エピローグ

 なぜそうなったのかは未だに全くわかってないけど、突然瑞希にキスされたかと思ったら、挙句に私が子供をいっぱい作るからもう寂しくないよとか言い出した。


 これも裏設定なのかリアルになった瑞希は、端的に言って頭がおかしな女だった。


 確かにキャラのプロフィールには母性が強いと書いてあった。いや、どんなに母性が強くてもいきなり子作り宣言はぶっ飛びすぎだろう。


 もしかしたら悪堕ちした影響で、悪役である僕に惚れてしまったのかもしれないけどさ、それにしたって……ねえ?


 なんにせよあれから瑞希は僕にべったりで、片時も離れようとしなかった。そんな状態ではシエナを迎えに行くことも、金策も検証もできないわけで、どうしたものかと考えていたら、緑さんが部屋に駆け込んできた。


 ちなみに瑞希はまるでそれが当然のように僕の部屋に居る。


「また隠し妻の方がいらっしゃってて、門を勝手に乗り越えて玄関口まで押しかけられてるんです。何度奥様は出て行かれ、旦那様もおられませんって伝えても、今ここに居るのは知っているの一点張りでお帰りになられないんですけどどうしましょうか……」


 やれやれ、なんて困った父親なんだ。隠し妻の後処理すらできないのか……。

 

 と、仕方なく僕が対処に出てみればだよ……。


「世界ッ!」


 激しく抱きついてきたのはシエナだったわけなんですけど。



 ―――★



「だ・か・ら・世界くんはまだ15歳だから、そもそも結婚が許されてる歳じゃないの!」


「人族のルールなど知らぬ。わらわは世界に求愛され、それを受け入れた。鬼族のルールでは歳など関係なく連れ合いとなる。そもそも貴様に許される必要などない」


 ちなみにアレから父親は屋敷に帰ってきていない。そりゃそうだよね。突然妻を名乗って家に突撃してくるぐらいだから、次は会社に突撃されるかもしれないし、しかもその相手が誰だかわかってないんだから戦々恐々とするよね。愛人がいっぱいいるとこんな時特定するのが大変だね?


 まあパパンとは無関係なんで、どうやっても見つからない相手なんだけど。


 いやね、僕もちょっとはおかしいなと思ったんだよ?

 さすがに権力者って言っても重婚を国に認めさせるとか普通じゃないし、若くて綺麗で強い女が、腹の出た父親に惹かれるのも違和感があった。


 こうして答えがわかってしまえば、ああ、そういう事ねと納得はできるんだけど、そもそも何故こうなっているのかは僕にもわからない。


 シエナは常坂院シエナを名乗り、僕と結婚したと主張してるし、瑞希も瑞希で生涯を捧げると決めた相手だとか言い出すし、僕の知らないとこで何が起こってるのこれ。


 主人公とヒロインが仲を深めるにはイベントで段階を踏むものだし、そもそも僕は主人公ですらないので当然そんなイベントはなかった。


 それに第一シエナはヒロイン枠のキャラですらない。好感度パラメーターがないキャラがなんで妻を自称するの?


 もちろんこちらもそれらしいイベントはなかった。


 僕はもうわからなくなった。ゲームがリアルになった事による変化だとしても変化量が多すぎて対処できる気がしない。


「はっきり言うね。私もう世界くんとキスしたから」


「おぼこいことを。これをしたから何だと言うのだ?」


 今もほら、こうして突然シエナにキスされるしさ……。僕のキャパはとっくにオーバーしてるというのに、更にぶっこんでくるんだもん。


「あああの、あの、あのね。まずは世界さんの気持ちを聞くのが先かと、お母さん思うんだけど……」


 気持ち。気持ちって何?

 関わりたくないヒロインと、肉壁用のユニット以外に答えようがないんだけど。



 だが緑さんの言葉を受け、じいーーっとこちらを見つめる二人の瞳はどこまでも暗く深い。



 あっ、これダメなやつだ。下手な事言ったら多分終わる。貞操逆転世界で僕を刺した娘と同じ目をしてるもん。


「え、と……。二人とも、心からあいして、ます……」


 僕は日和ひよった。


 刺突完全耐性アクセだけで生存できるとはとても思えなかったから。これが正解なのかはわからない。けど関わりたくないとか肉壁とか言ったら100%不正解なのくらいはわかる。


 僕の命はこうして二人に委ねられる事となった。


 結論を言えば信じられない事に、受け取り方によっては開き直った二股宣言とも取れる僕のお気持ち表明は許された。


 下家の親のリーチと三元牌さんげんぱいを全部鳴いた上家に挟まれながら、もうどうにでもなれとやけくそで打った生牌しょんぱいとんが通っちゃったような感じだね。


 そして今後僕は誠心誠意二人に向き合い、18歳になった時にもう一度気持ちを

 聞かせてもらうとの約束をさせられた。


 なんとか生き残った。だけど生を実感した途端、それは既に薄氷の上に成り立ついつ割れてもおかしくないものだと気付かされた。


 今まで必死に関わりを回避しようとしていたのに、結果的に僕は箱舟のヒロインを主人公から奪ってしまうという、関わりどころの話じゃないレベルの失態。どんな言い訳も通用するとは思えない。


 だが可能性がないわけじゃない。

 つまりあれでしょ。主人公にとってのメインヒロインを奪うから問題なのであって、逆に言えば主人公が他のヒロインをメインに決めれば、僕の行動はなんら敵対行為には当たらないわけだ。


 そんなわけで今後僕は主人公を別ヒロインルートへ強制的に誘導するべく動き出す事になった。





               第一部  完

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