお陰か、レックスもあまり恐ろしさは感じていなかった。

 ただ感覚が麻痺しているだけかも知れないが。


 ロクサーヌの魔法でウラーヌス帝國領の様々な場所を見ていたレックスは、いよいよと言う時になって配下たちに命じる。


「虎狼族が強い場合は全力で当たれ。そうでない場合はなるべく捕らえよ。なお降伏は認めるものとする。ただ奴らは人間種を喰うと言うことは頭に留めておけ」


 全員から威勢の良い返事が返される。

 レックスとしては例え人間ではなくとも、出来る限り殺したくないと考えていた。

 転移直後に拠点を攻められた時は必死であまり考えられなかったが、今思えば恐らく多くの人間が死んだはずである。

 だが、あれは一方的に攻め込まれたことがそもそもの発端であり、襲われれば容赦などしてはいられないともレックスは感じていた。


「しっかし敵さんの進軍は止まんねぇなぁ……」

「それはそうだろう。オレたちの数は少ない。圧倒的にな」


 ヴィクトルの口から何気ない一言が漏れるのを聞き逃さなかったジークフリートが、厳然たる事実を言い放った。


 『ティルナノグ』の世界において位階レベルの差が大きければ、いかな大軍と言えども容易に蹴散らすことは可能だ。

 『黄昏の王城トワイライト・タワー』に湧き出る自動ポップキャラなど位階レベル20~30程度である。

 プレイヤークラスの強さを持つ者であれば、1人でも無双できるだろう。


「メフィスト、もうじき貴方の範囲に入るでしょう? 強化と弱化をお願いね?」


 ウラーヌス帝國軍との距離は既に5km程度まで縮まっている。

 頃合いと見たルシオラが強化と弱化を掛けるように指示を出した。


「分かってるよ! じゃあ――」

「待て、メフィスト」


 早速、能力ファクタスを行使しようとしたメフィストにレックスが待ったを掛ける。

 恐らく大丈夫なはずだが、念のために確認しておきたいことがあったのだ。


「は、はい!」


 急に制止されて驚いたメフィストは慌てて発動を取りやめた。


「今から軍団を呼び出す。それにも強化が掛かるか一応確認しておきたい。少し待て」


「はい!」


【覇王の進撃Ⅹ】


 その瞬間――空間がたわむ。

 位階レベル30の兵士一○○○○がその次元の歪みから出現し一斉に喊声を上げた。

 拠点防衛戦の際にも使用した固有能力だが、強化した場合にどれ程の強さにまで引き上げられるのか見物だ。


「よし。メフィスト、頼む」

「た、頼むとは畏れ多い! では【全体祝福Ⅹ】、【全体呪詛Ⅹ】」


 レックスの言葉に反応してすぐに能力ファクタスを行使するメフィスト。

 ルシオラを始めとした守護者、そしてたった今召喚された覇王の軍団がオレンジ色、緑色、赤色、黄色、青色の光に包まれる。順に物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、俊敏力がアップする際のエフェクトだ。


 厳密にはもっと細分化されており、例えば刺突攻撃、打撃攻撃、斬撃など様々な攻撃方法に対しての耐性アップなどもあるのだが、今回は全体的な能力がアップしたと言うことである。ちなみにメフィストは悪魔族なので【闇の眷属Ⅹ】の職業クラスが必ずビルドされる。このように種族によって必須な職業があり、消すことができない場合もある。彼女は魔神や悪魔、アンデット系にのみ効果がある【漆黒神の祝福】なども行使できるはずだ。


 ウラーヌス帝國軍に対して突撃していく覇王の軍団だが、帝國軍は突然のエフェクトに驚き戸惑っている様子で陣形に乱れが見られる。


「陛下、われガ広範囲攻撃をしタラ、陛下の軍団マデ巻き込んでしまいマスガ……」

「あーホントだ! すっかり忘れてたね!」


 オメガ零式の遠慮がちな言葉でレックスはようやく攻撃手順を間違えたことに気が付いた。機械族なので感情が上手く読み取れないはずなのだが、レックスには悲しげな声に聞こえたのは気のせいだろうか。


「す、すまんな、オメガ零式よ。忘れて――いやーアレだ! さ、作戦には急な変更もあり得ると言うことだな!」


 ガブリエルも忘れていたようだが指揮官たるレックス自身が忘れてどうすると、思わず慌てて謝ってしまった。


「イエ、勿体ないお言葉、謝罪ナド不要デス」

「仕方ないね! オメガくんは魔導砲をぶっ放すのが趣味だし!」


「魔導砲はイイゾ! 敵が吹っ飛んでイクのを見るト、疲れも吹き飛ブ。ハァハァ……ブチかましタイ……」

「お、おう……少し余の軍団と帝國軍との様子を見たら好きなだけ撃ってくるがよかろう……い、今しばらく待て」


 意図しない形でオメガ零式の知られざる趣味を知ってしまい、レックスは改めて全員の設定を頭に叩き込む覚悟を決めた。

 ガブリエルの言葉にオメガ零式のテンションが変に上がってしまったようだ。

 今、口走っていることは心の中にしまっておこう。

 レックスはそう決めた。固く決意した。


「陛下、そんなことより互角以上の戦いをしているようですね。一○○○○対二五○○○で強化も込みですがかなり押している印象を受けます」


 レックスたちがくだらないやり取りをしている中でも、鬼武蔵は冷静に戦況を見守っていた。

 確かに数的不利な状況で押しているように見える。

 覇王の軍団が位階レベル30で強化ありだと考えると、虎狼族はおよそ位階レベル25~30と言ったところか。


「鬼武蔵、ソンナこととはナンダ、ソンナことトハ!!」


 オメガ零式は未だ引きずっていたらしく、語気を強めて猛っている。

 機械族は表情が変わらないので喜怒哀楽が非常に判断しづらい。


「オメガ零式、ではそろそろ私たちも行こうじゃないか。君の魔導砲の威力も見てみたいし興味もあるからね」

「オオ! 興味がアルノカ! ソレは素晴らしいコトダ! 流石ハ鬼武蔵ダ!」


 レックスは鬼武蔵のオメガ零式の扱い方が上手過ぎて感心しきりであった。

 やはり糸目は強キャラであったかとレックスは再認識してしまう。


「良い。戦いたい者は突撃を許可する。だがあまり殺し過ぎるな。情報が欲しい」


『ははッ!!』


 全員から威勢の良い返事があると共に彼らは次々と戦場へと向かっていく。

 残ったのはルシオラとドラスティーナ、エリザベート、ロクサーヌのみ。

 レックスは彼女たちと共に戦場の様子を【観測プリヘンション】の魔法で観察することにした。




 ◆ ◆ ◆




 覇王の軍団が圧倒的な攻撃力を発揮して、ウラーヌス帝國軍の虎狼族を押しまくる中、彼らはかなりの驚愕と戸惑いに襲われていた。


 彼らにとっては人間族など大した力も持たない虫けら同然に考えていたのである。

 まともに戦えば、人間族に待っているのは一方的な蹂躙のみ。

 対抗できる点を挙げるとすれば、各国に少なからず猛者がいることとその数の多さくらいであった。事実、〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉が転移してくる前は周辺国家の全方位に対して戦争をしていたほどである。主に食糧の確保を目的として。


「ええい! 人間どもなんぞに負けるなァ!! それでも誇りある虎狼族の戦士か貴様らッ!!」


 必死で虎狼族の戦士長が鼓舞するが、彼もかなり疲弊している状態で、その強靭な毛皮で護られた肉体にはあちこちに傷がつけられて血が流れ落ちていたし、身に纏った装備にもダメージがある状態だ。

 その多くが満身創痍であり、大地に倒れ伏す者は後を絶たない。

 それでもウラーヌス帝國軍の方が兵数が多いと言う事実が、彼らと奮い立たせ、士気を保てている要因であった。


 しかし――


 そこへ悪魔が舞い降りる。


 〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉の守護者ガルディアンたちが参戦したのだ。

 戦士長はその蒼く澄んだ瞳でその光景を茫然と眺めることしかできずにいた。

 見たこともないような異形の数々。

 中には人間族やそれに類似した種族もいるようだが、言えるのは全員が圧倒的なパワーを持っていたこと。


 オメガ零式は変形モードで複数の魔導砲を出現させて、虎狼族に対して凄まじい魔導波を放ち、それをまともに喰らった者たちは見るも無残にバラバラに千切れてただの肉片に変えられていく。


 鬼武蔵、ヴィクトル、ジークフリートは近接戦であるため魔法は使わず、その磨き抜かれた武力で持って虎狼族たちを一撃で葬り去る。


「ハァッハァ!! テメーら陛下を侮辱してただで死ねると思うなよ!!」


「やれやれ、ヴィクトル。あまり殺し過ぎないようにしないといけないよ?」


「神の御許みもとへ送ってやる……逝け」


 鬼武蔵が仲間を宥めつつも作業でもするかのように、殺戮していく様には戦慄を抱かざるを得ない。まるで柔らかいバターでも斬り裂いているかのように簡単に同胞が倒れていく状況に戦士長は我が目を疑った。


「な、何者だ……? 〈黄昏の帝國トワイライト・アルカディア〉と言ったか? たかが人間族の国家ではなかったのか……?」


 彼は器用にも茫然としながら覇王の軍団と戦いつつ周囲にも気を配っていた。

 しかし分かったのはそこにいるのが人間だけではなく、多種多様な種族たちもいると言う現実であった。


「陛下に逆らう下種どもは無価値。慈悲はない。【黒の衝撃】」


 インサニアは右手を前に突き出して漆黒の奔流を撃ち出して周囲を薙ぎ払う。

 飲み込まれ、溺れた者の末路は漆黒化した虎狼族。

 彼らは狂乱して敵味方構わずに攻撃を開始する。


 敵軍は強過ぎると判断した虎狼族の戦士長は、ウラーヌス帝國の後継者で帝王が嫡男、ヴァルガスへ撤退するように進言するために場を離れようとした。


 こいつらはヤバい。ヤバ過ぎる存在だ。

 そう戦士長の直感が告げている。


「お姉ちゃん、何だか偉そうな人が来たよ……」

「そだねーじゃあボクたちが討ち取っちゃおうか?」


 彼の目の前に現れたのは瓜二つの顔をした人間族の子供であった。

 1人は蒼銀の髪と瞳を持ち、もう1人は淡い緋色の髪と瞳を持つ少女。

 ルリとルラである。


 2人とも両手に小太刀を携えており、その刀身までもが蒼色と緋色で妖しく光り輝いている。戦士長は流石に子供などには負けないと考えていたがその考えが甘かったと一瞬で理解させられることとなる。


「いっくよー! はいや! そいや!」


 そんな軽いノリで二刀流による斬撃を繰り出してくるが、攻撃が速過ぎてとても目で追えたものではない。


「じゃ、じゃあ僕も! えい! えい!」


 のんびりした口調とは裏腹に攻撃は鋭い上、その力は戦士長を軽くしのぐだろう。

 躱すことすら出来ずに彼は体を斬り刻まれていく。


 こいつら一体どれだけの強さなんだ。

 バケモンだ……俺たちが一体何をしたってんだ。

 帝王陛下をいきなり殺したキチガイ国家がこんな……。

 まさか最初から仕組まれていたと言うのか?

 交渉すると見せかけて周辺国家へ圧力を掛けるために?

 何と言う知恵者が――

 戦士長の頭の中ではそんな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。


 彼は気が付くと事切れていた。

 いつの時点で自分の命が尽きたのかすら理解できずに。


 守護者ガルディアンが参戦した瞬間にウラーヌス帝國軍は瓦解した。

 多くの者が討ち取られ、囚われの身となり、後継ぎのヴァルガスは数名の供廻りと共に帝城へと命からがら逃げきったのであった。


 平原は虎狼族の死体で埋め尽くされて、まさに死屍累々の状態。


 大地は抉れ地形までもが変わってしまった。


 風が運ぶのは強烈な死の臭い。


 その日、この大地は虎狼族の血を大量に吸い取り、あちこちに血だまりができる凄惨な地となった。



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虎狼族たちが取る道は?


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