第20話 僕の知らぬもう一人の彼
亜人連合の話を聞いた後、包帯と絆創膏だらけの僕は帰宅しようと警察署のロビーへ向かった。
亜人連合か。天才業使いの僕が壊滅させた記念すべき第1号組織として相応しいだろう。
だが、僕は馬鹿だからレイが言っていた情報局とか元老院とか政治がどうだとか、糸のように絡み合った各々の思惑とか目的とか詳しいことはよく分からない。その複雑に絡んだ糸の1本は今日会った丙のアンドロイドのもので、あいつにもあいつなりの腹積もりがあるんだろう。
あいつって言葉足らずで変わったやつだし、あの場面で僕は殺されるかと思った。
だけど、本当は――――――。
「―――――ミナト!」
「ん?レイ?どうした?」
そんな事を考えながらエントランスホールから出ようとした時、彼は焦った顔をしてエレベーターから早足で降りてきた。
「帰る前に一つ聞きたいことがあってな。この前の郵便局での強盗事件の件なんだが…」
「あーあれか。何かあったのか?」
「いや、金澤の部下達は取り調べで他の奴らより刑を軽くしてくれってペラペラと喋ってるらしいよ。金澤はずっと黙秘しているがな」
「…そうなのか」
「でもな、一つ不可解な部分があったんだ。リーダーの金澤が使用していた銃の内部のパーツがバラバラになって使えない状態になっていた。まるで、神や仏かそれに近しい何かの力でそこだけが時を戻されているみたいに…」
すると、レイに鋭い獣のような瞳が宿った。無機物に宿ったその野性的な目はぎろりと僕を睨んでくる。
「―――――――あれ、お前がやったのか?お前、あの時”ガイアの業”たくさん使ってたでしょ?」
「…さあな」
カッコつけてあやふやな答えを返したが、心当たりは全く無かった。だが、あるとしたら能力を連発しているときにその一発が運よくヒットしたんだろう。
レイの話が本当ならば、こんなに強い能力を発動できたのは初めてだったな。銃のパーツを分解するなんて。僕の中にはまだ天地をひっくり返すような力が眠っているということを示唆しているんだろうか。
僕がそう言うと、レイは暗い顔をして「じゃあ、良いよ」と冷たく言葉を返しそのまま戻っていった。
やはり、レイはたまにおかしくなる時がある。流れる川のせせらぎのように冷たく、スッと過ぎ去っていくようなしおらしさ。
僕の知らない彼がまだ奥底に眠っているのかもしれない。
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