自称魔法使い×借金まみれ青年の同居生活【2-3】まだ知らない快楽の先へ
家に到着。買ってきた食材を冷蔵庫に入れるのを手伝ってから、
「疲れたから、部屋で休む」
と一声アレクセイにかける。
猛烈に身体がだるかった。
買い替えてもらった携帯をいじっているうちに、情けない気分になり、ざわめく心をやり過ごそうと丸まっているうちに眠っていた。
過眠も症状の一つだ。問題から逃避するように、眠ってしまう。
これじゃあ、東京にいたころと何も変わらない。
居場所は大きく動いたのに、周りにいる人間もガラリと変わったのに。
(東京に帰るために、ここで、しばらく頑張らないと)
遠くで襖が開く音がして、はっと目が覚める。
「ごめん。アレクセイ。夕飯の支度を手伝う」
「もう二十一時だ。皆、居間からはけた。食事にするか?」
夕食は、イオンで買ってきたキノコ数種が投入された豚肉、さつまいもが甘酸っぱくしたトマトソースで味付けされたものだった。
すべての食材がトマト色に染まっているが、てっぺんに刻みネギが散らされると彩り豊かになった。
「シーズンがそろそろ終わる紅さつまだ。ホクホクしていて甘みが強い。焼き芋によく使われる」
「さつまいもって、秋の終わりに収穫されるんだって思っていた」
「種類にもよるが九月から十一月下旬まで穫れる。すまん。品数が少なくて。今夜は他のおかずは売れてしまってな。新たに作ろうかとも思ったのだが、ツバサが起きるか分からなかったから」
「ごはんに具だくさんみそ汁に、さつまいもとキノコの料理で十分だよ」
電子レンジでチンされたコンビニ弁当と違って、身体も心も温まってくる。
「誰かに作ってもらった料理を食べられるのって、幸せなことなんだなあ」
「誰かじゃない。私だ」
「そこは余計なこと言わずに喜んでおけよ」
料理が乗った皿とご飯がよそわれたお茶碗を見つめる。
「た、大切にされているの、分かるよ、俺」
だが、席を立って味噌汁のおかわりを持ってこようとしていた自称魔法使いには聞こえなかったようだ。
「ツバサ、何て?」
と聞き返してくる。
二度も言えるかと、その質問を無視。
ツバサの中で小さい存在だった一夜限りの相手は、次第に大きくなりつつある。
今夜も温泉道具を持って連れ立って外に出る。
「今夜も星が綺麗だな。吸い込まれそうだ」
車は一台も通らない。
今日は、時折、きえーという女の悲鳴みたいな音が聞こえてくる。
びっくりして、アレクセイの腕を掴んでしまった。
「ただの鹿だ」
「あんな風に鳴くのか?」
そのまま、アレクセイが手を繋いでくる。
驚いて振りほどこうとすると、
「誰も見とらん」
「そうだけど」
嬉しい反面、胸がざわつくのだ。
(やっぱり、早く東京に戻ろう。絶対にその方がいい。なんとかして春ぐらいまでには)
温泉につき、大浴場の方で身体を洗う。
また入湯料を支払ってもらってしまった。情けない。
アレクセイが持ってきたシャンプーで髪を泡立てながら言った。
「まだ元気が戻らないな」
「そんなことない」
「ツバサ。私がお前の存在を知って助けたのは、偶然だ。でも、お前は私に頼ってもいいと思う」
「オヤジの息子だから?」
「近いが正解とはいえない。私は魔力を失ってこちらの世界に来ることになったとき、人と自分が同じ存在だと認められるようになるまで随分時間がかかった。これでも王子だったからな。次期、国を統治する者として育てられた。がらりと変わってしまった環境に自暴自棄になっていた私を支えてくれたのは龍三郎だった。恩を返したいが、彼はもういない。だから、息子のお前に返すとする」
「何だよ、それ」
こういう状況だから、ありがたい気持ちはある。
なのに、どうも納得できない。
厄介なことに、納得できない意味を言語化できない。
ストレスが小波となって心の中にたゆっている。
今夜はつっかけを盗まれることなく温泉から戻り、布団で寝ようとした。
温泉でできた小波は、横たわっていると大波になりそうな気分。
電気を消した部屋でツバサは起き上がる。
「アレクセイ。冷蔵庫に酒は入っていたりする?」
「東京の家を片付けたときに、アルコールの缶が大量にあった。もしかして、依存症なのか?」
「あれと眠剤の合わせ飲みが一番効くんだ。でも、眠剤は切らしているから。お願い。アレクセイ」
「一番駄目なやつだろ。来い」
アレクセイが布団の端をめくりあげた。
「⋯⋯いや、⋯⋯でもさ」
「いいから来い。今はあれこれ考えるな」
優しい命令に、助けを求めるみたいにそこに潜り込む。
急に身体を引きよせられ下半身がぶつかる。
腰をくの字にしてそれ以上の密着をなんとか避けた。
「尻だけ、布団から出ているぞ」
「ぶつかっちゃうだろ。バレてるだろうけど、俺の勃ってるんだ。東京いたときも、こうなっちゃうとオナるの止められなくて。すっきりするためのものじゃなく、不安解消の行為だって医者には言われた」
「質の良いまぐわいならどうなんだ?」
「わ⋯⋯かんない」
「どうせ眠れないなら、試してみるか?東京の晩も、抱いている内に落ち着いてきていたし」
「無理だろ。他の人、いるし。それに。潤滑液は?」
「無い。代わりのを持ってくる」
アレクセイが布団からさっと抜け出しいなくなる。
たったそれだけで半身を失った気分だ。
ツバサは丸まって、不安の大波に耐えながら彼を待った。
やがて、アレクセイが戻ってきて、枕元に使い捨てのアルミのおかず入れを置く。中に入っているのは、緑色の液体。
「高いオリーブオイルだ。貰い物」
「そんな情報いらないって」
再び布団に横たわったアレクセイは、ツバサのジャージの下とパンツを脱がせ、上のジャージも胸元まで上げる。
三重ほどに分厚くなった布地が邪魔だったのが、最後には「いっそのこと脱ぐか」と裸にされてしまった。
キスをされながら、乳首をいじられる。
「爪で弾いたら、取れそうなほど硬いなあ」なんて言われながら。
ワイパーみたいに右左されて、身体がくねるが、もう一方のアレクセイの手がツバサの後頭部に回り押さえているので、唇は外せない。
「東京での晩はなあ、ツバサはこんな風にされたがった。何度もねだられた」
「覚えがなっ⋯⋯」
口腔を優しく、乳首を少し激しく触られ続ける。
酸欠不足の少し手前まで来て、ツバサの尻の下に何枚か重ねたバスタオルが敷かれた。
ツバサは、用意するアレクセイの腕を掴んだ。
「どうした?」
「不安をなだめるために、尻をいじってもらうの、恥ずかしい、だけ」
「あの晩もそうやって、無自覚に煽ってきた」
指にオリーブオイルを付けたアレクセイは、ツバサの尻の穴にそれを塗り込んでいく。
「してな⋯⋯あ、んんん」
これ、誰の声?
え、自分?
まるでアレクセイの指を歓迎しているかのような、くぐもった嬌声。
彼の息が少し荒くなったのが分かった。
興奮しているんだ、俺に。
そう思うと、ツバサはさらに興奮してくる。
オリーブオイルが最初は尻穴周辺に。そして、次第に内部に。
昨晩、何度もアレクセイの雄を受け入れたそこは、
「まだ柔らかいっ」
「うん。そうだな。昨晩、さんざん、私のを入れたから。健気だったぞ、ツバサのここ」
ふざけんな、そんな言い方と言い返してやりたい。
だが、「んあっ、あああっ」と感じた声しか出せない。
指が本格的に入っていく。
出し入れは無く、それが少しもどかしい。欲しがるみたいに腰を揺すってしまった。
すると、奥の方を指の腹で撫でられる。
前の晩に知ったばかりの快感が、ゆっくりと蘇ってくる。
「待って。トイレ。トイレ、行きたいかも」
「痛くはないな?」
頷くと、キスが再開される。
「これ、何?」
「前立腺。ここを可愛がられるのは、以下同文」
「言い方っ。ん、ふっ。あん」
「静かに。喘ぐなら私の口の中でだ」
一人でしたことは何度も在る。
だが、これは、自分ではたどり着けなかった快感だ。
それが、アレクセイの指によって引き出されていると思うと、きゅうきゅうと彼の指を締め付けてしまう。
「ほら。お気に入りだろう?」
頷かせられた。
「気持ち、いい」
と素直に言うと、トントントントン。
「それ、い、っ。それ、いいっ」
そこを指の腹で叩いてもらえた。
乱れたことを褒められた気がして、泣き叫びたい気持ちになってくる。
「ん、ふ」
とアレクセイが笑っている。
「な⋯⋯に?」
「私は、ノーマルだったはずなのだ。だが、ツバサに嵌まってしまったようだ」
「俺がド変態みたいな言い方すんなよ」
「いじめて喜ぶ癖などなかったはずなんだがなあ。ほら、こんな風に言いたくなる。ツバサ、前立腺が腫れてきたのが分かるぞ」
さらには、円をかくように撫でられ、ツバサは言い返すタイミングを失った。
アレクセイの肩にしがみつく。
「どちらが好みだ?」
「りょ、うほっ」
「どちらかと言うと?」
「⋯⋯トントン、される、方」
アレクセイがリクエストに答えてくれる。
トントントントン、トントントントン。
単調なリズムなのに、「アレクセイ。これ、いいっ」とツバサは声を押さえきれなくなり、どんどん乱れていく。
「のようだなあ。腰が踊っている。尻の中で指を動かしていつまでも乱れる様子を見ていたい気分にもなるが、こうやって押さえつけて」
アレクセイがツバサの片腰を掴んでくる。
「動きを阻むのもいい」
「アレクセイの方が、ド変態じゃねえか」
「ハハッ。そうかもな。じゃあ、ツバサ。舌」
じゃあ、とは?
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