自称魔法使い×借金まみれ青年の同居生活【4-7】魔法のような日々の果て
感じることに精一杯になり、アレクセイに身を任せ始めると、腰を捕まれ、すぼまりにハマっていた楔を完全に抜かれ、また完全に収められる。それが、何度も何度も。気が狂うほど続けられる。
ズブッ。
ズボッ。
空気が穴に入り込んで、下品な音だってする。
それにツバサが興奮し、「あ、ああっ」と悲鳴を上げてしまう。
「そんな大声を上げて。絶対に、聞こえているぞ。むしろ、聞かれたいか?」
とツバサを軽く咎めてくるアレクセイの雄が、興奮してツバサの内部ではち切れるように膨らむのがわかる。
そろそろだ。
ツバサは汗ばむ彼の背中にしがみつく。
「んっ⋯⋯」
くぐもった声とともに、内部で弾ける熱い感覚。
「⋯⋯あ、あぁ」とツバサも彼だけが与えてくれる快楽に声を漏らす。
***
料理修行は月初めの恒例行事になった。
最初と終わりの土日を含む九日間で、最初の土曜と、最後の日曜は移動日。
日、月、火で初心者レベルのを。水曜日は休みで、木、金、土は中級、上級レベル。
最初の三日間だけ、最後の三日間だけ参加してもいいし、ぶっ続けでもいい。
宿泊費、食事代は込み。
金曜日はパンレッスンがあり、アレパン祭りに生徒も出品し、実際に売る経験をする。
最後の日曜の午前中は買い物だ。ツバサがゴン狐の家を回って集めてきた野菜や果物をアレパンを売る部屋で出品する。大野もそこで革小物を出品し、しっかり売り上げる。
この頃、ツバサは正式にアレクセイの助手となった。
日々は充実して流れていっていたが、悲しいこともあった。アールハウスの元大家、東出が亡くなったのだ。
ツバサは物凄く泣いた。
彼から色んなことを習ったからだ。
他人と上手く働けなかった頃、アールハウスの住人以外で最初に受け入れてくれたのは東出で、料理の師匠がアレクセイなら、彼は畑の師匠だった。
東出以外にもゴン狐は一人、二人と亡くなっていき、家は空き家になったり、貸し出されて移住者が越してきたりしている。
奥蓼科を気に入った若い夫婦が数組やってきてくれたのは、アールハウスが呼び水となっていると市役所から聞かされたときは、ここの生まれではないのに、とても誇らしい気分だった。
長期間で高額。受講者を選ぶアレクセイの料理修行が完全に軌道に乗り始めた頃、住民の二人が結婚。三人が出ていった。
最初に結婚したのは大野。なんと、狩り女子の一人と結婚し、東出の家を買い取って新婚生活をスタート。もしかしたら、近い内にこの村生まれの新住人が元気な産声を聞かせてくれるかもしれない。
もう一人はなんと篠。
アールハウスをアトリエとして使いたまに帰って来る彼は、
「オレ、結婚した」
と報告するやいきなり出ていった。
篠らしいといえば篠らしい去り方だった。
結婚相手は蓼科界隈で高級不動産を扱う社長の次女。
惚れ抜かれて、絵を一生描き続けることを条件に結婚を承諾したらしい。
そして、出ていった最後の一人は向井。
「居心地がよくて、予定の倍の年数、居ちゃったよ」と嬉しい言葉を残して去っていった。これからは修理屋をしながら全国各地を放浪し、木工製品が有名な土地では滞在を長くし腕を磨く予定だそうだ。
アレクセイと言えば、だいぶ有名になった。
それは、料理修行の講座を生徒から意見をもらうたびにアレクセイがマメに整え、きちんとしたものに変えていった努力が実を結んだから。
また、月初にしかやっていないというのも限定感があり、そこはツバサの狙い通り。
東京のスタジオで料理をしてくれという依頼も何回かあったが、こちらに撮影隊を送ってくれないなら無理だと断った。勿体ないが、ゆっくり進むというのがツバサとアレクセイの約束だ。
料理修行が終わった週は完全にアレクセイは休み。
山に行ったり畑仕事をしたりして、思いっきり好きなことをしてリフレッシュする。
怖い先生キャラだけど、本当は生徒に気を使ってクタクタなのだ。
翌週は、スポットの料理レッスンを数回と動画撮影。取材などもこの週に受ける。
最後の週は、次月の料理修行の準備と動画撮影。
このペースを掴むまでは大変だった。だが、アレクセイを扱うコツというか、彼の呼吸のタイミングのようなものが分かり始めると、すべてがいい感じで進み始めた。
ツバサは、アレクを世に出すためにインスタやエックス、ユーチューブを相当頑張った。
彼の顔は売れ、生徒の集客には最近では困らない。
念願のレシピ本も昨年出版した。
一冊目は料理初心者のツバサに外国人アレクが日本料理を教えるというもの。
動画のタイトルそのまま『初心者男子。セルビア人アレクから料理を習う』
今度、出版される二冊目は『奥蓼科在住。アレクさんの冷蔵庫』というタイトル。
アールハウスは今はシェアハウスの営業をやっていない。料理スタジオ兼宿泊施設となっている。
奥蓼科までやってきてくれたインタビューアーが、かつて大野や向井、鳥越が座っていたソファーで助手に聞いてくる。
「ツバサさんにとって、アレクさんとはどんな存在ですか?」
「公私ともにのパートナーでとても大切な人です」と言わせたいのは分かっている。だが、ツバサにはとっておきのセリフがあるのだ。
キッチンで料理に勤しむアレクセイが聞き耳を立てているのを感じながら、にっこり微笑んで答える。
「う~ん。そうですね。魔法使いみたいな人、かな」
End.
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ここでしか読めない 限定SSはピクシブ公開中。
さらに――
一人称で描かれる“完全版”の物語は
Kindle版『お願いを言え――そう言って、魔法使いは俺を抱いた』 で。
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