第15話 お待ちかね、魔力測定
数学の授業がつつがなく終わって(内容はなんとかわたしが理解出来るものだった)、二時限目にやって来たのはトトノ先生だった。
「それじゃ、魔法学の授業だけど、今日は編入生も居る事だし、アレいっちゃおうか」
と、トトノ先生が言ってわたしたちは教室移動をする事になった。勿論アレというのが何なのかわたしには分からない。
そうしてクラス一同がやって来た教室は机や椅子が殆ど置かれていないがらんとした部屋だった。
トトノ先生はその教室の中の、別の部屋に通じる扉を開いた。この教室が音楽室とするならば、音楽準備室みたいな位置付けの部屋であると思われた。
その部屋に入ったトトノ先生はキャスター付きの台に乗ったあるものを押して出て来た。
水晶玉が乗った謎の器具。
これは、アレではないか……異世界モノで良く見るやつ。
「それじゃ、今日は『測定』をしていきましょーっ! まずは魔力測定からねー! 皆並んで並んでー!」
きたきたきたきたーーぁ!
お待ちかねのやつ! 魔力測定!
ここで異世界転移者のわたしが皆よりも圧倒的に高い魔力値を叩き出して、皆から驚かれる! 異世界もので死ぬほど見たやつ! それが遂に現実のものとなった……!
なんかたまに上手く計測出来なくて、本当はめちゃくちゃ強いのに弱いと思われて皆からバカにされるパターンもあるけれど、わたしの魔法の強さは皆『魔炎闘技』で目にしている。だからもしわたしの測定の時に低い値が出てしまったら何か通常とは異なる事態が発生していると解釈してくれる筈。
故にわたしの勝ちは決まっている。悪いな、皆……。
「みはるん、なんだかテンション上がってるねー」
と恋歌に指摘された。少し恥ずかしい。
「ま、まあ? でもテンション上がってるっていうか良い値を出さなきゃなーって意気込んでるだけだけど? 授業に参加させて貰ってるんだし、全力で取り組むのは当然でしょ?」
「確かに! みはるん真面目だね! そういう所も好き!」
恋歌はいつも通り、わたしに好き好きアピールをしていた。
……懸念があるとすれば恋歌の事だな。
恋歌もわたしと同じ異世界転移者。となると、魔法の素養に恵まれていても不自然ではない。――もし恋歌があまりにも高い魔力値を出したらわたしのが見劣りしてしまう! お願い! そこそこであってくれ! わたしよりは低い値であって欲しい!
「編入生のお二人さん。君たちは魔力測定をした事があるのかい?」
列に並ぶと、わたしの前の女子生徒が尋ねて来た。
「おっと、自己紹介をしておくべきかな? 私はフィゼリア・エーベット。これから同じクラスのよしみで仲良くして欲しい」
自らの名を告げて、黒髪の少女は笑った。
「あっ、『魔炎闘技』の時の」
わたしは思い出した。わたしが割り込み参加してしまった『魔炎闘技』の元々の参加者だ。スケバンの子の印象が強かったので、彼女の事は申し訳ないけれどあまり意識していなかった。確か彼女は氷の魔法を使っていた。
「覚えていてくれて光栄だね。そして、あの時は大変だったね」
いや別にわたしは無傷で勝ったし、大変だったのは勝負を邪魔されてわたしにノックアウトされてしまったアシュロって子の方――って思ったけど、フィゼリアが言っているのはその後に胴上げされて気絶しちゃった事か。恥ずかしい。
「アハハ……」
と曖昧に笑うしかなかった。
「ところで話を戻そうか。二人は魔力測定の経験は?」
「無いです」
「無いよ」
わたしと恋歌は正直にそう答えた。
「それなら初めての君たちにコツを教えてあげよう。コツは力み過ぎない事だ。魔力測定に慣れていない者は高い魔力値を出そうとすると、かえって値が低く出てしまう事がある。……そうだね、水をイメージするといいかもしれない。水の入った容器から空の容器に水を移し替える時、変に勢いを付けるとこぼれてしまうだろう。けれど、ゆっくり注ぎ入れれば上手くいく」
「なるほど」
「ちなみに、魔力値はおよそ1000が平均だとされている。君たちがどれくらいの魔力値を出すのか楽しみだね」
その時。
「スーケンベルエ公爵家、長女!!!!(唐突なデカ声) テオシアーゼ・フィン・スーケンベルエ!! 魔力測定いかせていただきますわーーーーーーーーーーー―!!!!!!!(威勢の良い声)」
と、大声が聞こえた。誰なのか確認するまでもない。てか名乗ってたし。急に大声出すのは心臓に悪いからやめてほしい。
そちらに視線を遣ると、テオシアーゼが魔力測定器の水晶の部分に手の平を押し当てていた。
そして、水晶に数字が浮かび上がる。
『2891』
「わたくし!! テオシアーゼ・フィン・スーケンベルエ!! の!! 今回の魔力測定の結果はーーーー!! 2891メズル(メズルとは魔力値の単位)ですわーーーーー!!!! ひれ伏すがいいですわ庶民どもーーーーーー!!!!!(大きな高笑い)」
平均が1000である事を鑑みると、テオシアーゼの魔力値は結構高いのだろう。癪だけど。
「流石ですテオお嬢様! よっスーケンベルエ公爵家の長女!」
マードがテオシアーゼをおだてていた。
「では次は私が……」
テオシアーゼに変わってマードが水晶に触れる。
『2612』
「まあまあやるじゃないですのーーーーーー!!!(大声での賞賛) わたくしの専属メイドなだけありますわねーーーーー!!!! 庶民どもに格の違いを見せ付けてやれましたわねーーーーー!!! やはり貴女はわたくしのメイドとして相応しいですわーーーーーー!!!」
「お褒め頂き恐悦至極に存じますお嬢様!」
まー出はテオシアーゼから頭を撫でられ、犬みたいになっていた。
「んじゃ、次はアタシ! いくぜ!」
スケバン娘のアシュロが言って、水晶に触れる。この間『魔炎闘技』でわたしと戦った彼女も同じクラスだったみたいだ。
『3013』
「っしゃあ! 記録更新!」
あの子、3013って相当高くない?
……って事はアシュロを倒したわたしの魔力値は更に高いのでは?
「それじゃあ次は私が」
わたしの前に居たフィゼリアが魔力を測定する。
『3015』
おおっ、フィゼリアも結構高い。
「てめぇ! アタシに喧嘩売ってんのか! わざわざアタシの直後に測りやがって!」
その前に測定していたアシュロが怒りを露わにした。本当に若干だけれどフィゼリアの方が高い。それが気に食わなかったのだろう。
アシュロとフィゼリアって仲が悪いのだろうか? この間の『魔炎闘技』で剣呑な雰囲気だった事も鑑みて、何らかの因縁があると思われた。
まあ、彼女たちの関係性は置いておいて、今はわたしの魔力測定だ。フィゼリアが終わって、わたしの番になったのだから。
魔力測定器を前に、固唾を呑んで手を近づけてゆく。
フィゼリアのアドバイスを頭の中で反芻する。水をイメージ。水をイメージ――。
そしてわたしは水晶に触れた。固く、ひんやりとしている。
水晶に数字が浮かび上がり、それが変動し、ある値で止まった。
『10074』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます