第24話 人食い巨大ザリガニって何
朝練が終わった。
朝練が終わると今日の授業が始まる。
……ちょっと待って欲しい。もう既に限界なんだけど? 走り込みのせいで体力スッカラカンだよ。これだけ疲労困憊なのに何でまだ始まってすらないんだよ。
せめて、一時限目の授業は座学であって欲しい。そうしたら体力をチャージ出来るから……。
祈るような気持ちで時間割を確認すると、一時限目には『魔法学』の文字。『魔法学』だけじゃ分からない。座学の可能性も、そうでない可能性もある。……ていうか時間割見る限り半分以上は『魔法学』だ。まあそれ自体は魔法女学園だから当然なのかもしれないけど。
教室に入って来たトトノ先生が教壇に立って告げる。
「じゃ、今日は実習だから外行こっか」
死んだ……。
◇
やって来たのは大きな湖がある場所だった。
トトノ先生は皆に向かって告げる。
「じゃあこの湖をシュタタって走るやつやろうか」
はい?
「湖の上を、走れというんですか……?」
言葉の意味が分からなかったわたしは問うた。
「うん」
「ど、どうやって……?」
漫画じゃあるまいし、そんな事不可能では……?
「肉体強化の応用だよ。肉体強化も慣れてくれば膂力の向上や敏捷性の向上、耐久性の向上とかを使い分けられるようになるんだ。今回は普段膂力の強化に回している魔力を敏捷性と耐久性に回す訓練だよ。状況によって必要なステータスをピンポイントで向上させる事が出来れば、効率が上がるしね」
「敏捷性、は素早く走るから分かるとして、耐久性というのは……?」
湖の上を走るのには関係無い気がする。
「普段自分の肉体だけに適用している耐久性の強化の範囲を足元の湖面にまで拡張するんだよ。それほど難しい事じゃないよ。普段、無意識のうちに自分が着ている服の耐久性の強化とかしているしね。人体は70%が水で出来ているから、足元の湖面にまで範囲を拡張するのは比較的簡単だね」
「湖面を固めて、それを足場にして進めって事ですか」
「そゆことー」
本当、バトル漫画みたいな理論だな……。理屈は分かったけどわたしに出来るのか……?
「それじゃあはじめ!」
トトノ先生の号令で皆が湖の方へと向かった。
「お先に行かせて貰いますわーーーーーーーーーー!!!! 庶民どもーーーーーーー!!!!(湖面に波紋が生じるほどの大声)」
そう大声を発したのは言うまでも無くテオシアーゼだった。彼女は湖の上を駆けてすぐ遠くまで行ってしまった。本当に可能なんだ。あんな忍者みたいな事。しかも全く忍んでないような奴が。
「みはるん、私たちも行こうよ! あ、私がお姫様抱っこして行こうか?」
と、恋歌の提案。
「いや遠慮しとく……」
恥ずかしいのもそうだったし、トトノ先生の目もある。今朝わたしが甘えていると詰められたばかりだ。恋歌に頼ったらどんな怒られ方をするか。難しくてもとりあえず自力でやってみるしかないだろう。
「そっか……それじゃあ、先に行くね……」
肩を落とす恋歌。彼女はそれから湖の方に言って、それから水面を疾駆した。お前も普通に出来るのかよ。
……という事は意外とわたしにも出来ちゃったりするのでは?
わたしは湖の方へと向かう。
「よし……」
決意を固める。
そして、足を踏み出す。湖面に足場があるようにイメージし、そこを駆ける――。
「ごがぼぼぼぼぼぼ」
筈が、わたしは普通に溺れた。駄目じゃん! ちくしょう!
とりあえず一回陸に上がろうとした時、何かがざばっと湖の中から現れた。
それは、巨大な鋏を持つ怪物だった。
「あ、言い忘れてたけど湖の中には人食い巨大ザリガニが棲んでるから気を付けてね」
トトノ先生が言った。
「人食い、巨大、ザリガニ!?」
何だよそれ! 異世界に来て初めて見るモンスターがこの人食い巨大ザリガニなんだけど! スライムとかドラゴンとか、もっとあるでしょ! 何でこんな変な奴が最初に遭遇するモンスターなんだよ!
わたしの三倍の大きさはありそうな人食い巨大ザリガニはこちらに向かって大きな鋏を突き出して来た。人食い巨大ザリガニの名の通りならわたしを食べるつもりなのか!?
「わーっ! 【花】! 【薊】!」
わたしはチートスキルを発動し、ザリガニの鋏を防いだ。
だが、側方から新たな影。もう一体の人食い巨大ザリガニだった。
「この湖には沢山の飢えた人食い巨大ザリガニが居るからねー。もたもたしてると沢山集まって来ちゃうよー」
背後からトトノ先生の声。いや、どういう事!?
先生の言う通り、水の底から沢山の影がこちらに迫っているのが分かった。
「うっ、うわあああああああ! 食べられたくない!」
わたしは【薊】を発動し、迫り来る人食い巨大ザリガニを退けながら、全力で泳いだ。湖面を足場にする事はかなわなかったが、魔力による肉体強化をした上での全力の泳ぎだ。
「はあ……はあ……」
無我夢中で泳いで、わたしは何とか向こう岸に辿り着く事が出来た。ザリガニの餌にならなくて良かった。二度とこんな事はやりたくない。
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