第31話 記念大会

 記念大会ことヴェルテビア解放記念大会は、街の中央にある大広場で開催される。


 100年の歴史を誇るこのイベントは、大会と銘打たれてこそいるが、実際には見本市だ。企業も個人も参加自由で、展示会と同じく賞も用意されている。


 この記念大会には例年、協賛企業が受賞した商品と契約を結ぶことができるという慣例があるらしい。


 となれば、俺達の目標は受賞に決まった。


「こんなもんだな」


 設営作業を終えたグヴァンのレンは、互いに納得したようにうなずき合った。


 貸し出されたテーブルには新商品をサンプルと一緒に置いてある。たったこれだけの簡素なスペースだが、今回売り込みたいのはこの新商品だけだから、これで問題はない。


「設営なんて久しぶりにやったぞ。初心を思い出すな」


「早起きしてきたら眠いや。メリナ、ちょっと寝てて良い?」


「うん。ありがと、レンちゃん!」


 仮眠をとろうと、横たわるレン。そこへルクシアが余計なことを言った。


「今度からメリナさんの家に泊まれば良いんじゃないですか? 昨日一部屋空きましたし」


「え? どういうこと?」


「そりゃもうあれですよ。アタックチャーンス!」


「マジ!?」


「おー! 何だショート、ついにか!」


 眠気が吹き飛んだらしく、すっとんきょうな声をあげるレン。グヴァンも感心したようにうなずいた。


 心配してメリナの方へ目をやると、やはり顔を真っ赤にしていた。


「おい、やることやったんだったらちゃんと責任取れよな?」


 飛び起きたレンが詰め寄ってくる。


「そりゃ取るに決まってるだろう。ショートはそんな無責任じゃないぞ」


 グヴァンは擁護する風に見せかけて圧力をかけてくる。


「分かってますよ!」


 俺だってそんな無責任なことはしない。最後までメリナと一緒にいるつもりだし、今日だって絶対に負けない。


 決意を新たにしたところで、広場の正面入り口が騒がしさを増した。どうやら主催者がやってきたらしい。


「グヴァンさん、異世界生命の人が誰か、分かりますか?」


「そりゃもちろん。連れてきてやろうか?」


「僕も行きます。営業には開発担当者も同行しないと」


 製品仕様を説明できるのは俺とメリナだけ。メリナにはここで待っていてもらって、俺が簡単に説明して惹き付ける役割を担いたい。


「分かった、行こう」


 グヴァンに先導されて、俺は主催者達のもとへ向かった。


 記念大会で主催が実際に目にするブースは限られる。グヴァン曰く、視察先に先導するのはヴェルテビアの市長や商工会の偉いさんたちで、大抵は大企業を見せるだけで時間を使いきってしまうのだという。


 となれば、待っていても俺達のブースには来てくれないだろう。


「いやはや、社長自らお越しいただけるとは、光栄です」


 俺達の10倍近いスペースを確保しているバーグラーのブースで、アルフレートが恭しく礼をしている。


 人当たりの良い紳士的な態度のアルフレート。その向かいに立つ黒髪の女性が、俺達の目当ての人物だと、グヴァンが耳打ちしてくれた。


「あれが社長のニワリア・ファルネーゼだ。初代社長のひ孫で、今は公爵令嬢だな」


「辺境伯じゃなかったでしたっけ?」


「そりゃ会社が持ってる爵位だ。彼女は公爵の一人娘なんだよ」


 貴族制度はよく分からないが、とんでもない特権階級が来たということだけは分かった。


「で、周りにいるのが営業と支払調査部の担当役員達だ。営業部長とは面識がある。そこから攻めるか」


 グヴァンが皮算用をするのを尻目に、アルフレート達は魔法具の紹介を始める。


「こちらをご覧ください。社長の眼鏡に適う魔法具です」


 アルフレートが自信満々に持ち出したのは、鉄製の盾だ。アルフレートの胴体ほどはある大きな盾で、それを持っているのが筋骨隆々な大男な辺り、重量もそれなりだろう。


「この盾は、如何なる魔法や魔族の攻撃も吸収することができます。魔族討伐の任に赴かれる支払調査部の皆様の身の安全を守るには、最適な防具となるでしょう」


 グヴァンの見立て通り。少なくともバーグラーは、俺達と同じ考えでアプローチしてきた。


「それはすごいですね」


 社長は無関心そうな表情のまま相槌を打った。


「重量は19キロです。この手の盾としては破格の軽さかと」


「そうなんですか。良いですね」


「ありがとうございます」


 アルフレートは自信を滲ませた笑みで頭を下げた。


「バーグラーさんは、この街でも指折りの企業です。魔法具においては、国内でも間違いなくトップですよ」


 そこへ壮年の男が二人の女性に言った。市長だ。


「賞はバーグラーにやるつもりだな」


 グヴァンが歯を剥いて呟いた。大方そんなところだろうとは思っていたが、出来レースというわけだ。


 俺は悔しくてならなかった。


「あの!」


 堪らず声をあげると、その場にいた全員が一斉に顔を向けてくる。怯んだ俺に代わって、グヴァンが声を繋げてくれた。


「お久しぶりです、部長。うちの製品も見てくれませんか? 異世界生命さんのために、とっておきの魔法具を作ったんです」


「知り合いですか?」


 グヴァンが挨拶をした営業部長に、ニワリアが顔を向ける。


「バーグラーさんの営業責任者です。以前ヴィンジアの支社にいらっしゃったので、その時にお世話になりまして」


「そうなんですか」


「誰かと思えば、泥棒のクルーリじゃないか」


 興味のなさそうな相槌。そこへアルフレートが咎めるように言った。


「泥棒?」


「えぇ、そうです。グヴァンは今、新興企業に勤めてましてね。そこが目先の利益のために弊社の特許を侵害したんですよ」


「はあ……」


「私としても残念ですよ。この街からそんな卑劣な企業が出てきたなんてね」


「ちが……!」


 弁明をしないと、見に来てもらえなくなる。困り顔を見せる社長と役員達に焦って声をかけようとしたところへ、


「特許訴訟はまだ係争中だったと記憶しています。決めつけるのは感心できませんね」


 人混みから、ヘルヴェティカが現れた。いつもの笑みを張りつけて、異世界生命の面々のもとへ向かっていく。


「ご無沙汰しています、皆さん」


 ヘルヴェティカはニワリア達に恭しく一礼する。


「特許侵害は事実ですよ。ヴィンジア勧業銀行ともあろうお方が、公明正大さを失われるのはいかがなものでしょうか」


「公明正大に見るなら、係争中だからと無関係の魔法具をまともに評価しないのもおかしな話でしょう」


 アルフレートの方へは向き直りもせず、ヘルヴェティカは俺達の方へ顔を向けた。


「いかがです? 5分ほどでも彼らの魔法具を見てみては?」


「あなたがそんなに推すなんて珍しいですね。それほど良いものを作っているのですか?」


「保証しますよ」


「そこまで言うなら、見ましょう。案内していただけますか?」


 ニワリアは俺とグヴァンの方へ関心を戻した。

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