第33話 出来レースの果てに
クルーリ魔法具工房のブースに人が来たのは、異世界生命の面々を連れてきた時の最初だけ。それからはまるで村八分にでもされているかのように誰も近寄ろうとはしなかった。
大企業を相手に係争中の企業とは関わりたくないのだろう。
退屈な時間が過ぎていき、それから夕方になって、広場の奥に設営されたステージで閉会式が行われた。
市長の閉会のあいさつに続いて、市長を中心とした運営委員会が選出した大賞受賞者が発表される。ここで選ばれれば、主催の異世界生命との契約が確約される。俺達としては何としてもここに選んでほしいところだ。
『それではお待ちかねの、大賞を発表していきます!』
司会のハツラツとした声が、拡声器を通して広場に響く。
『まず優秀賞は、パンジー工業!』
遠くから歓声が届いた。疎らな拍手に、俺も倣う。
『続いて最優秀賞、ヴェルテビア製造所!』
ここまで大企業ばかり。予定調和のような周りの拍手に、嫌な胸騒ぎがした。
『そして大賞は文句無し! バーグラー商会です!』
嫌な予感の通り、バーグラーの名前が呼ばれると、ブースの方から歓声が上がった。
というか、三つとも市長達が案内していた大企業だ。これが出来レースじゃなければ何だというのか。
『受賞された三社には、今後協賛企業である異世界生命保険相互会社様と契約していただきます。おめでとうございます!』
肩を落とすメリナ。唇を噛むレン。憤りに顔を赤くするグヴァン。みんな一様に悔しがっている。
「こんなのおかしいですよ」
俺も我慢できなかった。
「出来レースじゃないですか。そうでしょ、グヴァンさん」
「あぁ。街が推したい企業に賞をやっただけだ」
歯を剥いて悔しがるグヴァン。
『それではこれより、授賞式を執り行います』
壇上にはアルフレートをはじめ、三社の代表達が上がっている。一人ずつ市長からトロフィーを受け取り、これ見よがしに掲げる。
悔しさとやるせなさを圧し殺して、メリナのもとへ向かう。今にも泣き出しそうな彼女の肩に、そっと手を置く。
『それでは最後に、協賛企業の異世界生命保険相互会社様から、お言葉をちょうだいしたいと思います』
市長がそう言って、舞台袖から女性が出てくる。社長のニワリアだ。
『本日はありがとうございました。どの企業も工夫を凝らした魔法具を作られていて、大変興味深く拝見させていただきました』
市長から受け取ったマイクで、ニワリアは語る。
『さて、異世界生命保険相互会社では、昨今の大陸の政治的緊張の高まりと魔族の活発化により、職員および資産の保護が喫緊の課題となっています。そのような情勢下、受賞された三社を始め、多くの企業の魔法具に、そうした課題に対抗しうる可能性を見出だすことができました。その中で、ぜひとも弊社にお力添えをいただきたいと思う企業がございましたので、この場を借りてお伝えさせていただきます。クルーリ魔法具工房様です』
「……え?」
メリナが顔を上げて、俺と目が合った。ざわつく広場に、ニワリアの声がなおも響く。
『クルーリ魔法具工房様が開発された魔法具は、先ほど申し上げた業務に従事する全ての職員に大きな利益をもたらしてくれるものであると考えています。前線に赴く職員にとって、自らの最期の思いを伝える手段が与えられるということは、せめてもの慰めになるとともに、彼らから未練を残す恐怖を払拭してくれる一助となると思っています』
「わ、私達のことですよね?」
ルクシアが訊いてきた。
「あ、うん……ですよね?」
「そのはずだ。間違いない」
「や、やりました……やりました!」
呆気に取られる中で、メリナが抱きついてきた。
『このように言うと、職員が死ぬことを前提に考えた弱気な発言に聞こえるかもしれません。しかし、これは厳然たる事実です。前線に立つ者は死ぬのです。そこに出自や種族は関係ありません。どんなに強力な武器を与えようと、どんなに堅牢な防具をまとわせようと、死ぬ時は死にます。その時彼らに与えられるべきなのは、勲章と保険金だけではないはずです。最期に自分の思いを遺す機会こそ必要なのです。クルーリ魔法具工房様は、その機会を私達に与えてくださった。そのことを前線で戦った者として、敬意と感謝を伝えたいと思います』
手放しの称賛だった。まっすぐにステージの上から俺達を見つめてくるニワリアに、俺は感極まった。
「やりましたよショートさん! やりました!」
涙を流しながら、声を震わせるメリナ。
「やりましたね、メリナさん」
震える声で応じて、肩を抱いてあげた。
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