第3話

 そろそろ、戦いが終わった頃でしょうか。


 魔王城の一角にあるわたし以外誰もいない薄暗い書庫で、パーティー内のドロドロとした男女関係にヘトヘトになる勇者の物語を読み終えたわたしは本を閉じ、立ち上がりました。世界を救う前にパーティーの人間関係を救わなければならなくなってしまった勇者さんには涙を禁じえませんでした。


 目の下を指で拭いながら、はてさて勝者は誰になったのかしらと思考を巡らせてみます。恐らく将軍か幹部の誰かが勝ったのでしょうけれど、どうか優しい人であって欲しいです。


 ですが果たして優しい人が戦いに勝ち抜くことはできるのでしょうか。真に優しい方はきっと誰とも戦えずにあっさりとやられてしまうのではないかという考えが脳裏をよぎります。しかしわたし以外は全員戦う気満々でしたし、そもそも平和を愛するような心優しい人は魔王軍には存在していないだろうという結論に至ってしまいそうです。


 つまりは確定で次期魔王は恐ろしい方だということになりますね。でしたらせめて、景気づけに王都に真正面から攻め込んで王の首を取りに行こうとか言いださない人であって欲しいことを祈りつつ、最深部へと再び向かいます。


「失礼しまーす……」


 最深部へと辿り着いたわたしは、無造作に開かれていた扉を小さく押しつつ、小声で挨拶をしました。部屋の中はわたしの心臓の音まで聞こえるのではないかというほど、静寂に包まれていました。


「ようやく、勝者が姿を見せたようですね」


 部屋には当代の魔王様とスリマ様のお二人だけがいて、あれだけギチギチだった部屋がとてつもなく広く感じるほどにすっからかんになっていました。ところで勝者って一体誰なのでしょうか。間違ってもわたしではないでしょうし、姿を見せたようですねってスリマ様が言っているので透明化能力なんかを持っている方なのかもしれませんね。よくよく考えたら、周りが全員敵同士の状況での透明化ってめちゃくちゃ有効ですね。そういう方が生き残る可能性が一番高いのにも関わらず全く予想していませんでした。やっぱりわたしはいつまで経ってもダメダメの雑魚魔族みたいです。


「全く、全員死んでしまったのかと思ったぞ。そなた、名前は?」

「お嬢様、貴方ですよ」

「ふぇ?」


 魔王様がわたしを見てそう言ってきたので思わず変な声が出てしまいました。全く、次期魔王の方はなんていたずら好きな方なのでしょうか。


「今『ふぇ?』と言ったそなただ。そなたこそ、今回の決戦の勝者なのだぞ」


 え。


 まさか、まさかですよね。


「わ、わたし……ですか?」

「うむ」


 え。え。え。え。え。


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」

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