第32話 自分達にできることを
異世界生命の面々を連れてブースに戻ると、メリナは分かりやすく緊張していた。
「こちらが、我々クルーリ魔法具工房のブースです」
社長と会長の二人に、グヴァンが説明する。
「法人登記したのはほんの2ヶ月前ですが、前身の工房から数えれば数十年の歴史があります。ノウハウもしっかりしていて、それに裏打ちされた魔法具作りに自信を持っています」
「メリナ、商品を見せてくれ」
「あ、は、はいっ!」
グヴァンに振られて、メリナはとっさに魔法具を手に取った。
「こ、これがわたし達が作った魔法具です!」
ピンポン玉ほどの大きさの、銀色の球体。メリナの小さな手のひらに乗ったそれに、二人は関心を向ける。
「この魔法具は、戦場へ赴く兵士達のために作りました」
緊張しきりのメリナから、俺が説明を引き継いだ。
「じゃあ武器ですか? 爆弾とか?」
「いえ、武器ではありません。この魔法具を使うのは、兵士が命を落とした時です」
支払調査部の担当役員が首を傾げた。
「試してみましょう」
そう言って俺はメリナから、魔法具を受け取り、それをニワリアに差し出す。
「手に取ってみてください」
「待て待て。そのお方は帝国貴族だぞ。実演なら私が引き受けよう」
横から慌てて市長が口を挟むが、気にせず差し出す。
「魔法が仕込まれていても、すぐに対処します。構いませんよ」
ニワリアが魔法具を取る。
「それで、これは何の魔法具なんですか?」
説明を求める担当役員に、
「頭の部分にあるボタンを押してみてください」
球体の頂点にある円形のボタン。それをニワリアが押すと、球体から羽が飛び出す。
瞬間、周囲にいた護衛が一斉に懐から拳銃を抜くが、
「落ち着いてください」
物々しく張り詰めた空気の中で、ニワリアが制する。
浮き上がった魔法具は、ニワリアの手のひらの上に静かに着地する。そして、
『あー、お腹空いた』
ニワリアの声を紡いだ。
『朝ごはんもっと食べとくんだったなぁ。あの魚料理、夜も出ないかな。やっぱ貴族ってこういう時不利なんだよね。行儀良くしないといけないし』
「…………」
ニワリアは顔を真っ赤にして固まった。
「えっと……この魔法具は、心の声を転写して、再生することができます」
「なるほど……」
「社長が朝おっしゃってた愚痴そのままだ」
役員二人は感心してくれているから、良かったのだろうか。心の声を勝手に明かされたニワリアは、顔を真っ赤にしたままだ。
「それで、この魔法具はどういう時に使うんですか? 敵を拷問してる時とか?」
物騒な用途を例示する担当役員に、メリナは首を振った。
「兵士の方が亡くなられる時に使います」
「死ぬ時に?」
「亡くなられる直前の思いを汲み取って、戦地から指定された場所へ飛ぶんです。ご家族の待つお家とか」
それがこの魔法具の用途であり、メリナが病院で話を聞いた末に辿り着いた答えだった。
死に直面して吐露される、遺書には書けなかった思いを全て聞き出して、家族のもとへ届ける。そのために必要な機能を、この魔法具は全て備えている。
「この魔法具はオリハルコンで作ってある。だから魔族の攻撃を受けても壊れないよ」
レンが得意顔で断言し、そこへグヴァンが詳細な補足を加える。
「弊社での検証では、9200℃の熱と160トンの圧力を加えた後でも問題なく動作しました。いずれも、大陸の魔法を用いた検証です」
「そんな魔法を使える人が?」
「私がやりました」
ルクシアが手を挙げて名乗り出た。
「何なら今実践して見せましょうか?」
物騒なことを言って、また護衛達が殺気立つ。
「いや、結構」
断りを入れた担当役員に、今度はヘルヴェティカが横から言った。
「こちらの工房はドワーフが後ろ楯になってます。生産力なら、それこそバーグラーにも引けを取りませんよ」
「島のドワーフが一族として?」
「えぇそうです」
担当役員二人は感心しきりだ。
「あなたがそんなに肩入れするなんて、珍しいですね」
やっと顔色が元に戻ったニワリアが、咳払いをしてから言った。
「それだけの技術力を見せてもらいましたから」
銀行員が味方についてくれていると、こんなに心強いものなのか。感謝しきれない。
「どうして死んだ後に使う魔法具を作ろうと?」
メリナの方を向いたニワリアが訊いた。
「わたし達にできることをやろうと思いました」
メリナは緊張気味に答えた。
「遺書には書けない本音を届けることが、わたし達にできることだと思いました。武器や防具を作るよりも、そういう魔法具を作った方が、兵士の人達の役に立てると思ったんです」
「後ろ向きな考え方ですね」
ニワリアは少し呆れたように言って、静かに笑った。
「皆様、そろそろ次の企業をご紹介しましょう!」
商工会議所の人達が、痺れを切らして割り込んだ。
「どんなものかはおおよそ分かりました。ありがとうございます」
ニワリアはそう言って、サンプルをテーブルに置いた。
「社長!」
テーブルにサンプルを置いて、去っていこうとする一行を呼び止めた。
「良かったらこれ、受け取ってください」
俺は球体を差し出した。魔法具の最初の試作品だ。耐久性がまるで足りない失敗作。それでもこの人に渡さなければ。
「控え室で中身を聞いていただけると幸いです」
ニワリアの目を見て言う。困り顔のまま笑って、
「ありがとうございます」
受け取ってくれた。
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