第16話 測定って、それも?

 10074。


 っしゃあ!


 10074メズル。それがわたしの魔力の値だ。平均が1000との事なので、それの約十倍。この学園には魔法の素養のある人間が集められているからか、その平均を多く超す生徒も沢山居るけれど、彼女らと比べてもわたしはぶっちぎりで多い。


「う、嘘!? 10074メズル!?」

「こんな魔力値、見たことない!」

「魔力値に関しては5000を超えれば王国虹章魔法団アイリス・オブ・キングダムに入る資格として十分だって……!」

「そ、それじゃああの子はこの国で最高レベルの魔力量だって事!?」


 承認欲求が満たされる。先ほど破壊の危機に瀕していた尊厳がみるみるうちに回復していく。全能感が身体を包む。

 これだよこれ。

 こうやってわたしは自分の才能を沢山の人に認められ、賞賛を受けたかった! 生まれてこの方他人より優れた事なんて一つも無かったわたしにとってこれは劇薬だった。


「あ、有り得ないですわーーーーーーーーーー!!!!!(驚愕の大声) こんな庶民がぁ! 10074メズルもあるわけないですわ!!! 測定器の故障ですわ!! 小数点以下の数字だけ表示されるようになってるとか!!!」


 大声で抗議するテオシアーゼ。まあ、いくらでも言えばいいさ。わたしには凄まじい魔法の才能がある。それがはっきりした。魔力値が正しく表示されていなかったという事にされても、わたしの魔法の才能を証明する方法はいくらでもある。そして、その証明がされる度に、わたしに食ってかかりそれは間違いだと言った事が間違いであったという事を突き付ける事が出来る。

 好きに喚けばいいさ、大声悪役令嬢。


「うーん、特に故障はしてないみたいだけど」


 トトノ先生が魔力測定器を確認して言った。


「そっ、それじゃああの庶民の魔力値が10074メズルもあるっていうんですの!!!!???(信じられないという大声)」

「まあ、そうなるかなー。いやーすごい子が私のクラスに入ってきちゃったねー」


 トトノ先生が笑って言って、テオシアーゼは「ムキーッ!」となっていた。

 わたしの後、恋歌が魔力測定をした。彼女の手が水晶に触れ、数字が表示される。


『501』


 あれ? 思ったより低いな。平均の半分程度。てっきりわたしと同じくらいとはいかないまでも、恋歌も高い魔力値を叩き出すものと思っていたのに。

 考えているわたしにトトノ先生が声を掛ける。


「それじゃミハルちゃん。次の『測定』もいってみようか」

「次?」


 次、って?


「はいこれ」


 そう言ってトトノ先生は円状のメーターに取っ手のようなものが取り付けられた機器を手渡した。


「何ですかこれ?」

「ん? 握力計」

「握力計!?」


 何でそんな物を!?


「んでそっちがバーベル、腿筋測力定器、腹筋力測定器」

「バーベル、腿筋力測定器、腹筋力測定器!? 後半二つは知らないですけど!?」


 トトノ先生が指をさした方を見る。棒と円状の重りがセットになったバーベルは分かるけど、腿筋力測定器、腹筋力測定器はわけがわからない形状をしていた。


「まあ結構高価だからこういう学園とか訓練所とかじゃないと置いてないかもね」

「い、いや、そういう問題ではなく……!」


 じゃあどういう問題なのかという事を言語化するのはなかなか難しかった。

 とりあえず、測るしかない、のか……?

 わたしはトトノ先生から握力計を受け取った。そしてレバー部分を右手で握る。


「ふに~っ!」


 あまりにも変な掛け声を出して右手に力を籠めた。

 しかし、ビーッ! という音が鳴って、メーターの針は動かなかった。再度試してもまたビーッ! という音が鳴ってしまう。


「この握力計は魔力による肉体強化を感知すると測定出来なくなる仕組みなんだよ。つまり、素の握力だけを測るような仕組みってわけ」


 トトノ先生がそう解説した。


「魔力による? 肉体強化……? してないですけど……?」

「慣れてないと力を入れようとした時に無意識にしちゃう事もあるんだよ。魔力に栓をする感じでやってみて」

「魔力に栓を? はい……」


 分からなかったがやるしかないだろうという事で、言われた通りにやったのだが、またビーッ! と音が鳴ってしまった。


「うーん、自分の魔力の輪郭をちゃんと把握して、それを身体に流さないようにする感じで試してみて」

「魔力の輪郭? 身体に流……? はい……」


 トトノ先生の言っている事は良く分からなかった。わたしは何度もビーッ! という音を聞きながら、やけくそになりながら試行錯誤した。

 すると、ようやく針が動いた。


『10』


 わたしの握力は10キロとの事だった。ぱっと見「低っ!」となる数値だけれど、まあわたしはイン(陰)ドアで運動不足なのでその値は妥当なものだ。受け入れるしかない。

 と思っていると、隣から大声が聞こえた。


「じゅ、10キロですってーーーーーーーーーー!!?!?!????(デカい嘲笑) 生まれたての子豚ですのーーーーーー!?!???! やっぱり庶民は雑魚のカス豚ですわーーーーーーーーーー!!!!(大笑い)」


 水を得た魚とはこの事だろう。先ほどわたしに対して悔しさを露わにしていたテオシアーゼは一変、笑い泣きしながらわたしを馬鹿にしていた。

 さすがにこれにはムッときた。いや低いのは事実なんだけどさ。


「……じゃああなたはわたしよりずっと大きな記録を出せるっていうの?」

「とーぜんですわっ!!!!(自信満々) 貸してみてくださいましーーーー!!!」


 と言われたのでわたしは彼女に握力計を渡した。背丈はわたしよりちょっと小さいくらいだし、全然鍛えてるようには見えないし、まあわたしよりは握力があるにしても、せいぜい20キロくらいではないだろうか――。


「お嬢様ぁーッッッッ(大きなタメ)……パワ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!(鼓膜が破れるかと思うほどの大声)」


『67』


 握力計の針が示した数値。


「67キロォ!?」


 ギャグ漫画みたいに目が飛び出るかと思った。確か成人男性の握力の平均が45キロくらいで、それを大きく超過している……アスリート並みの握力じゃないか!? 全然そうは見えないのに! ていうか悪役令嬢なのに!

 わたしは何かしらのイカサマを疑ったのだけれど、トトノ先生は何も指摘していない。それに、ビーッ! という音が鳴らなかったという事は魔力での肉体強化とやらもしていないという事なのだろう……。いやでも、この子が素の力で67キロを……!?


「見ましてーーーーーーーーーーーー?!!?!?! 雑魚!!! 豚!!!! 庶民と高貴なるお嬢様の格の違いが出てしまいましたわねーーーーーーーー!!?!?! 庶民は品が無い学が無い更には握力も無いんですのねーーーーーーーーーーーー!!!?!?! これではジャムの瓶の蓋が開かない時一々火で炙るようですわねーーーーーーー!!!! 庶民の生活は不便そうですわーーーーーーー!!!!! こんな弱者と同じ空間に居たら雑魚がうつりそうですわーーーーーーー!!!! 豚は豚らしく汚ったねえ家畜小屋で臭っせえ餌を貪り食ってればいいんですわーーーーーーー!!!!」


 凄い罵詈雑言だ……!

 ていうか悪役令嬢からフィジカルでマウント取られる事あるんだ……。普通逆じゃない? 庶民は農作業とかで体力付いてて、貴族はそういう事しないから非力で、力があると野蛮とかゴリラとか言われるものだと思ってた。

 なので悪口言われるのは傷付くしムカつくんだけど微妙に困惑の方が勝っていた。


「素晴らしいですお嬢様! やっぱり世の中は力ですよ力!」


 マードがぱちぱちと手を鳴らして賞賛する。「ふふん」と鼻を高くするテオシアーゼ。


「じゃ続いて私も」


 握力計を握るマード。


『70』


 高っ……。


「じゃあ次はアタシが」


 アシュロが握力計を掴む。


『81』


「では次は私だね」


 フィゼリア。


『80』


 ……みんな高くない!?


「じゃ、私も」


 恋歌が『19』という常識的な値を出してくれたのが救いだった。わたしが特別弱いわけじゃなくてこの世界の子たちの力が異常なんだ。良かった……。

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