(5)罰ゲーム

……。


「勝負はついた」

 将吾の声でアーサーは目を覚ました。

 胸ぐらを掴まれ持ち上げられていた。

 慎矢も礼司も代央も地べたに這いつくばっている。

 全滅していた。

 蒼沫がそうだったように、アーサーも体が動かなくなっていた。

 抵抗は出来ない。

「約束の罰ゲームだ! 相応しいゲーム盤に送ってやるよ!」

 将吾が声をあげる。

 体を振り回され、目が回ると思う間もなく手を離された。

 ぐるりと回転し、公園の景色と空と地面が瞬く間に視界を過った……かと思うと鉄網のゴミ箱にぶつかり、中へ。

 ゴミ箱の中は暗く深いトンネルになっていて、アーサーは力なく落ちていった。

 公園の空があっという間に遠ざかっていく。

 完全に見えなくなったと思った瞬間、今度は一気に明るくなった。

 真っ白な空が目の前に広がって、数秒間落下を続けたあとにようやく墜落した。

 決して柔らかい地面じゃない。

 それどころかガタガタしている。

 が、衝撃ほどの痛みはなかった。

 駒の頑丈な体に感謝だ。

 ここはどこだ。

 動ける範囲で見回した。

 ゴミ箱と繋がっていたからといって、ただのごみ捨て場という訳じゃなさそうだ。

 玩具や家具、武器や防具が山と詰まれている。

 そんな山々が幾つもあり、地平線の先まで続いていた。

 地面にも隙間がないほど敷き詰められている。

 がらくたの世界。

 静かだった。

 完全な静寂と言ってもいい。

 起き上がろうとしてふらつき、アーサーは人形の山にもたれて座り込んだ。

 しばらく動けないか。

『あーあ、負けちゃったね』

 静寂の中、不思議な声が聞こえた。

 駒なら人間の声と同じように聞こえるが、そうは思えない。

『そしてここに捨てられた』

 また聞こえた。

 すぐ近くだ。

 いや、もう予想がつく。

「お前か?」

 目の前の侍姿の人形に話しかけた。

 魔法が存在するゲームの世界だ。

 人形が喋っても不思議じゃない。

 ただ、ここには山ほどの人形が捨てられていて、どいつが喋ったのかわからない。

 和服を着た人形、甲冑を着た人形、スーツを着た人形、他にも……。

 アーサーは無理矢理にでも起き上がり、逃げようとした。

『気づいたね。僕たち、元々は駒だった』

 兵隊人形が空気を震わさない静かな声で喋った。

『ゲームに負けて、ここに捨てられたのさ』

 今度は別の方向から、だるま人形が。

『捨てられて、私たちも逃げようとした』

『ところが無理なんだ』

『ここに捨てられたらゲームオーバーだ』

 所々から口々に、人形たちが喋りだす。

 アーサーの手が、作り物のおもちゃのように変化していった。

 恐怖よりも怒りで勢いづいて、立ち上がって叫んだ。

『ふざけるな! 一度負けたくらいでゲームオーバーになんて……』

 自分の声が人形の声に変わっていることに気づいて、アーサーは言葉を止めた。

 感覚が失われつつある足を必死で動かした。

『誰かいないかっ!』

 叫んだが、声は響かず静かなままだった。

『慎矢、礼司っ……代央!』

 がらくただらけで足場の悪い盤上を、棒のようになった足でがむしゃらに走る。

 長くは続かず、段差に躓き転んだ。

『蒼沫! 赤月……ニチカ!』

 声を絞り上げた。

『誰か、来い……俺はまだ戦える……』

 もう動かない。

 ゲームオーバー。


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