(3)第一戦
先ほど将吾が試合をしていたフィールドは今でも盛り上がっている。
そこではまた将吾がひと試合していた。
すぐに決着し、敗北した相手の駒二人を掲げて勝利ポーズを決めているところだ。
前の試合以上に悲惨な有り様だった。
敗北したパーティは軒並み倒れている。
そのやられようが痛々しくボロボロで、観客もどよめくほどだった。
将吾が掲げる駒のうちの一人に、アーサーは見覚えがあった。
共に盤上に降り立った友達の一人だ。
見習い戦士の服装に慎矢も気づいた。
「あれって一人は人間だよね?」
アーサーは無言で頷く。
「名前は?」
礼司が本を開いてたずねた。
「蒼沫」
こちらの存在に気づいた将吾が、こちらに向かってその蒼沫の体を投げ飛ばした。
明確な挑発行為だ。
アーサーの目の前に転がった蒼沫は呻き声をあげる。
起き上がろうとしたところでアーサーに気づいた。
「お前何やってんの?」
とアーサーは冷ややかにたずねる。
ここはゲームの世界。
人の世とは人間の扱いが違う。
だから友人がボロクソに負けてゴミのように扱われても同情はしない。
「負けちゃいました……」
蒼沫が気恥ずかしそうに笑う。
アーサーと同じ服装をしているが、目が違う。
代央はアーサーを強気な目と評したが、蒼沫の目は人懐っこい。
「強いパーティを作るために一番強そうな駒に声をかけたんだけどさ、『俺に勝てば仲間になってやる』っていうから挑んだ結果、このザマさ」
蒼沫の弁明をアーサーは鼻で笑った。
「最初っから贅沢な仲間を望むからだ。俺は全く望まなかったぜ?」
「今なんか引っ掛かりを感じた」
「結構望んでた気がするがね?」
慎矢と礼司が同時にぼやく。
蒼沫はまだ立ち上がれないでいた。
「随分ズタボロにされたようだが、痛いのか?」
「一瞬だけ痛い。ゲームの世界だからか、ぶっ飛ばされても、剣で斬られてもすぐに治る……のだが、体が動かない。あいつの攻撃はとにかく強力だ……仇、取ってくれるね?」
「イヤなタイミングで聞くな!」
アーサーは失笑した。
仇討ちには興味はないが断りにくい。
「友人の仇討ち、この盤上で最強の相手……主人公の戦いに相応しいシチュエーションじゃないか」
礼司まで期待の目を向けている。
「味方が相応しくない」
遠慮なく言うと、慎矢、礼司、代央はショックを受けた。
「いや、おたくらを仲間に選んだのは俺なんだけどな。ただ最強の相手を想定して選んだ訳じゃないから、みんなの意思を確認したいと思ったんだ」
「もちろん望むところさ。キミ自身が強ければ問題ない。味方が弱いってことは主人公の活躍が増えるじゃないか」
と礼司。
「私の勘占いによるとこのパーティでも勝てる……可能性はあるわ!」
と代央。勘なら言い切ってくれ。
「キミがやると言うなら僕もやるけど、僕がキミの立場ならやらないね」
と慎矢。兄弟子と比べて消極的だ。
「なんでだ?」
「初心者を倒して威張るような駒とは一緒に遊びたくな……」
最後まで言い切る前に、慎矢は背後の気配に気づいて言葉を止めた。
すぐそばに将吾が立っている。
「……聞こえたぞ」
威圧的な声と視線に慎矢は怖じけた。
「……って、礼司が言ってました!」
慎矢は礼司を指差して逃げようとした。
そんな茶番は意に介さず、将吾は慎矢の首根っこを掴んでフィールドの中に投げ入れた。
「対戦相手は決まった! フィールドに立て、人間!」
「俺かよ」
この流れの中で、将吾の敵意はアーサーに向いていた。
元々戦うつもりであったしそういう言葉を交わしていたのは確かだが腑に落ちない。
観客は声をあげて場を盛り上げた。
「お前連戦だけどいいのかよ?」
アーサーが聞くと、将吾は睨み付けて聞き返した。
「何の心配をしている? 疲れか? フィールドを使い続けることか?」
「じゃあ、両方」
将吾は鼻で笑った。
「お前ら人間と一緒にするな。駒は疲れたりはしない。そもそも先の試合でも俺は一切ダメージを受けていない。そしてフィールドは強い駒が優先的に使うことが出来る」
まだ納得しかねる。
「お前の仲間はどうだ? 見た感じいくらかダメージを受けているようだが……」
将吾の仲間の三人は土埃や切り傷がついている。
前の試合で見かけた剣士や狩人ではない。
味方が沢山いるということだろうか。
将吾はアーサーの問いに答えるように観客に向かって呼び掛けた。
「次の試合に参加したいものは入ってこい! 俺と組めば勝利を約束してやる!」
呼び掛けに答えて十数人の駒がフィールドに押し寄せる。
入れ替わりにこれまで将吾と共に戦っていた駒がフィールドから出ていった。
「駒は勝利を欲する。より多く戦い、多く勝利するほど強くなる。だから俺と組みたがる駒は多い。この観客全てが俺のパーティだ」
言い過ぎだとは思うが、将吾は本気で言っているとしか思えなかった。
遊技闘では最大で八人までのパーティを組める。
だがこちらが四人のパーティであることを確認すると将吾も自分のパーティが四人になるように選んだ。
将吾のパーティに選ばれたのは【格闘家】のギリス、【魔法戦士】のメアリー、【傭兵】のアージャという三人の駒だった。
「あっちは強そうな役職ばかりでいいな」
アーサーは仲間に配慮せず言った。
しかし礼司が異を唱える。
「非戦闘的な役職の駒が弱いとは限らない。駒は皆武器を持って生まれてくる。生まれながらの戦士だ」
「じゃあ、おたくらの実力にも期待していいんだな?」
今度は三人して黙りこくってしまった。
「まあいい。とにかく勝負は受けるぜ。この状況で断れば腰抜けだしな」
アーサー、礼司、代央もフィールドに入る。
入れ代わりに蒼沫と共に戦っていた駒たちは観客に引きずられてフィールドの外へ追い出された。
対戦することが決まってから将吾は言った。
「始めに言っておく。俺は人間が嫌いだ。この戦いで俺が勝った場合、お前に罰ゲームを与える!」
「それはフィールドに立つ前に言うべきことだろ」
「主人公、意外とマナーにうるさい……と」
アーサーが物申すと、礼司が本を開いて書き記す。
「どんな罰ゲームなんだよ?」
「今見せてやる。そこの敗者を使ってな」
将吾はフィールドの隅で動けずにいた蒼沫の胸ぐらを掴み、タオルのように振り回した。
そして十分に勢いがついたところで遠くへぶん投げた。
蒼沫は観客の頭上を飛び越えて広場の隅っこに設置された鉄網のゴミ箱に叩きつけられた。
頑丈なゴミ箱は微動だにせず鉄網の震える音を響かせた。
駒がぶん投げられるのは盤上でも珍しい光景なのか、慎矢たちも観客も驚いている。
「外したか。だが次は入れる」
将吾はアーサーを指差した。
罰ゲームとは、ゴミとして投げ捨てられることらしい。
「酷いことなさる」
と慎矢。
さすがのアーサーもここまでの仕打ちを受けた蒼沫には同情し、将吾に対して怒りも沸いた。
「てめえ……なんでそこまで人間を嫌う?」
「人間ってやつは駒を使い捨てにしやがるもんだ。そんなやつらは捨てられて当然なんだよ!」
思ったよりもまともな答えで納得しそうになる。
「そうなのか?」
と味方の三人に確認。
「そういうこともあるかもね」
「使い捨てられるのはイヤだけど、投げ捨てられるのも私はイヤ」
「駒だって目的のために人間を利用したりするんだからお互い様だよ」
慎矢、代央、礼司が順に答える。
「なるほどね……よし、ならお互い様ってことで、つべこべ言わずに始めようぜ!」
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