第20話 渚にまつわるエトセトラ02
いったんギルドに向かい、船を出してくれるという船員を交えて軽く打ち合わせをする。
「どうしたらいいでしょう?」
「なに。心配いらんさ。適当に海を凍らせてあとは斬れば終わりだからな」
「……そうなんですか?」
「ああ。それよりタコを回収するから港では捌く準備をしておいてくれ」
「えっと食べられるんですか?」
「ああ。おそらくクラーケンだからけっこう美味いぞ」
「……わかりました。すぐに手配します」
「ああ。頼んだ」
と打ち合わせとも言えない打ち合わせをして少し心配顔の船員を促がしさっそく港へと向かった。
「けっこうしぶといぞ?」
「ああ。任せてくれ」
「ミリエラは一度デバフを放ったら船の防御に徹してくれ」
「了解いたしましたわ」
「久しぶりに大暴れできるね」
「ちゃんと回収できるよう、綺麗に斬ってくれよ」
「任せといて! 戻ったらタコ焼きパーティーだね!」
と軽く作戦を立て、さっそく海に出る。
しばらく行くとミリエラが、
「来ます! 直下です!」
と言ってきた。
「ちっ! 小賢しいやつめ」
と罵りつつ適当に雷の矢を打ち込む。
するとクラーケンは嫌がってさっそく海の中へと戻っていった。
「よし。足場を作るぞ。ミリエラは再浮上してきたらすかさずデバフを頼む」
「了解です!」
と適当に指示してさっそく海にどデカい氷を浮かべる。
「よし。準備完了だ。くれぐれも慎重にな」
「「おう!」」
と言ってアレンとエレナが氷に飛び乗ると、そこに再びクラーケンが浮上してきた。
「デポーリア!」
というミリエラの魔法を皮切りに戦闘が始まる。
力を削がれてふらふらと浮いてきたクラーケンにまずはアレンが斬りつけた。
足が飛び、私はすかさず回収に回る。
海面を凍らせながら走り、無事足を回収すると、今度はクラーケンに向かって風魔法を叩き込んだ。
「ノティリア!」
という声と共に見えない刃がクラーケンを襲う。
またクラーケンの足が切れ、私は回収に走った。
「どっせい!」
とエレナが戦斧を振るい、クラーケンがそれに応戦する。
クラーケンは時折船に近づこうとしたが、それはミリエラが全力で止めてくれた。
そこから削り合いが始まる。
墨を吐き、攻撃してくるのを私が防御魔法で防ぎ、アレンとエレナが足を斬っていくと徐々に相手の体力が落ちてきたのがわかった。
「よし。もう少しだ!」
「「おう!」」
と勇ましく返事をしてアレンとエレナがクラーケンに突っ込んでいく。
私はそれを援護する形で防御魔法を展開しながら相手の攻撃を最低限に抑えていった。
最終的に足が全部千切れ、戦闘力がなくなったクラーケンの胴体をエレナが一撃でカチ割り勝負が決まる。
私はクラーケンの残骸を綺麗に回収すると、船に戻って無事任務が終了した。
海に浮かんだ氷の塊を火魔法で溶かしてから港に戻る。
港には大勢の冒険者が集まっていた。
「無事討伐してきたぞ。解体は頼む」
と声を掛け、さっそくその場にクラーケンの残骸を出していく。
一同からは驚きの声が上がったが、私が、
「今日からしばらくはタコ三昧だ」
と言うとそれが一気に歓声に変わった。
嬉々として解体していく冒険者たちに混じって私も解体を手伝う。
出てきた魔石はとんでもない大きさで、このギルドではおそらく買い取れないだろうというほどの代物だった。
食えない部分を一瞬で灰にし、解体が終わる。
時刻は夕暮れだったが、私たちはタコ三昧の宴会を開くべく、ギルドの酒場へと向かっていった。
タコ焼き用の鉄板を出し、どんどんタコ焼きを作っていく。
冒険者の中には初めてタコを食べる人間もいたが、みんなその美味しさに目を丸くしていた。
「なんだ、この美味さ!」
「ああ。噛む度にうま味がしみ出してきやがる!」
「このソースの味がたまらん!」
と喜んでくれるみんなを見て嬉しくなりながらタコ焼きを焼いていると、ギルマスらしき人物がジョッキ片手に近寄ってくる。
「いやぁ、今回はありがとうございました。しかし、魔石を買い取れないのが残念です」
「ははは。あれはさすがに王都にでも持ち込まんことには買えんだろうからな」
「ええ。オークションでどのくらいの値が付くか」
「おそらく金貨千枚は行くだろうな」
「しかし、すごいものを見せていただきました。それだけでもいい勉強になったというものです」
「ははは。とりあえずしばらくの間はタコ三昧の日々が続くんだ。しこたま食ってくれ」
「はい。ありがとうございます。皆さんのおかげでこの町の平和が守られました」
「ふっ。そいつは大袈裟ってもんだ」
と会話をしているとそこにアレンとエレナがタコ焼きのお替りを求めてやってきた。
「おっちゃん、マヨネーズたっぷりでお願いね!」
「誰がテキ屋のおっちゃんだ」
「あはは! 賢者引退したらタコ焼き屋さんになれるんじゃ? ってくらい美味しいよ」
「そいつはいいな。余生はそうやって過ごそう」
と冗談を言いつつ焼き立てのタコ焼きにマヨネーズをたっぷり乗せて渡してやる。
「こっちはソースたっぷりで頼むぜ」
というアレンには山のように積み上げたタコ焼きにこれでもかというくらいのソースをかけて渡してやった。
ギルドの酒場にソースの匂いが充満し、みんなの笑顔が溢れる。
私はその光景を見て、なんだか嬉しくなり、どんどんタコ焼きを焼いていった。
くたくたで宿に戻る。
「お主、ちっとも飲んでおらんかったの?」
「ああ。みんなの嬉しそうな顔を見ていたらそれで十分な気になってしまった」
「ふっ。なんじゃそれは」
「ははは。人間、そんな時もあるものさ」
「ふーん。人間とは不思議な生き物よのう」
「ああ。そうかもしれんな」
「しかし、クラーケンがあんなに美味かったとは驚きじゃ」
「ほう。お気に召したか」
「ああ。他の食い方もあるのかのう?」
「ああ。他にもアヒージョ、から揚げ、刺身、カルパッチョなんてのがあるな」
「うむ。明日はそれを所望じゃ」
「ははは。じゃあ明日は浜辺でタコ祭りだな」
「うむ」
と話しながら風呂に向かう。
服を脱ぐと一気に香ばしいソースの匂いがしたが、それはそれでまたいい思い出だと思ってとりあえず今日の所はそのままにしておくことにした。
翌日。
ローズご所望のタコ祭りを開催する。
浜辺に置いたコンロで私とミリエラがドンドン料理を作り、それをアレンとエレナがものすごい勢いで食べていった。
「から揚げ美味っ!」
「アヒージョもなかなかいけるぜ」
「これ。わしにもちゃんと取り分けんか!」
「ああ、ごめんごめん」
「うむ。わしにはそっちのカルパッチョとやらを寄こすがよい」
「はいはい」
と楽しそうに会話をしながら食べているみんなを見て、昨日と同じく幸せな気持ちになる。
そんな私にミリエラが、
「たまには料理をするのもいいものでしょ?」
と少しニヤニヤしながらそう聞いてきた。
「ああ。ミリエラの気持ちが少しわかったような気がするよ」
「うふふ」
と話して私たちもタコ祭りに参加する。
タコ刺しをつまみに白ワインを飲み、ゆったりとした波が寄せては返す海を見つめていると、
(将来はこんなところに住むのも悪くないかもしれんな……)
というどうにも年寄りくさい考えが浮かんできた。
「いやぁ。いい所だよね。こういう場所でのんびり暮らせたら最高なんだろうけどさ」
「ああ。まったくだぜ。しかし、これからも旅は続くんだろ?」
「ああ。まずは神龍の里でヒントを得んとな」
「うふふ。神龍の里は久しぶりですから、楽しみですわ」
「ああ。あそこは特に酒が美味いからな」
「えへへ。そうだったね!」
「エレナはほんと、自分の欲に正直だよな」
「まあね!」
「あらあら」
そんな会話をしながらまた海を見つめる。
するとまだ見ぬ冒険への渇望が徐々に湧いてきた。
「さて。明日からはしっかり気合を入れて動かんとな」
「そうだね。十分休んだし、そろそろ行こうか」
「ああ。次はどんな冒険が待ってるんだろうな」
「うふふ。楽しみですわね、勇者様」
そんなみんなの笑顔を見て、不思議と満たされた気分になる。
(ああ、そうか。私はなんだかんだで今最高に楽しいんだな)
と思うとなんだか晴れがましいような気分になった。
遠く海の向こうに白い雲がくっきりと浮かんでいる。
私はその雲を見ながら目を細め、少しだけ頬を緩めた。
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