転生特典
おかしい。
原作では間違いなくこれで響先輩が模擬戦を申し込んでくる流れだったはずなのに……。
セリフは完コピしたはずだし、発生時期と人物は違うけど響先輩にとってはどちらもただのモブのはず。なのに結果はまるで違うものになってる。
まあね、正直言えば僕も薄々感じてはいたよ。
たださ、この手のものは勘違いだった時に凄く恥ずかしいから、敢えて気付かない振りをしてきてたんだよね。
それでも瑞希、シエナと来て今回響先輩までもとなれば、嫌でも自覚せざるを得ない。もう間違いない、僕は。
――――――――モテる――――――――
これは僕の勝手な予想でしかないんだけど、転生時って大抵の場合
僕の例からしてみてもそうだね。一度目の転生は現代知識があったのがチートだし、二度目は男女比の偏った貞操逆転世界それ自体が男にとってのチートみたいなものだった。
それでさ、今回の特典を考えてみたんだけど、ゲーム知識があるって特典は確かにあるわけだけど、それって一度目とちょっと被ってるよね?
それを特典だと言われれば、なんだか使いまわしの手抜き感が拭えない。
更に僕だけレベルが上がらない事も考えると、特典ではデメリットを賄いきれてない感すらあるしね。
それらを踏まえて考えてみたんだけど、ここで僕はピンときたんだ。
おそらく僕の本当の転生特典は引き継ぎチートなんだと。
つまり転生を繰り返せば繰り返す程有利になっていくって事だね。だから二度目のモテモテ具合をフェロモンみたいな形で引き継いだに違いない。なら四度目もあるんじゃないかって思わなくもないけど、絶対でもないし命を懸けたギャンブルはさすがにしようとは思わない。
重要なのは次があるかどうかを考える事じゃなくて、フェロモンチートを僕が持っているのだと仮定すれば、これまでのおかしな点にも全て理論的には説明がつくって事なんだよ。
ヒロインの瑞希が本来大嫌いなはずのナル男に惚れたのもそう。
好感度パラメーターのないシエナが、僕と夫婦になったと主張するのもそう。
そして外見を褒められるのが大嫌いなはずの響先輩が、僕に褒められるとチャンスとばかりにお付き合いしようとするのもそうだ。
まいったな。これじゃーヒロインと距離なんて取りようがなくない?
なんせ僕が関わった女の子は全て僕に惚れてしまうんだから。
……なんだか原作のナル男っぽい事言ってるな。これが噂の魂が器に引っ張られるってやつか。
いやけど僕の場合はガチだからなぁ。
ともかくこのままじゃまずい。響先輩まで僕に惚れてしまったら、主人公との対立は不可避になってしまう。幸い、今なら傷はまだ浅い。ベタ惚れ状態になってからでは遅くとも、現時点で距離を置けばまだ間に合うはずだ。
強制ヒロイン化計画は白紙に戻るけど、僕に惚れられると計画どころの話じゃなくなるしね。焦る事はない。まだ1年の猶予があるんだ。計画は改めて練り直せばいい。
「ごめんなさい」
響先輩の告白に頭を九十度下げて断った僕は、脱兎のごとくその場から逃げ出した。
―――★
次の日響先輩は午前中の学園を休んだ。
きっと枕を涙で濡らしていて、目が腫れてた為に出てこれなかったんだろうね。大丈夫、君には僕なんかよりもっと相応しい、良い男がちゃんと現れるから。
このセリフを慰めとかじゃなくて、本当に自分より良い男が現れるのを知ってて言ったのって歴史上で僕が初めてじゃないだろうか?
そんな事を考えながら、僕は昼休みにBクラスで瑞希と一緒にお弁当を食べていた。
それにはちゃんと理由があって、瑞希とシエナに誠心誠意向き合うとの約束(をさせられた)後、三人の話し合い(僕は見てるだけ)でいくつかの約束事が決まったんだ。
1つ、登下校は必ずシエナと共にする事。
2つ、学園での昼食は必ず瑞希と共に摂る事。
3つ、朝食及び夕食は必ずシエナ、瑞希を共にする事。
4つ、18歳になると同時に正式に婚姻届けを提出する事。
5つ、はっきり答えが出るまでは、密室で二人きりになるのは禁止。
6つ、ただしどうしても我慢できない時はバレないようわらわ(私)の部屋に来ても良い事とする(シエナ談&瑞希談)
6に関しては当然共に陰でこっそり言い渡された。
そんなルールが制定され、昼休みになると僕はそれに従い瑞希のクラスへ出向き共に昼食を摂っている。瑞希は既に僕のフェロモンでベタ惚れ状態なので、向かい合わせではなく、隣り合わせで座って身体を密着させながら、何度もあーんを互いに行うことを強要してくる。
瑞希はヒロインだけあって誰がどう見たって絶世の美少女なので、Bクラスの男子生徒からは当然刺すような嫉妬の視線が飛んでくる。さすがに僕の秘蔵アクセでも視線は弾けない。
そんな注目の中でも、どうやったってあの美しく輝くような金髪は目立つわけで、響先輩が僕を凄い目で見ている事に気付いてしまう。
あぁ……もしかして、もう手遅れだったの?
既に僕にベタ惚れ状態なのだとしたら、今後の戦略がかなり難しいものになるぞ。
だけど今の状況は考えようによっては好都合かもしれない。既に彼女がいると思われれば響先輩も考えを改めるかもしれない。
彼女には酷かもしれないけど気付かない振りをしてこのまま見せ付ける事で、僕への未練を断ち切って、次の恋(強制)に向かってくれると良いんだけど……。
―――★
そして響先輩は結局そのまま午後も休んだ。
また家で枕を濡らしているのかもしれない。そう思ってたんだけど、僕はまだ自身のフェロモンチートを過小評価していたのかもしれない。
「世界。羽虫が隠れて
これは付き合いが長くなるにつれ気付いた事だけど、シエナは僕以外の人を羽虫扱いする傾向があるので、この場合はつまり、もしかしたら誰かが尾行してきてるかもって言ってるんだよね。
まあ心当たりは当然あるよ。響先輩は僕に彼女がいる程度では諦めきれないみたいだね。まいったな……既に完全なるベタ惚れ状態じゃないか。
「うん、まあ気にしなくていいよ。相手はわかってるから」
「どちらにせよわらわが隣に居る以上は、世界に手出しなどさせませんが」
「あはは、戦いになんてならないよ」
ふんすと両手を握りしめ気合を入れるような仕草をするシエナ。さすがに戦闘になる事はないけどね。きっと僕の家の住所を調べるのが目的じゃないかな。
それにしてもあのプライドの高い響先輩がストーカー化するほど強烈となると、僕のフェロモンは少しばかり危険ではないだろうか。
だってAクラスには響先輩以外にも女子は11人いるわけで、そのうち僕の席に近い位置には5人。さすがに教室全域にまでフェロモンは広がらないと思いたいけど、席の近い女子は既に僕に惚れててもおかしくない。
そうなるとこれから先、少なくとも5人の女子にお断りを入れるイベントが連続発生する可能性が高い。
「5人か。少し疲れそうだな……」
女の子の告白を断るのはやっぱり精神的にキツイものがあるんだよなぁ。けど心を鬼にしてやらないと、このままじゃ貞操逆転世界の二の舞だ。
「俺の隠蔽術をこうもあっさり見破るか……確かにただのガキじゃなさそうだ」
なんか突然近くからヌルッと人が湧いてきた。誰これ怖い。
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