第31話 決戦の時
テオシアーゼとの決戦、『魔炎闘技』の日は明日に迫っていた。
「12、13、14……」
わたしは自室で腕立て伏せをしていた。出来る回数は多くない。けれど、以前まで腕立て伏せなんて一回たりとも出来なかった。
大丈夫。わたしは着実に強くなっている。
「17、18、19……」
あいつに勝つ事だって出来る。
◇
そして、遂に迎えた決戦の時。
わたしは闘技場の控室にて待機していた。
「頑張ってね、みはるん。私、みはるんの事応援しているから!」
恋歌にそう言われ、わたしの胸の中に炎が灯るのを感じた。いつもはわたしを振り回す恋歌だが、今はわたしに力をくれた。
不思議な感覚だった。けれど、悪くない。
彼女の言葉を、嬉しいと思った。
「うん――行ってくるね」
だからわたしは感謝を示すように、そう言って見せた。
控室には両開きの扉がある。
それがゆっくりと開いていく。扉の隙間から光が差し込み、細い光はやがて景色になる。
闘技場のフィールドが広がっていた。
この前、わたしが転移の際に意図せずに入ってしまった場所。そこにわたしは自分の意思で足を踏み入れる。
観客席には何人も観客が居て、皆がわたしの事を見ているのだと思うと恥ずかしかった。
皆が見ている。だったら、尚の事負けられない。
わたしはそう自らに言い聞かせた。
『両者、入場しましたーーーーー!』
響いたのはトトノ先生の声。
そして向かい側――わたしが入場した扉と丁度正反対の扉から、テオシアーゼが不敵な笑みを浮かべながらこちらへと歩いてきていた。
『東方の戦士、中等部三年、テオシアーゼ・フィン・スーケンベルエ!
それを迎え撃つは西方の戦士、ミハル・ハトミネ!』
東と西で選手紹介しているのってなんか相撲っぽいな。そういえば、いつ聞いた話だったか忘れたけれど、東の力士の方が番付は上らしい。
相撲の慣習が『魔炎闘技』にも適用されているかどうかは疑わしいが、そうだとするとテオシアーゼの方がわたしより格上と見做されているという事になる。
まあ、彼女には今までの実績があり、わたしはこの前割り込みで一回勝利しただけのルーキーだ。
だったらやってやる――下剋上を。
『炎は欺瞞を燃やし尽くし、真なる正義を掲げん――』
わたしとテオシアーゼは向かい合う。
『「魔炎闘技」、バトルスターートッ!』
開戦の合図が響いた。
どう出る――わたしはテオシアーゼの僅かな動作も見逃すまいと目を凝らした。
わたしのスキルは防御及びカウンターに特化したものだ。故に、こちらから果敢に攻めるよりもまずは相手の出方をうかがうべきだと判断した。
テオシアーゼは手を前へと遣る。
下に向けられた手の平から液状の何かが零れ出た――しかし、はじめはどろりとした質感だったそれはすぐに凝固し、結晶となる。
「【麗しき宝石の飼い仔たち《ルミナス・ワイルド》】!!!!」
はじめは無秩序に生成されているように見えたその結晶が、形を取る。
「【蒼玉の
青く輝く宝石の犬の形を成した。
もしかして、それって本物の犬みたいに動く――?
そう頭の隅で思った時には、既にその犬はこちらへと飛び掛かって来ていた。
「――【
わたしは獰猛な牙を目の前にして慌ててスキルを発動した。
真っ直ぐにこちらに向かって来ていた宝石の犬の身体が出現した花によって弾かれた。
『早速テオシアーゼちゃんはスキル【麗しき宝石の飼い仔たち《ルミナス・ワイルド》】で攻撃したー!』
『宝石の獣を創造し操るスキル……彼女のスキルはかなりユニークね』
トトノ先生の実況とロティカ先生の解説。
『華やかなスキルだけど、ただ派手なだけじゃない。テオシアーゼちゃんの強力な武器よ……』
ロティカ先生が言った。わたしの第六感もそれに同意していた。このスキルを侮ってはいけない――。
「なーーーーーーーに考えてるんですのーーーーーーーーーー!!?!?!」
テオシアーゼの大声がわたしの意識を思考から現実へと引っ張り出す。
「わたくしのスキルを攻略しようったって無駄ですわよーーーーーーーーー!!!!! 豚は大人しくエサになるといいですわーーーーーーーーーーー!!!(大笑い)」
真剣勝負の最中でも罵倒はいつも通りか。
勿論、大人しくエサになってやるつもりなんてない。
「【薊】!」
こちらに迫り来る宝石の犬。わたしは再度【薊】によって攻撃を防いだ。
【薊】は絶対の防御。このままだとテオシアーゼはわたしに傷一つ与える事が出来ないけれど、どう出る……?
「【蒼玉の
そうテオシアーゼが指示を出すと、宝石の犬は強靭な脚で素早く動き、そしてわたしの後方を位置取った。
そこから大きく口を広げ、こちらへと迫った。
「【薊】――」
わたしは前方へ展開していた【薊】を後方へと移動させた。宝石の犬による攻撃を防いだ。
――その時、わたしは【薊】で宝石の犬による攻撃を防ぐ位置調整の為、後方を見遣っていた。そして、無事に攻撃が防げたのを確認した後、わたしは視線をテオシアーゼへと戻した。
その、ほんの少しテオシアーゼから視線を外していた間に。
彼女は目と鼻の先に迫っていた。
「まずっ――」
「死ねですわーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!(殺意に満ちた大声)」
凄まじい剣幕。テオシアーゼは右の拳を後ろに引いていた。
そうして放たれた拳。
悪役令嬢の全力のグーパンがわたしへと襲い掛かった。
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