令嬢アミリアの憂雅な雨宿り
トッタネスカ
令嬢アミリアの憂雅な雨宿り
雨の音が屋根を叩いている。
「どうしたものかしら」
公園の休憩所で令嬢アミリアは一人座り込んでいた。すぐ帰るつもりで意気揚々と出かけたものの、予想外の大雨に降られてしまったのだ。
「嫌いなのよね、雨」
そう愚痴をこぼして唇をとがらせる
良くない事はいつだって雨の日に起こった。車で迎えに来てもらおうかしら。そう思い携帯に手をかけた時
「お姉さんも雨宿り?」
元気な高い声がした。
声のした方を見ると少女が休憩所の柱の横に立っていた。ビニールの長靴と綺麗に仕立てられた黒い洋服に、黄色い傘を持っている。
「そうね、雨宿り中よ。貴方も?」
「うん」
それだけ返事をして少女はアミリアの隣に座った。
「お姉さんいくつ?」
無邪気な質問が来た。アミリアは少しからかってみることにした。
「あーら
「れでぃに年をきくのはシツレイなんだよお姉さん」
「まあ!これは失礼しました」
雨は未だ降り止まない。
「お腹すいたなあ」
「クッキーならありましてよ。」
少女はクッキーに飛びつく
「あ美味しい、なんて言うのこのクッキー?」
「これはタナネキ通りのお菓子屋のクッキーですわ、十年前はもっと大きいものでしたわ」
「どれくらい?」
「確か私の顔くらいはありましたわね」
「どひゃあすげぇや」
少女は仰天した
アミリアは続ける
「でもどうしてこんなに小さくなったのかしら?」
「知らなーい、大きすぎて顎が外れた人が居るからとかじゃない?」
「ふふふ、そういうことかしら?」
他愛もない話が続き雨の音に彩られながら静かに時間は流れていく。
ふと1つの疑問が浮かんだ。
この少女はどこから来たのだろうか。
良く見ると傘と長靴は濡れていなかった
少女がぼやいた。
「私、雨嫌いなのよね。良くない事はいつだって雨の日に起こるの」
アミリアはハッとした
そうだ、あの日も土砂降りだった。
「私ね、お母様が死んじゃって丘の上の大き
な家に移ることになったの」
この子は私、10年前のあの日、母の葬式の日の
「お母様はとても優しくて、笑顔が可愛くて
貴女みたいな人だった。」
「⋯」
知っている
「雨のせいで土砂崩れに巻き込まれて、それで死んじゃったの。だから雨は大嫌い。」
「…そうね」
「でもね、今日お姉さんと会えてすごく楽しかったの。だから私、雨が少しだけ好きになれたかも」
「君は⋯」
「ありがとう、元気でね」
気がつくと少女は居なくなっていた
公園の土に足跡は無かった
雨が見せた幻だったのかはアミリアにはわからない
「こういう雨の日もあるものね」
そう呟いた。
雨が上がっていく
憂き雅な雨宿りは終わる
彼女はその場を去り
屋敷へ帰っていく
傘はもういらない
令嬢アミリアの憂雅な雨宿り トッタネスカ @tottanesca
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