第21話 次なる大陸へ

クラーケン討伐という大仕事と大宴会を終え、出発を決意する。

市場でちょっとしたものの買い足しをして港に向かうと、すれ違う船員たちから、

「勇者様、ありがとうございました」

「おかげで助かりましたぜ」

というような声を掛けられた。

「いやぁ。人の役に立つっていいもんだな」

「うん。なんか気持ちいいよね」

「ええ。これこそ勇者パーティーの務めという感じがしますわ」

とニコニコしながら話すみんなと一緒に港にある客船の手配所に向かう。

向こうの大陸に渡る客船の乗船券を買おうと思ったが、そこはけっこうな人で混雑していた。

「ここ二、三日船が止まってたからな。おそらくその影響だろう」

「ああ。このぶんじゃ三等客室までいっぱいだろうな」

「そっかー。あれは地味にキツいから、できれば二等以上の個室付きがいいんだけど」

「しょうがない。少し落ち着くまで待つか」

と諦めて手配所を出る。

そして港を歩いていると、また、

「勇者様、この間はありがとうごぜぇました!」

と野太い声を掛けられた。

「おう。たいしたことじゃないぜ」

とアレンが気さくに応じる。

するとその声を掛けてきたやたらとごつくて髭モジャのオヤジが、

「手配所から出てこられやしたが、船をお探しだったんですかい?」

と言ってきた。

「ああ。向こうの大陸までの乗船券を買いにな。でも、いっぱいだから諦めたよ」

「ああ。ここ二、三日は混むでしょうな。お急ぎですかい?」

「いや、特に急ぎってことはないけどよ。出来れば快適に旅をしたいから個室付きの二等以上の船室が空くまで待とうってことにしたんだ」

「なるほど。そうだったんですね。それならうちの船なんてどうです? 貨物船ですが、ちゃんとした個室も付いてますし、客船より速いですよ」

「ありがたいが、いいのか?」

「ええ。他ならねぇ勇者様のお困りごとなんですから、協力させてくだせぇ」

「すまねぇな。恩に着るぜ」

とその場でその貨物船に乗り込むことが決まる。

私は、

(これも勇者の引きの良さってやつか?)

と苦笑いしつつ、そのごつい船員と握手を交わしているアレンを眺めた。

翌日。

さっそくその貨物船に乗り込む。

昨日声を掛けてきたごつい男は船長だったようで、名をゴードンと名乗った。

「いやぁ、勇者様ご一行の旅の手助けができるなんて末代までの誇りでさぁ」

「ははは。そんなたいそうなことじゃないだろう」

「いえいえ。帰ったら娘に話して聞かせます。きっと喜びますよ」

「あら。娘さんがいらっしゃるの? じゃあ、あとでおまじないを封じた髪飾りを差し上げますわ。せめてものお礼にお受け取りください」

「え? いいんですかい? 聖女様のお守りなんてお貴族様しか持てねぇんじゃ……」

「そんなことないぞ。昔は行く先々で子供らに配っていたからな。遠慮なくもらってくれ」

「ありがてぇことです。では安全第一で向かわせてもらいます!」

と挨拶が済んだところでさっそく出航する。

ゆっくりと港の中を進む船から港町を見ると、そこには大勢の人が楽しそうに働く姿があった。

「この町の平和が守れてよかったですわね」

「ああ。まったくだ」

「ここいい町だったからまた来ようぜ」

「うん。今度は牡蠣の時期にしようよ」

と話して感慨深くその風景を見ていたが、徐々に港の景色が小さくなっていく。

やがて船は港を出ていき、大海原を進み始めた。

船旅は順調に進んでいく。

向こうの大陸に着くまでおおよそ十日。

「風の状況にもよりますから、なんとも言えませんが、そのくらいを見込んでおいてください」

と言われたので、私は時折帆に風を送って船の進行を助けてやった。

そんな旅が五日ほど続き、ミリエラの料理が評判を得たり、アレンがカードゲームで異常な引きを見せたりして楽しく旅を進めていく。

エレナは、

「早く美少女ちゃんのいる陸地に着かないかなぁ……」

とこぼしていたから、とりあえず苦笑いでたんまり仕入れた酒を飲ませておいてやった。

そして六日目。

「カン、カン、カン!」

と鳴り響く鐘の音で目を覚ます。

何事かと思い、急いで甲板に行くと、遠くからいかにも怪しげな船団が近づいてきているのが見えた。

「賊か?」

「へい!」

「この船に戦闘員は?」

「みんなそれなりの訓練は受けてやすが……」

「わかった。任せておけ。……ちなみに、生け捕りにした方がいいか?」

「いえ。特にそんな決まりはありませんが、一応頭目には賞金が掛けられております」

「よし。じゃあ適当に航行不能にしよう。脱出用の小舟くらいよういしてるだろう。頭目がいるのはあの一番デカい船だろうな」

「へい。おそらく……」

「わかった。心配するな。手加減くらいしてやるさ」

と、にこやかに応えて魔法陣を展開する。

船が相手ということもあり、いつもより気合を入れて少し大き目の魔法陣を作ると、

「エルティーナ!」

と叫び水の弾丸を次々と海賊船に向け発射していった。

帆が破け、船体に穴が開き、狼狽える海賊どもの姿が見える。

私は沈めてしまわないように注意しながら丁寧に狙いを定め、相手を航行不能の状態に追い込んでいった。

そこへみんなが慌ててやってくる。

「おい。ユークばっかりずるいぞ」

「せっかく暴れられると思ったのに!」

「みなさんは大丈夫ですか?」

「ああ。大丈夫だ。それより、あの一番デカい船にいる頭目をとっ捕まえたい。いつもの要領で氷の道を作るから頼んだぞ」

「おうよ!」

「任せといて!」

という返事を聞き、さっそく一番大きな船の周りを凍らせ、そこまで氷の道を作る。

アレンとエレナは「待ってました」と言わんばかりの嬉しそうな顔でさっさと船を飛び降りていった。

「ドカン!」「バキッ!」と何度か音がしてその大きな船から何人もの賊が逃げ出していく様子が見える。

(あちゃぁ……。けっこう派手にやってるな)

と思いつつ見ていると、やがてひとりの男を抱えたアレンとエレナが戻ってきた。

「こいつであってる?」

と伸びた男を甲板に転がしゴードンに確認を求めるが、ゴードンは呆気にとられた顔で動かない。

「どうした? ゴードン」

と声を掛けるとゴードンはやっと正気を取り戻したようにハッとして、

「へ、へい。おそらく間違いねぇと思いやすが、ちょいと待ってください」

と言い船室の方へと駆け出していった。

(はて。なんだろうか?)

と思いつつその男を縛り上げてしばし待つ。

ちなみに、他の船からはすでに白旗が上がっていた。

やがて戻ってきたゴードンが、

「間違いありません、こいつ赤シャチの頭目、ヒッギスです」

と言ってくる。

私が「?」という顔を見せると、ゴードンは、

「この辺りで長年活動してる筋金入りの海賊でかなりの金貨百枚の賞金首でさぁ」

とそのヒッギスなる者の正体を教えてくれた。

「ほう。そんなに悪いやつだったのか。じゃぁ、もう少し痛めつけておけばよかったな」

とあっけらかんとした顔でいうアレンに、

「このくらいで勘弁してやっておけ」

と言い、まだ気絶しているヒッギスを見下ろす。

私はついでとばかりに魔法を放つと、その一番大きな船を簡単に沈めると、

「大人しく投降すれば命まではとらん。全員動ける船に移動してこちらの後をついてこい」

と風の魔法に言葉を乗せ、投降を呼びかけた。

それから五日。

海賊船を引き連れての行動だったので、少し遅くなってしまったが、無事大陸側の港に到着する。

港に着くとすぐに軍船らしきものが近寄ってきたので、また風の魔法で事情を説明し、あとのことを任せた。

久しぶりに陸に上がり衛兵にヒッギスを引き渡す。

そこからは手続きがあると言われたので、ゴードンとやや慌て気味に別れの挨拶をして衛兵の詰所に向かった。

「そうですか。勇者様ご一行でしたか。いや、海賊船が列をなして港に向かってきた時は驚きましたよ」

と苦笑いされつつ、無事手続きを終える。

なんでも、この赤シャチと呼ばれる海賊どもはかなりの悪党だったらしく、これから関連の捜査で大忙しになるだろうということだった。

「あはは。なんだかまた人助けしちゃったね」

「ああ。やっぱり気持ちがいいもんだな」

「うふふ。さすが勇者様です」

と呑気に話しながら適当な宿に入る。

私はそこで荷物を下ろすと、

「人間とはほんに厄介な生き物じゃのう」

と言うローズを苦笑いで軽く撫で風呂の支度に取り掛かった。

やがて、いつものように楽しい夕食を終え、床に就く。

開け放った窓から港町独特の磯の香がしてきた。

そんな磯の香りに包まれ、ゆったりとした気持ちで目を閉じる。

(さて。明日からまた旅が始まるな……)

と思うと妙に嬉しい気持ちになり私は軽く頬を緩めながら眠りに就いた。

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