第14話

 昼下がり、わたしはスリマ様に連れられて魔王城の裏庭にある畑へとやってきました。ちなみに畑を越えると崖があり、運命のいたずらか何かで足を滑らせると底の見えない奈落に落ちてしまいます。前々から思っていましたが、なんで魔王城はこうも危ないところにあるんでしょうか。こんなところくらいしか土地が空いていなかったのでしょうか。


「うぅ……」


 改めて畑を見ると、ステータスを上昇させる野菜が収穫を待ちわびているかのように頭に生えた葉っぱをいたるところでゆらゆらさせています。


「手当たり次第、引っこ抜いて食べましょう」

「……食べれば本当に強くなるんですよね?」


 今まで食べたこと自体はありますが、あまりにも美味しくなさすぎてろくに口にしていないので本当に食べるだけでステータスが上がって強くなるのか甚だ疑問ではあります。決して食べない理由付けをしている訳ではありません。決してありません。


「ええ。私自身で効果は実証済みです」


 スリマ様はそう言うと、手刀でその辺にあった大木を一薙ぎして切り倒しました。凄いですけど、今のパフォーマンスは果たして必要だったのでしょうかと、木片がぺちぺちと顔に当たる感触を感じながら思いました。


「という訳で、魔王様も食べましょう」

「えっと、そもそもどうしてこんなに生えてるんですか?」


 もう一度言いますが、決して食べるのを躊躇してしまい時間稼ぎをしているとかそういうのではありません。決してありません。


「あのおじさんが食べずに取っておいたからですよ」

「え、食べなかったんですか」

「『朕は何にも頼らぬ』と言って食べようとしませんでしたね。だから腰痛で隠居することになるんですよ」

「じゃあわたしも――」

「何も頼らずに勝てるとお思いですか?」

「……いいえ」


 ……やっぱり、食べないといけないんですよね。とりあえず足元にあるダイコンをひっこ抜きます。


「うぅ……」


 軽く土を払って、根本を一口。


「まっず!」


 ……これって、消化される前に吐いたら上がったステータスも全部リセットされるとか、そういうやつですよね。


 なんで魔王が、こんな拷問まがいなこと自分にしないといけないんでしょうか。わたしが弱いから? そうですよね……。


「……いただきます」


 もう一回、食べてみます。


「まっず!」

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