第20話 発覚

箱の結界が、ようやく砕け散った。


(相当な術だったわ)


結は式神を戻し、箱の前に正座した恐る恐る箱を開ける。


中には、古い手紙の束と、その下に小さな呪符が一枚入っていた。

手紙には解読できない文字が並ぶ。


結は呪符を手に取った。


「これは……」




思わず声が漏れる。

それは、禍術師が使う、禍符(かふ)だった。


禍々しい気配を放っている。


結には見慣れない複雑な紋様が刻まれていた。


(なぜ、禍符を……?)



結は震える手で胸を押さえた。




————禍術って習うんですか?————




颯の言葉が頭をよぎる。


結は嫌な予感が現実になるのを感じた。








————その頃、

琴子はもう颯の顔を一生見られないという風に下をうつむき、居間のソファに座る自分の膝を見つめていた。


颯はそんな琴子を見て、口を緩ませる。


「ごめんね、俺があんなこと言っちゃったから……」


颯はコーヒー豆の袋を開いた。ふわっと香ばしい香りが鼻に香る。


「いつまでも待つから、俺。ちょっと先走っちゃったな。黙っとけないタイプなんだよなぁ」

コーヒー豆を挽く音が響く。

「琴子が心を開けるようになるまで待ってる。」


琴子はいつも感じていた。

自分が壁を作ると、それはやはり他人にも壁に見えるのだということを子どもの頃から知っていた。


颯にもそれが伝わってしまっていたと思うと琴子は悲しかった。


「……ごめん、なさい……」

謝る琴子に、颯はコーヒーを渡した。


「いいんだ。あの、実は結さんから聞いたんだ。琴子の昔の友達のこと。とても……残念だったね。実はさ、俺も似たようなことというか、経験があるというか……」


はっと琴子は顔を上げる。明るく振る舞っていた颯にもいろんな過去があるのだと、どこかで聞いたセリフのような言葉が頭を駆ける。


「俺ね、姉さんがいたんだよね。」

颯が言葉に詰まる。

「すっごく大好きだったんだ。優しくて強くて、底抜けに明るくて。」

颯は思わず外を見る。月が白く輝き、庭の池を優しく照らす。

「ありきたりだけどさ、太陽みたいな人だった」


琴子は寂しそうな颯の瞳を見つめる。

「それがね、突然、失踪したんだ。もう17年になる。」

颯の両手が顔を覆った。声は震えている。

「姉さんがいなくなってから、うちは、陽の光を失ってしまったみたいだった。」

「そんなことがあったのね……」

颯の両手が離れると、その顔には笑顔が戻っていた。

「だから、俺、少しわかるんだよね。大切な人を失ってしまう気持ちが。だから、焦らなくていい。琴子がいつか俺のことを好きになってくれるまで、待つから」

その言葉に、琴子は恥ずかしそうにうなずいた。


「さあ、疲れているだろうから、もう部屋で休もうか」

「うん、そうする。私はお風呂に入るね」

「あぁ、そうか、うん。じゃあ、俺は先に部屋に戻るね」

「おやすみなさい」

「おやすみ」



颯は自分の部屋に向かって歩き出した。

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