効率厨
翌日、響先輩は普通に登校していた。
昨日は響先輩がストーカーになってしまっただなんて、ちょっとばかり失礼な勘違いをしてしまったけど、それは単なる誤解で僕たちを尾行してたのは先輩ではなく、サブイベント(報酬無し)のモブ敵だった。
「常坂院さん。ちょっとよろしいかしら」
まあストーカー疑惑が晴れたからといって、響先輩が僕のことを諦められたのかといえば全然そんな事もなかったようで、僕が席に着くと同時に声を掛けてきた。
「あっ、はい……」
まいったなぁ……。
どう考えたって、これはきっとまた愛の告白だろう。
何度もごめんなさいするのは正直キツイ。だけどそもそも先輩も僕のフェロモンにやられてしまったある意味被害者みたいなものだし、なるべく傷つけないようにしないとね。
なんてお断りのセリフを考えていたところ、ちょっと意外な提案がされたんだよ。
「常坂院さんにわたくしの師となって頂きたいのです。もちろん
何がどうなってそうなったのか、まったく意味がわからないけれど、箱舟の世界に転生後は意味が解らない展開が多すぎて、最近は少し慣れてきたまである。
まあ要は響先輩が僕に弟子入りしたいと言い出したんだけど、模擬戦で負けたとかならわかるんだけど、そもそもあの計画は失敗したし、となれば急に何故そんな事を言い出したのか……。
あぁ……そうか。どんな形でもいいから僕の傍に居たいって事かな?
まあ響先輩の目的からは外れるんだろうけど、実は響先輩を育成する上で僕以上の適任者はいないから、弟子入りするには最高の相手だったりするんだけどね。
なんせメインユニットの育成パターンは、当然全て検証済でネットで共有されていたし、最適解も勿論出ている。『ぼくのかんがえたさいきょうのせいじょ』にジョブチェンジさせるのなんて簡単だよ。
だから育成するのは別に構わない。例え響先輩が僕の近くに居る事を目的としてても、育てる以上はガチでやるよ。それにさ……。
「……ん? 今何でもするって言った?」
「ええ、何でもですわ」
なんでも言う事を聞いてくれるって言ってるんだもん。乗るしかないでしょこれは。つまりC落ちして主人公のメインヒロインになってとお願いする事も可能って事だよね?
ただしいくら約束したとはいえ、僕にベタ惚れの響先輩が素直に主人公のヒロインをやってくれるのかと考えた場合、確実性に欠けると言わざるを得ない。相手にもちゃんと心がある事を僕は学んだからね。
なので保険としてセカンドプランも用意しておく。
実家が僕よりお金持ちの名家である響先輩なら、宝石が欲しいと言えばたくさん用意してくれるだろう。こちらの場合は問題なく実行できそう。
冷静に考えるとなんだか、美人局かヒモかみたいな最低な事を言ってる気がしないでもないなこれ……まあ概ね間違ってはいないのが困ったところなんだけど。
いや、こっちは命が懸かってるんだ。醜聞を気にしている場合じゃない。そもそも何でもって言い出したのは響先輩なんだから、僕のせいじゃないしね。
最終的にどっちをお願いするかは、遠回しに他の男を勧めた時の響先輩の反応からいけそうか判断するとして、主人公が編入してくるまでに決めればいいかな。最悪の場合でも逃亡資金&国外生活資金になると思えば悪い取引じゃない。
そうと決まれば早速育成だ。クソ雑魚ナメクジカタリーナをさいきょうのせいじょに変身させよう。
―――★
そんなわけでやってきたよ。響先輩のゲーム開始時のレベルに合わせたダンジョン――――よりも遥かに難易度の高い適正レベル45オーバーのダンジョンへ。
まずは基礎ステータスの向上と、スキルポイントを貯めるべくパワーレベリング。こんなのシミュレーションRPGで新しいユニットを獲得した時の基本だよね。
「じゃあ響先輩。攻撃魔法は【フレイム】しか持ってないだろうから、仕方ないんでそれでいくよ。先輩が最初に魔法で一発入れたらシエナが二発叩くから、その後にもう二発か三発、もしかしたら最初の内はそれ以上かかるかもだけど、敵が沈むまで【フレイム】連発でトドメを刺してね。流れはそんな感じね。ちなみに今の先輩だと相手の攻撃を食らったら一発で沈んじゃうから常にシエナの背に回るようにして、気を付けて立ち回ってね」
本当は先に【ライトニング】覚えさせれば更に育成効率が良くなるんだけど、スキルポイント的には【フルリカバリー】を先に獲得しておいた方が若干お得なんだよね。
スキルツリーの頂点のスキルは、それを獲得する前のスキル数で必要ポイントが僅かに変動するせいなんだけど、まあこの辺を先輩に説明する事はないだろうし気にしても仕方ない。ぶっちゃけ誤差なんだけどやるからには完璧を目指したいしね。
「え、ええ。わかりましたわ……」
なんだか妙にビクビクしてるような感じがするけど、ダンジョンに緊張しているのかな? それにシエナに対してもなんだかよそよそしく見える。響先輩の裏設定は実は小心者とかだったりして。
一方シエナの方は全く気にしていない。原作では唯一敬語を使う相手である聖女なのに、特に関心を示さない。やっぱりリアルになると色々変わるもんだね。
若干ギクシャクしながらも、戦闘自体はスムーズでサクサク魔物を処理していく。ファーストアタックとラストアタックを基本響先輩が取っているので、クリティカルが出てシエナが倒してしまった時以外は、経験値の大半が響先輩に流れているはずだ。
実際最初は平均三発は必要だったトドメも、すぐに二発となり、最終的に一発になるまでにそれほどの日数はかからなかった。
ところでMP回復薬は僕が出してたんだけど、これちゃんと後で請求できるかな?
落ちた宝石はしっかり僕が回収してるから元は十分取れてるけどね。
―――★
さて、そろそろ頃合いだ。【フルリカバリー】を覚える為のポイントは十分貯まってるから一旦ここでパワーレベリングは終了だ。
次回は【ライトニング】と【シャイニング】を覚えさせた後だろうけど、実はここが一番のネックなんだよなぁ。覚えさせること自体は簡単なんだけどね。
正直レベルはいくらあってもいいから、ここで上がる上限までやりたいところなんだけど、これ以上やると【フレイムピラー】を覚えてしまう可能性があるんだよ。
スキルは基本的に上限に達すると獲得が古いものから上書きされていくので、今覚えられると最終的に不要になる【フレイムピラー】を消すために【リカバリー】まで一旦消して再度獲得する必要が出てきてしまう。効率厨的には受け入れられないよね、そんな回り道は。
「はい、終了~。それじゃ、ここから本番だね」
「本番? 正直今までの鍛錬はなんでしたのって思うくらい、信じられないぐらい能力が上がった実感がありますわ。この上まだこれ以上がありますの?」
原作時点の響先輩はレベル20だったはず。この数日で35以上には上がったと思うから、当然能力の向上は自覚するよね。僕も自覚したかった。
あっという間に瑞希のレベルを抜き去った響先輩だけど、もちろん瑞希の時にもこれは提案したんだよ。まあ二人揃って断固拒否だったわけだけど。
あの修羅場の後だしね。
そんなわけで瑞希とシエナは交代で僕とレベリングに出かけてたから、三人PTでのダンジョンは実は今回が初だったんだよ。
「いや、そもそも今はまだまだ発展途上だよ。それでも一旦スキルを整理する必要があるんだよね。まあやる気があれば今回は1日で終わるよ。実際僕は8時間で終わらせたし」
本当は僕自身が使うために(ドロップ適正レベルの瑞希にかなり粘ってもらって)獲得したものの、僕はスキルアップすらしないとの現実を突き付けてきた反転の腕輪が遂に日の目を見る時がきた。
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