(4)勝負開始
息巻いたアーサーがフィールドの前衛につく。
慎矢にも前衛に立ってもらい、礼司と代央は後衛につく。
フィールドの前に立つのが前衛、後ろに立つのが後衛。
どちらも二人ずつ配置される。
前衛の駒は自軍のフィールドの後ろに下がりすぎるとペナルティで二〇ダメージ。
後衛の駒は自軍のフィールドの奥にボールを落とすとペナルティで二〇ダメージ受けるという違いがある。
将吾も前衛に立っている。
最初に見た試合では後衛の隅っこで、味方がピンチになるまで動かい貫禄を見せていた。
今回は初めからやる気のようだ。
嫌いな人間が相手だからだろう。
全員が配置についたところでゲーム開始。
フィールドが光り輝いた。
この瞬間から、ゲーム不参加の駒はフィールド内に立ち入ることは出来ず、ゲーム参加者はゲーム終了までフィールドから出ることは出来ない。
フィールド中央の空からボールが落ちてくる。
先制攻撃の奪い合い。
最初にボールに触れた駒には体力値が一〇加算される。
ないよりマシなボーナスだ。
動いたのはやはりアーサーと将吾。
ちょうどいい高さまで落ちてきたボールを武器で打つ。
アーサーの剣と将吾の皮袋がほとんど同時にボールを打った。
アーサーは後方へ吹っ飛んだ。
背中を押さえられて食いとどまる。
「気をつけて、前衛の駒が後衛エリアまでさがるとペナルティだよ」
礼司の声。
「わかってる」
冷静に答えたつもりだったが動揺を隠していた。
初めてあんなに吹っ飛ばされた。
人の世では経験したことのない力だ。
観客にはアーサーが押し負けたと見えたようだが、ボールは将吾の後方へ飛んでギリスにヒットしていた。
ギリスに五〇ダメージ。
観客からはどよめきが聞こえ、将吾とその仲間は目を丸くして固まっていた。
将吾が打ち負けるなんて初めて見た、という反応だ。
二人の武器は同時に当たったように見えたが、アーサーの剣の方が速く、力の乗ったタイミングで当たり、将吾の武器を一瞬弾いて打ち勝った。
そのあとでアーサーは将吾の武器に当たって吹っ飛ばされたが、それはダメージにならない。
最初に打たれたボールが何かに当たるまで直接攻撃は無効。
ちょっとややこしいがここだけだ。
アーサーはプラス一〇の体力値を得た。
ボールは誰かに当たると一度消える。
そして攻撃権のあるパーティ……大抵ダメージを受けた方だが、その誰かが合図をするとそのパーティの頭上から降ってくる。
ギリスが体勢を立て直すと、将吾が武器を掲げて合図を出す。
宙からボールが現れて落下。
バウンドし高く跳ね上がった。
そのボールの下にメアリーが滑り込み、左手でトスを上げた。
素手でボールに触れるのは基本的にアウトだが、トスを上げるときだけ左手を使うことが許される。
続いて将吾がボールを打つ。
アーサーたちは守りを固めた。
将吾の攻撃。
「ブロック・ジャック!」
技名と共に岩が飛んできた。
慎矢は武器を横に構えて迎え撃った。
守りはあっさり破られ腹にぶち当たった。
「重痛ー!」
悲痛な声をあげて慎矢はその場に崩れ落ちた。
人間であれば大怪我どころじゃない一撃だ。
が、アーサーはすでに駒が人間ではないことを受け入れている。
慎矢、五〇ダメージ。
「大丈夫か?」
「ぐへえ……効いた……」
アーサーの声に答え、慎矢は元気なく立ち上がった。
岩となったボールは消えている。
慎矢の痛みも一瞬で消えたようだ。
慎矢が武器を掲げて合図を出す。
「こんにゃろ!」
落下するボールを怒りに任せて打った。
慎矢の攻撃。
将吾は手首を使って岩袋をひと振し、難なく弾いた。
弾かれたボールをアージャが石斧を使って打ち上げる。
将吾はボール下に立ち、皮袋を振りかぶった。
「ブロックジャック!」
再び将吾の攻撃。
ボールはさっきよりも一回り大きな岩となって飛んでくる。
狙われたアーサーは剣でそれを打ち返そうとした。
岩と剣がぶつかり合う。
重い一撃に後援エリアまで押し出されてしまった。
攻撃自体は防いだが、二〇のペナルティダメージ。
岩はボールに戻り前衛エリアをバウンドする。
礼司が左手でトスを上げた。
アーサーは動けずにいた。
剣を持つ手が震えている。
「衝撃で動けないのね。一ターン待てば治るわ……ということで私が打つ!」
代央が水晶ハンマーを構えて前に出た。
「ワンセカンド・フューチャー!」
代央の攻撃。
将吾もそうだが恥ずかしげもなく技名を叫ぶ。
ボールは透明な水晶玉となって飛んだ。
誰の目にも、一瞬ボールが消えたように見えただろう。
将吾のパーティも全員反応が遅れた。
ボールは相手の陣地の奥、ゴールマットに当たった。
ゴールマットにボールが当たるとその陣地の駒全員が二〇ダメージを受ける。
「よしっ」
代央は軽くガッツポーズを作る。
驚き混じりの歓声が聞こえた。
「なんだ? 今のワンセカンド……って」
将吾もそうだが
「一秒後の未来を占う一撃よ。攻撃を打った一秒後、結果が出る」
その占い意味あるのか。
それが占いなら俺だって占い師だよ。
いや、今はゲームに集中だ。ツッコミは封じた。
腕の痺れが取れてアーサーも動けるようになった。
体勢を整える合間に指示を出す。
「防御は礼司に任せた」
「ま、やってみよう」
相手のターン。
礼司が前に出る。
将吾の攻撃。
「分厚い本は鉄より固い!」
礼司は本を盾にして防いだ。
多少後退したがノーダメージ。
腕の痺れもないようだ。
「俺の武器は防御向きさ。攻撃は任せた」
そう言って礼司は後ろへ下がる。
「その本で殴られれば痛そうだけどな」
入れ代わりにそんな言葉をかわし、アーサーが前に出る。
慎矢が上げたトスを、打つ。
アーサーの攻撃。
ボールは三日月型の斬撃となって再びメアリーを狙う。
アージャが前に出て、代わりに攻撃を受けた。
アージャに五〇のダメージ。
防ごうと思えば防げない攻撃ではなかったはず。
「将吾以外は手応えないな」
アーサーは誰にともなくぼやいた。
「さすがは人間といったところか……」
背後で礼司も呟いた。
「駒ってこんなもんなのか?」
「公園は初心者向けのゲーム盤。実を言うと多くの駒のレベルが低く、遊技闘経験者の人間なら難なく勝てる相手ばかりだ。その中に置いて将吾の存在はスペシャルと言える」
その将吾は何故かじっと佇んでいる。
攻撃権はそちらにあるというのに、ボールを落とす合図を出さないのだ。
あまり放置しすぎると攻撃権はこちらに移る。
耐えかねたアージャが拳を掲げ合図を出す。
ボールが落ちてきて、手斧を使い将吾の手前に落とす。
将吾は何故か棒立ちしたままそれを無視した。
ボールは二度、三度とむなしく跳ねた。
攻めあぐねているのかだろうか。
攻撃しても礼司に防がれるから? だとしたら、将吾も大したことはない……とアーサーが思ったところで動きがあった。
「この武器は、軽い」
そう呟いた将吾は手にしていた皮袋を開いて、中に詰めていた石を捨てた。
ソフトボールくらいの石が十個ほど袋から出てきた。
足元に転がったそれらをフィールドの隅に蹴飛ばしながら、将吾はアーサーに向かってたずねた。
「こいつらが、大したことないと思っているか?」
メアリー、ギリス、アージャのことだ。
「まあ正直に言うと思ってる」
アーサーは頷いた。
「こいつらは役に立つ……俺が本気を出したときにな」
将吾の脅しめいたセリフにアーサーはわくついた。
反対にメアリー、ギリス、アージャの顔が強ばった。
「来い」
そう言って、将吾はアージャの腕を掴んだ……かと思うと、手にした皮袋を頭に被せて、全身を包み込んでしまった。
その場にいる大半の駒が驚いた。
将吾の行動を理解出来ずにいる。
さっきまでスイカほどのサイズだった皮袋は駒一人分の大きさに膨らんで、その中でアージャが暴れて抗っている。
将吾が袋を振り回すと、声にならない叫びが聞こえた。
「こいつはこれまでの軽い武器とは訳が違うぞ」
「軽そうにぶんまわしといてよく言える」
将吾とアーサーはそれだけ言葉を交わし、武器を構えた。
バウンドするボールを捉えて、メアリーが改めてトスを上げる。
「ブラックレイジー・ジャック!」
将吾の攻撃。
ボールは岩にこそ変化しなかったが、これまでにない速度で迫りアーサーの顔面を打ち抜いた。
アーサーはボール毎フィールドの奥へ吹っ飛び五〇ダメージ。
加えて後衛エリアまで退いたペナルティで二〇ダメージを受けた。
あまりに強烈な一撃にアーサーはその場に崩れ落ち、気を失った。
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