第19話

時を同じくして、夕食を食べ終わった二人。

琴子はふと外を眺める。

雲一つない空に月が浮かぶ。

庭にある池の水面には、月がまるで一枚の絵画のように静かに映り込んでいた。


「……今日は、月がとってもきれいね」


琴子の言葉に、颯は静かに頷く。


「そうだね。少し、外に出て話さない?」



二人が庭に出ると、少しだけ冷たい夜風が吹いた。

琴子は、隣にいる颯の気配がいつもよりずっと大きく感じられた。

しかし、颯は、いつもと違う、少し憂いを帯びた表情で、月を見上げていた。


「あのさ、琴子」


颯が、ゆっくりと琴子の方を向く。


「俺さ、実は3年前のあの時から、ずっと君のことが好きだったんだ」


彼の瞳が、月明かりを反射して、濃紺の宝石のように輝いていた。


「声をかける前に君に気づいて、楽しそうに展示品を眺めたり、説明する君から目が離せなかった」


琴子は驚き過ぎてその場に固まってしまった。


「あの時は禍術のおかげで君に話しかけられたんだよなぁ!……百戦錬磨の俺が話しかけるのも難しいなんて、笑っちゃうよね」

ちゃかす彼の声は、琴子には少し震えているように聞こえた。

「片思いなんてさ、俺、初めてだよ。」

颯の濃紺の瞳が琴子を捉える。


「俺は、君のことが……」


颯が、一歩、琴子に近づく。

琴子は目を逸らす。とてもまっすぐに見ることはできなかった。


颯がぐっと琴子の両腕を掴んだ。

優しく、力強く。琴子はさらに下を向く。



「琴子、こっちを見て」


颯のまっすぐな言葉が琴子を貫く。


ゆっくりと、顔を、上げる。


颯の、大好きだった推しの濃紺の瞳が、今はもう颯の瞳にすっかり変わってしまい、琴子の目に映る。


彼の濃紺の瞳に、頬を赤く染めた自分が映りこむ。




「好きだよ。」




颯の指が琴子の頬をなぞる。

ゆっくりと、唇に触れる。



琴子はもう自分がとろけて颯の一部になってしまうような感覚に包まれていた。




今夜は、やけに月が明るく、美しかった。


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