第14話 異世界一声がデカい悪役令嬢
ホームルームが終わって一時限目の授業が始まるまでの間は小休憩だった。
「はーーーーーーーー!!!(超デカ溜息) 笑止千万ですわぁーーーーーーーーーーーー!!!(大声)」
突然、そんなクソデカい声が聞こえた。
声の方には一人の少女――暗いブロンドの髪の少女が居た。そしてその髪はロール状になっていた。
「まーーーーた庶民が入って来ましたわーーーーーーーー!!!! この由緒あるウィーテシア魔法女学園はいつから家畜小屋になってしまいましたのーーーーー!!!????(爆音)」
その少女は羽毛みたいなものが付いた扇子を持っていた。更に隣にはメイド服を纏った女性が居る。
悪役令嬢だ……!
いや悪役令嬢ではあるんだけど――。
「これは失礼ですわーーーー!!! 名乗るのが遅れてしまいましたわねーーーーーー!!! 庶民なんかに名乗る名は持ち合わせていない、と言いたいところですけどぉーーーーーー!!!(上擦った大声) まあ後々不便があるといけませんしーーーー??? 仕方ないから名乗って差し上げますわーーーーーー!!!! わたくしの寛大な心に平伏すと良いですわーーーーーー!!!
わたくしの名はテオシアーゼ・フィン・スーケンベルエですわーーーーーーー!!! あの! スーケンベルエ公爵家の長女ですわよーーーーーーー!!!!! 頭が高いですわーーーーーー!!!!!!(超大声)」
あまりにも声がデカすぎるだろ。
「オーーーーーーーーーッホッホッホ!!!!(ジャングルの怪鳥の鳴き声みたいな笑い声)」
こんな悪役令嬢が居るのか。悪役令嬢ってもっとネチネチしたもんかと思ってたけれど、あまりにストレートに身分差別してくるな。陰口とか言えなそう。声がデカすぎて相手に聞こえるから陰口っていうか普通に悪口になる。
「いよっお嬢様。あそれお嬢様。お嬢様今日も麗しい。世界一のお嬢様」
そしてこのメイドは何なんだよ。変な踊り踊ってるし。彼女は紫っぽい髪のボブカットで、どちらかといえば背丈が小さめな悪役令嬢に対して割と背が高かった。
めちゃくちゃ変なやつ二人いっぺんに出てこないでよ。せめて一人ずつ出てきて欲しい。
「申し遅れました。私はテオお嬢様の専属のメイドをやっています、マード・スーケンベルエと申します」
マードと名乗ったメイド服の女性は恭しく頭を下げた。良く見ると、彼女の纏うメイド服はウィーテシア魔法女学園の制服を改造したものである事が分かった。そういえばアシュロとかいう子もスカート丈を長くしてスケバンみたいにしてたし、この学園は制服の着こなし方にはかなり寛容らしい。
「そう、私がテオお嬢様の第一のしもべ……気付きました? 私、スーケンベルエの姓を頂いてるんですよ! これが何を意味するか……まあ庶民には分からないでしょうね」
イヤな感じの笑みを浮かべて鼻で笑うマード。庶民を見下すスタンスはお嬢様と一緒らしい。
「マードの言う通りですわーーーーーー!!!!(デカ声) 庶民には貴族のしきたりとか作法とかちんぷんかんぷんなんでしょうねーーーーーー!!!! ところで、庶民二人の出身はどこですのーーーーーー????」
「えっと、群馬県の――」
わたしは(この世界の人々にとっての異世界の地名を言うわけにもいかないし)適当にはぐらかそうと思っていたのだが、恋歌が答えた。
「グンマケンーーーーー!!?? 聞いた事も無い辺境の出身ですのねーーーーーー―!!!!(デカい嘲笑) 庶民の上にクソ田舎出身なんて哀れ過ぎて涙が出ますわーーーーー!!!!」
お前……! 群馬の事知らないくせに……! なんで日本に住んでないやつから馬鹿にされなきゃいけないんだ。
じゃあお前がどこに住んでるか言ってみろよ。そこにはイオンモールがあるのか? イオンモールが田舎の象徴みたいに言われてるけど、真の田舎にはイオンモールすら無いんだからな……! 群馬は別に田舎って言うほど田舎じゃないぞ! ……と言い返しそうになったが、出身地で相手を見下すというのは差別的であり人として恥ずべき行為なのでやめておいた。わたしまで同じレベルに堕ちてはいけない。
「いやー本当にお嬢様の言う通りですよ! あまりにも哀れですよねえ!」
と、メイドが同調する。
「よろしいことーーーー??? 編入生の庶民ども!!!」
ずい、とテオシアーゼが顔をこちらに近付けて来た。彼女の口元は扇によって隠されているが、いやらしい笑みで吊り上がっているのは見なくても分かった。
「このウィーテシア魔法女学園は本来貴族のみが通う資格を持つ、高貴な学園ですのよーーーーーっ!!!(大声) ただ時世が時世ですし、仕方なく庶民も才能を持つ者は入学させるという措置を取っているだけですのーーーーーーー!!!! ですので、その高貴な学園に卑しい身分でありながら通わせて貰っているという事をお忘れなきように、ですわーーーーーー!!!!(大きな高笑い)
同じ学園に通っているからといって、自分たちとわたくしたち貴族が対等だなんて勘違いは決してなさらないようにしたくださいましーーーーーーー!!!!! そんな甚だしくおこがましい勘違いをされたら抱腹絶倒で笑い死んでしまいますわーーーーーーーーーー!!!!!!(既に笑い死にそうなほどの大きな笑い声)」
「そうだそうだ! 全くもってお嬢様の言う通りです! いやもう本当お嬢様の言う事が真理過ぎて! 困りますよねそういう勘違いは!」
全肯定するメイド。テオシアーゼは「ですわよねーーーー!!!」と気分良さそうだった、
「というわけで失礼しますわーーーーー!!! 庶民ども!!!」
「失礼するって、次の授業もうすぐ始まっちゃうけど」
恋歌の指摘で、教室を出ようとしていたテオシアーゼは踵を返した。
「間違えましたわーーーーーーーーー!!!!!(羞恥の混じった大声)」
テオシアーゼとそのメイドは自分の席へと着いた。そしてすぐに先生がやってきて授業が始まった。
◇
「えーでは、この問題分かる人――」
数学の先生がそう言うと、テオシアーゼは勢い良く立ち上がった。
「はい!!!!!(元気良く) 庶民どもには難しいかもしれないですけど、高貴なるお嬢様のわたくしには分かりますわ!!! 答えは4ですわーーーーーーーー!!!!(自信満々)」
「違います、3です。あといつも言っていますがもう少し小さい声で喋ってください」
「分かりましたわーーーーーーーーーー!!!!!!!!!(クソデカい返事)」
どうやら馬鹿のようだった。
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