第18話

いけないとはわかりつつも、結はこっそりと忍び込んだ。清園寺家の構造なら知り尽くしている。裏口から入れば、誰にも見つかることはない。廊下を曲がるたびに、幼い頃に琴子と隠れて遊んだ記憶が蘇る。迷路のように入り組んだ廊下、不気味な形をした木彫りの像が置かれた薄暗い部屋。


(ここだ、颯の部屋。)


綺麗に整理整頓された部屋は颯の性格を物語っていた。

普段はちゃらちゃらした格好で外出するが、家では綺麗な着物姿。

整えられた机の上、埃のない箪笥。


(素敵な王子様だわぁ。)


結は心の底から琴子を羨ましく思い、そして、あの気持ちのいい笑顔で笑う青年が、何かをひた隠しにしているとは信じたくはなかった。


(ここに何か、あるはず……)


結は、颯の部屋に何か手がかりがあるはずだと、引き出しを一つずつ開けていく。


下着や靴下、シャツなどが丁寧に畳まれている。

几帳面な一面に、結はまたしても胸がキュンとなった。


(くっそ~!こんな完璧な旦那様、羨ましいわい!)


結は自分の直感を信じたかった。

だが、胸騒ぎが止まらない。



奥の引き出しを開けると、そこには、古い手紙の束と、なぜか薄く結界が張られた古い箱が入っていた。



「破捨張界」


結が結界を解こうとするが微塵も揺るがない。

結はしばらく考え、颯の部屋いっぱいに結界を張った。

そして、付喪神を呼び出した。

開闢(かいびゃく)の式である。


「破却せよ」


そう命じると、開闢の式が瞬時に動き、箱の周りの結界に亀裂が入る。


結は震える右手を左手でぎゅっと握る。


結は、結界が破られたときに、大切なものを失ってしまう予感に襲われていた。

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