第22話 届かぬ序列

「ん、やっほー」


大広間を後にした丙にニヤニヤと軽い口調で声をかけてきたのは癸のアンドロイド。10番目の「癸」の名を持つ十干の女児型アンドロイドだ。


「――――でさ、丙!勝手に姿消してここ1ヶ月どこに行ってたんだよ!ホント、幹部としての責任感がなさすぎてありえないんですけど〜」


ネコ顔でうねったピンクロングヘアが特徴の癸のアンドロイド。常にゴスロリ衣装を纏うキュートな印象の彼女だが、中身は人畜非道。


 戦闘能力は一般的なアンドロイドより高く、変わった戦い方をする為に今は幹部の地位にいるが、調子に乗りやすい性格が仇となってリーダーのイライザからはあまり気に入られてない。そして可愛い顔しているも本性は汚言ばかり吐き、人間を甚振ることを生き甲斐としている残虐非道なアンドロイドだ。


 そして、仲間に対しても見下したような生意気な態度ばかりを取る。丙にとって彼女はこの居心地の悪い亜人連合内で、1番目か2番目に苦手意識を持っていると過言でないほど嫌悪感を抱いている存在であった。


「別に…貴殿には関係のない事だ」


「…ふうん。関係ないねえ…。じゃあさ〜、今週”部屋送り”にした人間に新しい実験したいんだよね〜。ボ・ク。今日はてめえも一緒にどー?元老院のババアが、捕まえた反政府派の人間好きに使っていいって言ってたし、豚や牛の遺伝子を入れる遊びしちゃおっかな〜って思ってるんだけど…」


「フッ。こんな悪趣味な者と群れるなんてこちらから願い下げだ。この不細工が」


自重しようと思いつつも本心が口から漏れてしまった。すると、癸は下唇を噛みブチギレだした。


「…は?調子づいてんじゃねえぞっ!てめぇなんてそのカビ生えかけのガスマスクの下にブサイクなお顔があるんだろうがぁ!?だから顔見せれないんだろ~?ああん!?」


癸は、丙の年季の入ったボロボロの黒いマントを鷲掴んだ。


「さぞボロい体で、そこら中にサビやオイル汚れがごっそりこびりついてるんだろ?きったねえなあ!自称、祝祷の騎士さんよお!?そんな醜い身体をボク達に見せられない。恥ずかしくて仕方ないから。そうじゃないの〜?」


「さあな」


「はぐらかしてんじゃねえ!だったら見せやがれ!今すぐに!どこの馬の骨かも知らねえのに、イライザ様も許しているなんて…ずるいっ!ずるいんだよっ!どうしてイライザ様はあんなにお前を気に入っているんだ…!」


そう一言呟くと不満足そうに掴んでいたマントから手を離した。


「私も貴様のような雑魚と戯れている暇はない。そろそろ帰る」


「おい!ちょっと丙!まだ話が終わってねえって!」


「悪いな。貴様のような輩と話をしている時間があるのなら――――最近、骨の太いやつを見つけてな。そいつに構っていたほうが有意義だ」


 丙のアンドロイドは足早に会議室を後にした。


 生意気な口答えをする丙の態度に憤りを我慢できない癸は壁を思いっきり蹴った。


「きええっ!くそがーーーーっ!丙の野郎…今に見てろよ。ちょっと強いからって調子に乗りやがってーーーーー!あいつの脳核、ぶっ潰してやる!」


 会議室から出た丙はふと立ち止まり握っていた拳を開くとふふふと笑った。希望に満ち溢れた笑いなのか、絶望し、何かに半分諦めがついている笑いのか、それとも…。


 それは丙にしかわからない。

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