第26話 無力
特に体調に問題は無かったので授業に復帰する事になったのだが、丁度昼休みの時間だったので、わたしは教室ではなく食堂に向かった。
料理を受け取り、空いている座席に座った。
「あら~~~~~~~!!!! 生きていましたのねーーーーーーーーーー!!!! さっきは水面に腹を上にして浮かんでいる小魚みたいでしたのにーーーーーーー!!!! 非力とは言っても生命力はゴキブリ並みって事ですのーーーーーーーーーー????(食堂内に響き渡る大声)」
無論、振り返るまでもなく件の悪役令嬢だった。
わたしは無言のままサラダを口の中に運んだ。
「無視するんじゃありませんわーーーーーーーーーーーーーー!!!! それとも聞こえていませんのーーーーーーーーーーーーー!!!!??!?(耳の傍で大声)」
「うるせえな! 聞こえてないわけないでしょうが! 鼓膜が破れる!」
わたしは耳を押さえて言った。まだ破れてないよな……? でもキーンってする……。
「ふふん!!! 昨日と今日、醜態を晒した自覚はありましてーーーーーーー!!?!?」
彼女の言葉にわたしの胸はずきりと痛んだ。
「あんなクソ雑魚っぷりで今後授業に付いていけるんでしてーーーーーーーー!!?!? やはり弱者である庶民はこの学園の生徒として相応しくありませんわーーーーーーー!!!(大きな嘲笑)」
庶民である事と弱者である事を結び付ける事には納得がいかなかったが、わたしの身体能力が皆よりも劣っているのは事実だ。
「いやもう本当お嬢様の言う通りですよー! 嫌んなっちゃいますよね! 『力があるなら庶民でも入学させる』っていうのが今の学園の方針ですけど、結局庶民なんて無力だし醜いし臭いですもんね!」
メイドが悪役令嬢に同調する。傷付く……! わたしって臭いか……?
「退学届けを早めに出す事をおすすめしますわーーーーーーーーーーーー!!!! このまま学園に残ってても惨めになるだけですものーーーーーーーーーーー!!!!」
テオシアーゼとマードはわたしの傍から立ち去った。
「ぐやじい……!」
わたしは拳を固く握ってそう呟いた。
あいつらに吠え面かかせてやりたい……!
「みはるん。みはるんが望むなら、あの二人をボコボコにしてくるけど、どうする?」
不意に、隣に座る恋歌がそんな事を言った。
「えっ」
唐突に物騒な事を言われたのでわたしは固まって手からフォークを落としてしまった。
「あいつら二人をみはるんの前で土下座させて惨めたらしく命乞いさせようか? そうしたらみはるんの鬱憤も晴れると思うんだ」
「エ……」
恐ろしい事を言うなこの子。
「で、出来るの……? あの悪役令嬢とメイド二人とも、魔力も身体能力も結構あるよ……!?」
それに対して恋歌は魔力値も体力測定の結果もぱっとしなかった気がする。
「やりようは色々あるから」
恋歌は不気味な笑みを浮かべた。まさか寝込みを襲ったりするのだろうか……!?
「よ、良くないよ! 確かにあの二人はムカつくけど、でもそういうやり方は……」
「それじゃあやられっ放しでいいの?」
「それは嫌だ、でも……」
わたしは自らの中にある蟠りを言語化する。
「……それを他人に何とかしてもらうっていうのは違う、気がする……見返すならわたし自身の力でやらなきゃ、って思うんだ」
下らないプライドかもしれない。それでも、それを放り捨てる事が出来なかった。
「……そっか。みはるんがそう言うなら、余計な事はしないよ」
恋歌は納得してくれたようだった。
そうだ、わたし自身の力で見返す……それなら授業を頑張らないと。運動が苦手でも、何とか皆に付いて行かないと……。
◇
しかし、そんなわたしの決意とは裏腹に、わたしは朝練や魔法学の実習に悪戦苦闘した。
帰宅部の陰キャが決意をしただけで運動が出来るようになるほど現実は甘くなかった。
わたしが学園に入学して約二週間が経過したけれど、わたしは相変わらずバリバリ体育会系の学校行事に付いて行けずにいた。
「雑魚!! ゴミですわーーーーー!!! 魔力値だけは大きくても他はダメダメのでくのぼうですのねーーーーーー!!!」
いつものようにテオシアーゼからの罵倒を受ける。今は学校のグラウンドで重量挙げをしている最中だった。皆は巨大な岩とかを持ち上げているのに、わたしは大した物を持ち上げられない。
トトノ先生はロティカ先生に指摘を受けたのか、あまりスパルタな感じの事を強制しなくなって、身体に無理が掛かる事は無くなったけど、皆より劣っているという事は突き付けられ続ける。
「うう……」
悔しい……!
魔力の量が多ければ、魔力による肉体強化で強い力が発揮出来る。けれど、トトノ先生曰くそれは魔力の使用量だけに依存するのではなく、元々の肉体の強さにも依存する。
元々の身体が貧弱なわたしは大量の魔力を以てしても大して強くない……!
自分が情けない。チートスキルを手に入れてわたしは最強なんだって思ってた頃が黒歴史に思えた。
というか、【花】って言うほどチートスキルか……?
なんかそこも怪しくなってきた。いや、絶対的な防御にカウンターもあるし、強い、強い筈なんだけどいまいち活躍の場が……。
「哀れですわーーーーーーーー!!! やっぱり庶民は所詮庶民なんですわよーーーーーー!!!」
嘲笑を受けて、わたしの中でぽきりと折れた。
「――うわあああああああん!」
わたしはその場に居るのが辛くなって、ここから走って逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます