第2話

 魔王城の最深部――有り体に言うと、魔王様がいつも偉そうに座っている玉座のある部屋に、わたしを含めた魔王軍の魔物全員が集められていました。


 当然なのかもしれないですが、広々とした部屋にも関わらずギッチギチです。身動きが全く取れません。隣にいるなんか変な形の魔物さんからなんか変な変な匂いが漂ってきますし、斜め前にいるスライムさんなんて左右から押し潰されて縦にびよーんと伸びてしまっています。ちぎれてしまわないか心配です。


 ところでスライムってちぎれたらヒトデみたいにそのまま2匹になったりするんでしょうか。若干調べてみたくもなったりしますが、そんな話聞かないのでそんなことは無いのでしょうね。


 こんな状況の中にいると、もう少しいい場所に集めた方が良かったのではないかと不敬にも魔王様にそう言いたくなってしまいます。まあ、わたしのような雑魚魔族の言葉なんて、何があろうと魔王様の耳にも届くことは無いのでしょうけれど。


「皆の者、静まれ!」


 魔王軍の総大将であるスリマ様が玉座の前に立ち、わたしたちに向かって大きな声でそう呼び掛けた瞬間、騒がしかった部屋の中が一瞬にして静まり返りました。


「只今より魔王様がお話しになられる! 耳を澄ませ、一言たりとも聞き漏らすな!」


 そう言ってスリマ様が奥に捌けると、玉座に座る偉大なるお方――魔王様のお姿がわたしの視界にも入ってきました。まあ、なんとか背伸びをしてようやく顔が見えるか見えないかくらいですが。


「今日はよくここに集まってくれた。まずはそれに感謝する」


 静寂に包まれた空間の中、魔王様が発せられた第一声はわたしたちに対する感謝の言葉でした。やはり魔王様はわたしたちの王であると、改めて実感しました。


「そんなそなたたちに、ちんから頼みがある」


 魔王様直々の頼みとは、一体何なのでしょうか。わざわざ魔物を全員呼び出したということは、ついに人間の住処への進軍でしょうか。もしそうなのでしたら、わたしも雑魚魔物の分際ですが精一杯頑張らせていただく所存です。


「今ここでそなたたちの中から朕の後を継ぐ、次期魔王を決めたいと思う。最後まで生き残った者が勝者となる――バトルロイヤルでな」


 魔王様が言葉を発した数秒後、まるで爆発したかのような大歓声が魔王城の中を包み込みました。


 もし勝つことができれば、わたしも魔王に――! と周囲のテンションに引っ張られてちょっと思ってしまいましたが、よくよく考えてみたらわたしが勝ち抜ける道理は全くありませんでした。よくよく考えなくてもありませんでした。


「戦闘の舞台は先代魔王が勇者との決戦で使用した『冥界の銀河』とする。スリマ、道を開けよ」

「御意」


 魔王様に促されたスリマ様が宝玉の付いた杖をぐるぐると宙で振り回すと、それに応じるかのように玉座の空間に穴が開き、徐々に広がっていきました。


「この穴の先に『冥界の銀河』がある。ここに集い、朕にそなたたちの力を示せ」


 魔王様はわたしたちにそう言うと、スリマ様とともに大きく空いた穴の中に飛び込み、姿を消しました。


「俺たちも続くぞ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「次の魔王になるのは……僕だ」

「楽しみですよ。血で血を洗う死合いができそうで」

「父ちゃん、母ちゃん……俺、魔王になるから……!」

「プルルルルルッルウル」

「ぱろぱろぱろっぺぽぽろぱぱぱろっろっぴー」


 わたしの周りにいる魔物さんたちも、威勢よく続々と穴に向かって走り、飛び込んでいきました。次期魔王になりたいのか、皆さん凄いやる気ですね。


 ですがわたしは次期魔王になりたい訳ではないですし、なれるとも思っていません。それに仲間同士で戦うというのにも少し気が引けてしまいます。ですが他の皆さんはそう思っていないらしく、いつのまにか部屋に残っていたのはわたしだけになってしまっていました。どうしましょう。


 ……不戦敗でも、いいですよね。


 次の魔王様が誰になるのかはわかりませんが、わたしはただの下っ端としてその方に従う。それだけのことですから。


 戦いが終わるまで書庫で小説の続きでも読みに行きましょう。


 わたしはそう思い、空中に大きく空いた穴に背中を向けて、最深部を後にしたのでした。

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