第3話



「頼むからもう一度郭嘉かくか殿と話をさせてくれ!

 黄巌こうがんと戦うことになったら魏軍にも必ず犠牲が出る!

 彼は戦うことを望んでいないんだ! 

 だからこれで犠牲が出たらそれは……必ず無駄な犠牲だということになる!

 郭嘉殿もそんなことは望んでいないはずだ!」



 徐庶じょしょの声だけが地下牢に響く。

 兵の気配が少し遠くにするが、こちらに来る様子はない。


「ここから出してくれ! 黄巌を無事に連れ戻したら、幾らでも牢に入れられても構わないから!」


 声は返らない。

 徐庶は牢の柵を握りしめて、無力を噛み締め、柵を叩いた。



「くそっ……!」


 

 どうにもならない。

 背を預け、窓も何も無い天井を見上げる。


風雅ふうが……」


 徐庶は両手で顔を覆った。


 数少ない友人さえ、救ってやれない。

 自分の存在理由を見失いそうだと彼はそこに力無く蹲った。



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