第15話
「…………」
最深部に戻り、玉座にだらしなく座ったままわたしは沈黙を貫きます。今のわたしには、何一つ口に出せないまま黙ることしかできませんでした。
首を上に向け、最深部なのにやたら高くなっている天井を仰ぎます。上下左右派手に飛びまくって戦ってくださいということなのでしょうか。もっとも、今のわたしは玉座から一切動けないのですが。
「ご気分はいかがですか。魔王様」
「…………」
スリマ様の声掛けに、わたしは首を横に振ります。無言で従者の言葉を否定するって、まるで魔王みたいですね。
「まったく、勇者と戦う前に満身創痍になってどうすんのよ」
「あぁ…………うぅ……はぁ」
なんでリラ王女がわたしの前にいるんですかと言いたかったのですが、口を開くと言葉ではない何かが喉からあふれてしまいそうになるので息を吐くことしかできませんでした。……まさか恐怖ではない別の理由で吐きそうになるなんて、夢にも思っていなかったです。
「リラ王女から提案があるらしく、一時的に解放しております」
わたしが何を言おうとしたのか理解してくれたらしいスリマ様が説明してくださいました。提案とは何なのでしょうか。まさか帰りたいとかじゃないですよね。
「わたしも、勇者の人たちと戦うっていうのはどうかしら?」
どうかしら? と言われましても。
「……たたかえるんですか」
戦うお姫様というのも昨今珍しくはなくなっているようですが、別に魔法学校でも士官学校でもなさそうな学校に通っているお姫様が戦えるのかは疑問だったので何とか最低限の言葉を発して質問を投げかけました。
「ええ。剣術を嗜んでいてね、腕には自信があるのよ」
リラ王女はそう言って腰に着けていた鞘から剣を抜くと、目の前にあったわたしの食べかけのダイコンを一刀両断にしました。こうやって何かを斬るのって流行ってるんでしょうか。リラ王女はそのまま綺麗な断面ができたダイコンをひと齧りして――。
「うげぇ!? なんか雑巾みたいな味するんだけど!?」
叫びました。わたしはその雑巾みたいな味のやつをお腹が一杯になるまで食べたのですから、もっと同情してくれても良いのですよ。むしろしてください。
「えーっと、とにかく! 一度勇者と戦ってみたかったのよね、あたし。それに救うべき存在だと思っていた王女が実は敵でしたって展開、熱くないかしら!」
熱いですかね、それ。敵だと思っていた人が味方になったのならば熱くなるのもわかりますが、逆だと度肝を抜かれるだけじゃないですかね。
「決戦の前座の存在もまた王道と成り得ますが、魔王様、いかがいたしましょう」
「前座になんてさせないわよ。あたしが全て終わらせてあげる」
「それはいけません。勇者と魔王が最終決戦を行う。これは決定事項です」
「ふーん。だったら何? 上手い感じに苦戦させて、最後はやられろって言うの?」
「無論です」
「…………死なせず死なない程度に頑張る。それでいいわよね?」
「はい」
わたしが何か言う前に話がまとまってしまいました。リラ王女が勇者さんたちを斃してくださるのならわたし的には大歓迎なのですが、魔王的には大歓送なのでしょうね。
「…………お願いいたす」
苦しいせいで偉そうな言い方になってしまいました。まるで本物の魔王みたいですね。
「ま、あたしなりにやれるだけやってみるわよ」
リラ王女は剣を鞘にしまいつつ、わたしの顔を一瞥して言いました。
「では私は、僭越ながら魔王城に侵入するには倒さなければならない役をいたしましょう」
スリマ様がわたしに一礼しながらそう言いましたが、僭越ながらと言っていますけれど、そんな役回りでいいんでしょうか。
「三下の門番かと思いきや総大将だった――これもまた、王道と言えましょう」
……王道ですかね、それ。
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