第33話 勝ったのに
『決ィまったーー!! 今回の「魔炎闘技」の勝者として輝いたのはニューフェイス、ミハル・ハトミネだーーっ! この間の飛び入り参戦での勝利に続いて今回も勝利! 恐るべき才能! 修羅の化身と言っても過言ではない!』
トトノ先生の興奮した声が辺りに響いた。いや、流石に修羅の化身は過言だと思いますけど。
けれど。
「勝ったんだ、わたし……」
わたしはその事実を自分の中で反芻し、喜びが込み上げてくるのを感じた。この間バキボキに折られた自尊心が今は鉄棒のように頑丈に真っ直ぐになっていた。
わたしは自分が打ちのめした相手――テオシアーゼを見下ろす。彼女は暫く動かなくて、ひょっとしたら打ち所が悪かったのかもどうしようなどと焦りを覚えたのだけれど、暫くして身体を起こした。彼女の瞳にある敵愾心は燃え盛る炎のようだったので、どうやら彼女は元気そうだと懸念を払拭できた。
「畜生ッ!!!!! ですわーーーーーーーーーーーーーーー!!!!(大声)」
うん、元気だな。これだけ叫べるって事は。
「これで証明出来たよね。わたしは、弱くない」
彼女に向かってわたしは告げる。
テオシアーゼはいっそう表情を険しくした。
「ぐ、ううっ……!!!」
「『魔炎』はわたしの側に灯った」
わたしは親指で背後の『魔炎』を示した。勝者の側に灯るという炎。
「とは言ってもおおおおおおおおっ!!!!!」
往生際が悪いな。まあ往生際が良い彼女はあまりイメージ出来ないけれど。
「あんたより、わたしの方が強い」
それから数秒間テオシアーゼは唸って、ようやく告げる。
「わ……分かりましたわ!!! 認めますわーーーーー!!! わたくしよりっ……強い事を認めますわーーーーーーー!!!!」
これ以上無いくらいに彼女は悔しがりながら認めた。
今まで彼女に言われて来た事を思うと胸がすかっとして、優越感がわたしを包んだ。
こうして『魔炎闘技』はわたしの勝利によって終わり、わたしは憎き悪役令嬢にわたしは弱くないという事を認めさせることが出来た。
◇
それから数日後。
「ごきげんようですわゴミ庶民ーーーーーーー!!! 今日も害虫のように醜いですわねーーーーーー!!! 視界に入れたくないですわーーーーー!!! おまけに獣のように臭いですしーーーーー!!!!! 学園の空気を汚染しているという自覚がありますのーーーーーー!!?!?! 視覚と嗅覚の両方から苦痛を与えてくるのはやめてくださいましーーーーーー!!!!(食堂全体に響き渡る大声)」
と、わたしは相変わらず悪役令嬢から
勝ったのに! わたし『魔炎闘技』で勝ったのに!
しかししっかり彼女の悪口の内容を整理すると、わたしに対して「弱い」もしくはそう解釈出来る言葉は一切発していないのである。
わたしは自分が弱くないという事の正しさを『魔炎闘技』の勝利によって証明した。したがってテオシアーゼはわたしに対して「弱い」とは言えなくなった。
けれどまあ悪口の言いようなんていくらでもあるわけで、このような状況になっているというわけだ。
くそ、『魔炎闘技』に賭ける正しさの内容をもっとしっかり考えておくべきだった。なんだか法の抜け穴を突かれた気分だ。また『魔炎闘技』をして今度こそわたしに悪口を言えないようにすればいいんだろうけれどそれも手間だな……。
「こんなに醜く産まれてしまうなんて、可哀想ですわねーーーーーーー!!! 蛙の子は蛙と言いますし、きっと両親も醜かった事ですわーーーーーー!!! 庶民の子は庶民って事ですのねーーーーーー!!! まあ当然、卑しい身分の庶民が高貴な身分の貴族と結婚出来る筈がありませんし、汚らわしい庶民遺伝子はそのまま子孫に受け継がれていくというのが自然の摂理ですわーーーーーーー!!!! という事はぁ……!!!! このカス庶民と結婚するのもまた泥まみれの豚のように醜い庶民で、産まれてくるガキもゴブリンみてぇに醜いんですわーーーーーーーーーーーー!!!!!」
ゲラゲラと悪口を響かせるテオシアーゼ。こんな大きな声で長々と罵倒を……。どこからこんなエネルギーが湧いてくるんだ? 『魔炎闘技』では勝ったけれど、なんかこの辺のバイタリティでは勝てる気がしないな……。
そんな思考になって、もう何を言われても無視した方がいいんじゃないか、という風に思考が傾いた時だった。
ガタリ、と音がした。
見れば隣で恋歌が立ち上がっていた。
「ど、どうしましたのーーーーーー!!?!? お手洗いですのーーーーー!!?!?」
「テオシアーゼさん」
恋歌はテオシアーゼに顔を近付けて告げる。
「ちょっと、校舎裏行こっか」
◇Side造里木恋歌
恋歌は未春に対して「ごめんねちょっと行ってくるね」と言って食堂を後にした。未春はその行動が良く分からなかったようでぽかんとしていた。
「なーーーーーんですの!??!? 庶民!!! こんな所に呼び出して!!!!」
校舎裏。呼び出した相手のテオシアーゼは不機嫌そうで、しかし一方でこちらを見下す愉悦を感じているようでもあった。
「さては、あの庶民を罵倒されて我慢がならなかったんですわねーーーーー!!!」
彼女の隣には彼女の侍女が居て、同じような嘲笑の表情をこちらに見せていた。
恋歌が呼んだのはテオシアーゼだけだったのだが、まあ特に支障は無い。十分に想定出来た事態だった。
「けど、同じ庶民の貴女が、しかもあっちの庶民より魔力値も身体能力の低い貴女がどうこう出来るわけありませんわーーーー!!!! この間の『魔炎闘技』でわたくしが敗北を喫したからといって思い上がらないで欲しいですわねーーーーーー!!! 貴女は雑魚ですわーーーーーー!!!! わたくしに実力行使でもしようものなら返り討ちに――」
恋歌はテオシアーゼの懐へと一瞬のうちに飛び込んだ。
そして、目にも止まらぬ速度で腹パンを繰り出した。
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