23.衰退した技術

 海底都市は慌ただしい。都市から何人もの人魚が他の街に伝令として泳ぐ。世界の危機を知らせるために。


 冥月王が消えて1時間、日付が変わるまで7時間を切っていた。多くの学者が集められ過去7度の危機を調べ共通性を探す。次に起こる災いをある程度予測しようとしていた。


 海獣の大量発生。天才と云われた魔道師の反逆。なぞの伝染病の発生。…どこまでも共通性が見つからない。


 これらが冥界の王の眠るタイミングで起こるのは偶然としか思えない。しかし、タイミングは必然的だ。


 一方のソラはオトからこの世界の構造を習っていた。周りの騒がしさとは対象的に二人はまったりと座学を進めていた。


 ソラは長方形の木の机に肘をつき椅子に腰掛けている。オトはその前の黒板に文字を書く。その文字はソラのいた世界のものとは違ったが不思議と意味がわかった。


 オトはそれを理解して笑った。オトが言うには言語も本当は違うのだという。しかし、異界者はこの世界に来るときに魔法により読み書き、言語を理解できるようになっている。


「魔法…」


 ソラは呟く。その響きにわずかな期待を込めて。だが、オトが夢を壊す。


「魔法はほとんど衰退した技術なの。今はほとんど魔道具と言われる魔力のこもった道具を使う。

 人魚や人間自身が自在に魔法が使える時代は終わったわ」


 その言葉にソラは昔は使えたの?と聞く。オトが答える。


「大昔にね。魔道師の時代があった。

 でも、人間の自由な発想から生み出される魔法には際限がなく、一度世界に危機をもたらせた。

 それによって魔法を学ぶこと事態が禁忌となったわ。」


 オトは少し寂しそうな表情になる。


 オトは目の前にランプを用意する。そのランプの中で炎が揺れている。ランプのカバーを外しオトが手を差し出すと炎がその手に意思をもったようにのる。手のひらからは少し浮いて見える。


「その代わり魔道具が発達、火の魔法や水の魔法を道具を使って使うの。

 魔道具には魔力に上限があるから世界の危機までは訪れないってこと。」


 手のひらの上の炎に息を吹きかけると炎は勢いをました。大きくなった炎をオトは両手で伸ばす。まるでスライムのように姿を変える炎に

ソラは興奮する。


 目が輝き、手を伸ばす。オトはイタズラっぽく笑い、ダメダメというように指をふる。ランプにそっと炎を返す。ソラは少し膨れる。

 

「扱いが難しいものなの。注意して使わないと大火事になっちゃうんだから」


 ソラは抗議の目を向ける。オトは知らぬ顔だ。ソラは思い出す。


「ねえ、さっき言語も読み書きも魔法って言ったけどそれは誰が魔法を使ったの?禁忌なのに」


 オトは難しい顔をする。少し話が複雑になるかもと前置きする。


「この世界には、大魔道師っていう世界全体を統括する数人の魔道師がいる。秩序と平穏を守る為に。」 


 オトは遠くを眺める。


「でも、それは伝説に近い存在なの。例えば海の中で呼吸ができる、これも一人の大魔道師の偉業。この世界から陸地が消えたときに概念そのものを変える魔法を使った。」


 ソラは驚き聞き返す。


「陸地が消えた?この世界には陸がないの?」


 オトは一呼吸して答える。


「無い。大陸も無ければ島も無い。

 だから海中で暮らす術が必要だったの。」


 え?どうして?大陸が無いの?というソラの質問を予測してか、オトは首をふる。


「わからない。

 古代に大陸が存在した事実と消えたことを示す文献は見つかってる。その後大魔道師によって海中で呼吸ができるようになったことも。

 でも肝心の陸地が消えた謎は謎のまま。」


 ソラは少し頭を捻ったがすぐに考察をやめる。考えてもキリがないと思った。概念すら変える魔法がある世界の謎など到底自分には暴けない。


 異世界の果てしないロマンに夢と希望を持った方が健全だ。ソラは先ほどの疑問を思い出す。


「で?言語も読み書きも理解できるようになる魔法は誰が?」


 オトはチョークを持つ。黒板に楕円を上下に描く。2本の線でそれを結ぶ。円柱が現れる。円柱の上の楕円をチョークで指す。


「こっちがソラの元いた世界。そしてこのホールを通ってこちらの世界にくる。」


 円柱をなぞりながら下の楕円を指す。


「このホールを作ったのが転送魔道師。

長老の仮説では100年に一度、異界者を呼ぶために世界のどこかにこの穴が出現する魔法らしい。」


 オトは黒板の円柱をチョークで軽く叩く。白い粉が舞う。


「この転送魔道師が言語や読み書きの能力も付与してるらしいの。

 要は異界者へのサービスだね。」


 オトは歯を見せて笑う。ソラは納得するが、それならこの世界の歴史の知識も付与してほしいと思った。


 


 

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