第21話
【生存者残り1,498名】
数分間――しかしそれは何時間にも感じられた――HenとLenaは倒れた木箱の山にもたれかかり、荒い呼吸を繰り返していた。
口にできたのは、拾った缶詰や乾いたビスケット、そして小さな一口ずつ飲む水だけ。
Lenaの手はまだ震えていたが、食べ物の温もりで少しずつ体が落ち着きを取り戻していく。
Henは膝に置いたグロックを見つめる。命を救い、同時に奪ってきた道具を確かめるように。
前触れもなく、ちらついていた灯りが再び安定した。
短い間だが、電力が戻ったらしい。青白く点滅するモニターたちが、この建物にはもう存在しないはずの「日常」のかけらを映し出す。
二人は急いで充電できるものを繋ぎ、即席の熱いコーヒーをもう一口飲み、息を整えた。
そして――
建物全体に響くスピーカーから、澄んだ、しかし一切の慈悲を欠いた声が降り注いだ。
「生存者の更新:現在、残り287名。これより最終局面を開始する。」
Henの世界が縮んだように感じた。1,498から287へ。
声は冷たく、まるで判決の予定を読み上げるかのように続いた。
「準決勝となるこの段階で、情報を提供する。よく聞け。準決勝はビルの最上階の一つ下で行われる。
――今から、有毒ガスが放出される。一階から始まり、順次上階へと広がっていく。
――注意せよ。準決勝に到達した者は、他の参加者を殺すことは許されない。もし殺そうとすれば即座に安全装置が作動し、即時に排除される。
――生き延び、最上階の一つ下まで到達せよ。幸運を祈る。」
その告知は、夜を貫く鉛のように重く降りかかった。
Henの背筋に冷気が走る。階ごとに迫り上がってくる毒――この建物そのものが炉となり、生存者を上へ追い詰めていく。
そして頂上では、逆説的な規則が待つ。「殺しは禁止」――破れば即死。
Maryの甲高い笑い声が、冷風のように彼の耳元で囁いた。
「面白いわね? 上がらなければならない。でも、上がれば殺す権利を奪われる。さあ、どこまで人間らしい衝動を抑えられるか、見せてちょうだい。」
Henは弾倉ケースの紐をきつく結び直した。
Lenaは深く息を吐き、リュックを背負い直す。彼を見つめるその瞳は答えを求めていたが、Henはただ無言で首を振った。考えるべきはルートだ――それも急いで。
思い出す。逃走の混乱で、彼らは階をいくつか下っていた。
つまり、毒は下から広がる。これは二つの意味を持つ。
――地上階の退路は真っ先に汚染される。
――最上階手前までの道は地獄の行軍となる。絶望した人々、死体で溢れる階層、罠のような廊下。
Henは計算した。
一直線に階段を登れば、群れが待ち受けているだろう。武器を探す者、狂気に落ちた者。
あるいは既にルートを封鎖して優位を狙う組織、弾薬目当てに殺戮を繰り返す略奪者。
「慎重に、少しずつ登るんだ。」
ついに彼は口を開いた。低く、だが確かな声で。
「今は無闇に走る時じゃない。弾を温存しろ。正面衝突は避ける。煙や騒音に紛れて位置を悟られるな。」
Lenaは小さく頷いた。
「もし他のグループと出会ったら? 通してくれなかったら?」
Henは銃を確かめ、ケースをコートの中へと滑らせた。まるで秘密を隠すように。
「できる限り言葉で説得する。撃つのは、死ぬか逃げられない時だけだ。
……もし誰かが俺たちを盾にして最上階手前まで行こうとしたら――それはもうどうにもできない。制御できるのは、自分たちの行動だけだ。」
Maryの声が、今度は甘く、しかし残酷に囁く。
「難しい選択が待っているわ。引き返せない時、お前が何になるか、よく見ておくのね。私が観察してあげる。」
二人は立ち上がった。
重いリュックがLenaの肩に食い込み、Henの腰の刃物がわずかに鳴る。
階段へ向かう一歩ごとに、スピーカーの声は遠ざかるようで、しかし運命は確実に迫っていた。
Henは扉の前で一度振り返った。
そこには死体が転がり、発電機に頼る灯りが明滅する部屋がある。
ほんの一瞬だけ、禁じられた思考が浮かぶ――「もし生き延びられたら、自分が誰であるかを忘れずにいたい。」
だが毒は待ってはくれない。建物という巨大な生物は、階ごとに彼らを呑み込もうとしていた。
Henは扉を押し開けた。Lenaが続く。
一段、また一段。二人の呼吸が冷たい鉄の階段に混ざる。
その踊り場一つひとつが、誰かの最後の選択となり得る。
【生存者残り287名】
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