第6話
【残り 4,348 人】
大学の廊下は闇に沈んでいた。
窓からは月の光さえ差し込まず、静寂を破るのは遠くから聞こえる悲鳴と、階下で響く足音だけだった。
ヘンはゆっくりと歩いた。
片手にはしっかりと銃を握り、もう片方の手には携帯の弱い光。
闇を裂くそのわずかな明かりが頼りだった。
影の一つひとつが生きているように見え、
半開きの扉は全てが罠のように思えた。
心臓は早鐘を打つ。
「安全な場所を探さないと…有利に立てる場所を…」
自分に言い聞かせるように呟いた、その時――
彼女が現れた。
メアリー。
いつもの不気味な気配を纏い、まるで壁を抜けてきたかのようにヘンの前に姿を見せた。
赤い瞳が闇に光った。
「まだ生きているのね、ヘン。良かったわ。」
混沌に似つかわしくないほど優しい微笑みを浮かべて。
「でも、その携帯は長く持たないわ。もっと確実なものが必要よ。」
ヘンは眉をひそめる。
「それで、何を提案するんだ?」
メアリーは首を傾げ、囁くように答える。
「この階の一番奥に…警備員が懐中電灯を置いていた休憩室があるわ。生き延びたいなら、そこへ行きなさい。」
返事をする前に、メアリーの姿は煙のように掻き消えた。
ヘンは深呼吸し、気持ちを整えようとした。
廊下を進む。携帯の光は足元数歩を照らすのがやっとで、いつ襲われてもおかしくない緊張が続いた。
その時――
階下から響いた。
悲鳴。
絶望に満ち、苦痛に溺れる声。
ヘンは目を閉じる。
「…殺し合いが、どんどん加速している…」
歩き続けたその瞬間、背後で大きな音がした。
扉が木っ端みじんに砕け、誰かが勢いよく放り出される。
反射的に振り返り、銃を構える。
目に飛び込んできた光景に血が凍った。
少女がもう一人の少女を押さえ込み、床に押し付けていた。
その手には光を反射するナイフ。
下敷きにされた少女は泣きながら声を絞り出した。
「た、助けて…お願い…助けて…!」
ヘンは銃口を向け、声を震わせながらも叫んだ。
「やめろ! 今すぐ離れろ!」
だが加害者は迷わなかった。
素早くナイフを振り下ろし、犠牲者の首を切り裂く。
鮮血が床を染めた。
ヘンは一瞬、動けなかった。
殺人者の狂気に満ちた瞳が彼を捕らえる。
その瞬間、ヘンの頭をよぎる。
「危険すぎる…ここで終わらせるしかない。」
引き金を引いた。
――バンッ!
だが相手は一枚上手だった。
まだ温もりの残る死体を盾にし、弾丸を受け止めたのだ。
血が飛び散り、廊下を赤く染める。
「…くそっ、こんな無駄撃ちしてる場合じゃない…!」
死体の陰から、女は獰猛な笑みを浮かべた。
まるで狩りを楽しむ獣のように。
「ここで戦えば死ぬ…逃げるしかない!」
ヘンは背を向け、走り出す。
響く自分の足音が、遠くの扉が閉まる音や叫び声と混ざり合う。
だが前方に影が二つ。
二人の学生が廊下に立っていた。
敵か味方かを確かめる暇はない。
ヘンは即座に横の扉に飛び込み、さっき殺人者が出てきた部屋に入る。
中を見た瞬間、胃が裏返る感覚に襲われた。
死体。
死体。
死体。
床は血に濡れ、机はひっくり返り、窓ガラスは砕け散っていた。
そこにいた学生たちは皆、残虐に殺されていた。
数分前に、怒りの嵐が吹き荒れたかのように。
金属の味が口いっぱいに広がる。
呼吸は乱れ、目は震える。
――これは、まだ序章にすぎない。
【残り 3,571 人】
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