第4話

「よもやエムリスの『ジ・エンド』を喰らってもこうも平然としていられているとはな」

「危うく私たちも危ない所でしたからね」

「なんせ『冥界の銀河』が崩壊しかけたからな」

「あぅ……」


 ジ・エンドって何なんですか。エムリス様(多分将軍の方です)は一体何をしたんですか。冥界の銀河はどうなっちゃったんですか。


「オリオンが『憤怒の挽歌』で一撃で数百人をたおしたのにも驚かされたぞ」

「あのまま決着が付いてしまう勢いでしたね」

「そしてそのオリオンを食い止めたのがヴァレリアンの『絶対防御』だったな」

「そしてそのヴァレリアンを打ち破ったのがジゼルの『瞬刻の黎明』でしたね」

「そして無双しかけたジゼルを刺したのがカイダの『ファンタスティック・ブラスト』。まさに素晴らしい爆破だったな」

「ええ。そして――」


 すごい戦いだったということはわかりましたけれど、正直もう全く話についていけてないです。なんか魔王様とスリマ様が知らない人の名前と知らない技名を言い続けていますが、最早誰が何をしたのか見当もつきません。ですがとりあえずわたしがその場にいたら間違いなく瞬殺されただろうなとは思いました。


「――そしてそれを打ち破ったのが、そなただというのか」

「この戦いに勝った者であれば、魔王軍は向こう数百年は安泰でしょうね」

「あの……その……」


 い、言わないと……。本当のことを、ちゃんと……。わたしが魔王になったところで、今日一日安泰なのかもわからないですから……。


「ごべんなざあああああああああああああああああい!」


 土下座しました。このまま首を斬りやすいように、それはもう丁寧に。


「じづば……ばだじ……だだがっでないんでずぅ……! ずっどじょごでぼんよんでで……もどっでぎだら……ごうなっでで……!」


 ぼやけた視界の中、震える喉で、必死に言葉を紡ぎます。


「だがらばだじ……まおうには……なれないんですぅ……!」


 コツコツと、床を踏み鳴らす足音がわたしの耳へと近づいてきます。


「そなた、名は何と言う?」


 足音が止むと、魔王様の穏やかな海のように凪いでいる声が頭上から届いてきました。


「ロベリア……です……」

「ロベリアよ。そなたが次期魔王となるのだ」

「だ、だけど……」

「他の者共は皆この戦いで死んでしまったからな。つまりはそなたこそが今、魔王軍で最強の存在なのだよ」


 え? でも……。


「スリマ様が……いるじゃないですか……」


 わたしなんかよりも総大将であるスリマ様の方がずっと強いのは自明の理です。だったらスリマ様が次期魔王になればいいだけの話なのではないでしょうか。


「私は魔王となる方にこの身を生涯捧げると誓った身……それ故、魔王にはなれないのです」

「強大な力を授けた代償として、自身が魔王になると死ぬ呪いを先代魔王に掛けられているのだ」

「そう、だったんですか……」


 魔王様がスリマ様が魔王になれない理由を詳しく説明してくれましたが、先代の魔王様はこうなる状況を予測していなかったんでしょうか。わたしなんかが魔王になってしまう未来を予想していなかったんでしょうか。していなかったんでしょうね。


「じゃ、じゃあ! 魔王様が引き続き魔王として……」

「朕もずっと玉座に座る毎日で腰痛が限界に達してしまった。このまま1週間後にやって来る勇者と戦ったところで不戦敗になってしまう」

「えぇ……」


 限界なら仕方ないですけど……ってちょっと待ってください。


「あの……今、なんて……?」

「数年前から腰痛がひどくてな。どんな治癒魔法を掛けても全く良くならないのだ」

「腰痛の方じゃなくて……えっと……」

「1週間後に来る勇者の話か? この地の東西南北に住まう地水火風の精霊の力を手に入れた勇者一行がここに攻め入る予定だという書簡が直々に届いてな。そのため可及的速やかに次期魔王を決めなければならなかったのだ」


 え。え。え。え。え。え。


「この城での彼らとの防衛戦が初陣となりますよ。ロベリア――いえ、次期魔王様」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」

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