15.この街が呼吸しているように
荘厳な神殿を中心に等間隔に家々が並ぶ。円の中心に神殿を置くように。統一感のある家々は白く四角い。真っ白というわけではなく、所々に藻の緑がアクセントとなっている。神殿からは十字に大きな通りが伸びている。
街の端に背の高い建物がある。時計台。その上階には、鐘がついている。見張り台の役目を果たしている。
定刻になれば、鐘がなる(正午と17時)。それ以外には街に異常があれば警鐘として鳴り響く。
オトからその説明をうけたソラは美しい鐘の音はこの街に似合いそうだと思った。幻想的な海底都市。心地よい鐘の音が正午を告げるために海中を揺らす。その光景を見てみたいなとソラは思った。
海面から勢いよく潜水してきた、人魚のオトとイルカのスズキさんは街の手前で減速しゆっくりと街に降り立った。スズキさんの背に乗るソラは辺りに目が泳ぎ、胸の鼓動が止まらない。高揚感。
遺跡郡のように見える海底都市に人々が行き交う。この街は生きている。海中の人々は、人魚だけでなく二足歩行の者もいる。
人々の周りを魚たちが泳ぐ。淡く発行するクラゲが海面からの光がわずかしか届かない海底で光源となっている。
赤や黄色に輝くクラゲもいるが、青白く淡く輝くものが最も多い。水中を漂う照明は現実と夢の境界をぼやけさせる。
ソラは思わず見入ってしまう。口元の力が抜け、息をするのも忘れる。星空を仰ぐように街中を漂うクラゲたちを目で追う。上下に漂うクラゲたちはこの街が呼吸しているように感じさせる。
オトはスズキさんに別れを告げる。スズキさんは一鳴きすると、光の射す海面の方へ優雅に泳いでいった。
「さて」と言ってオトが歩きだした。(といっても足のない彼女は地面すれすれを泳いでいるのだが…)ソラも後をつける。色々なことがありすぎて地面の感触に懐かしさすら覚える。
「どこに行くの?」
場所の名称を言われてもソラにはわからないかもしれないが形式的に質問をする。
後ろを歩くソラを振り返りオトは答える。
「神殿。潜ってくるときに見えたでしょ?この街で一番大きな建物。
あそこには長老さまがいるからあなたが〝元の世界〟に戻るための知恵を与えてくれるかもしれない。」
でも、その前に…とオトは言う。ちらりと、時計台の時刻を確認する。11時05分になるかならないかの所を針が指している。
「少し、早いけど昼食にしましょ。
お腹すいてるよね?」
そう言って首をかしげてソラの顔をのぞきこむ。問いかけとともに投げかけられる視線。その瞳の美しさにソラは堪らず目を逸らす。
「うん。」と小さく返事をする。その返事とは裏腹にソラのお腹の虫は大きく返事する。
オトは頷き、口角をあげる。
「よーし。じゃあ、お姉さんが奢ってあげる。安くておいしい!!そういう店知ってるから」
オトは右手をあげ出発の合図をする。そして、尾びれをふり進む。ソラは慌ててついていく。街にもどって安堵したのかオトは先程より活発な少女の印象になった。
そのとき、時計台の鐘の音が響きわたった。ソラが想像したよりずっと強く激しい音が不安を煽る。時計の針はまだ正午を指していなかった。
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