第13話 恋バナが大好きな生き物

「こ……恋歌!?」


 わたしは驚きの声を発した。恋歌はファストフード店の店員さんみたいに非の打ちどころの無いスマイルを浮かべている。


「今朝居なかったのに! だから恋歌は孤独に耐えかねた陰キャの作り出した想像上の存在なのかって思ったのに!」

「そ、そうだよね。お嫁さんが急に居なくなったらびっくりして、悲しくなっちゃうよね。みはるんの気持ちを考えられてなくてごめんね」

「いや、そういうわけじゃないんだけど」

「実は職員室に行ってたの。それでこの学園に入れて下さいってお願いして、そしたら即興の入学試験が行われてね。それに合格したから晴れてみはるんと一緒の学園に入学って事になったんだ」


 にこにこと語る恋歌の服装はわたしと同じウィーテシア魔法女学園のものだった。即興の入学試験というものがどういうものか分からなかったけれど、恐らくは魔法に関する素養を問われるものだったのだろう。そういえば、彼女の話では山賊を撃退したとの事だった。彼女の魔法の素養がどのようなものなのか気になったけれど、今はそれより気になる事がある。


「ていうか! お嫁さんって!」


 先ほどの恋歌の発言だ。


「お嫁さんでしょ?」


 きょとんとした顔の恋歌。


「違うって言ってるでしょ! 急にそんなわけ分かんない事言って、皆ドン引きだよ! ほら――」


 そう言って、わたしは恋歌にクラスの皆の方を見るように促した。

 しかし――。


「お嫁さんだって!」

「キャーッ! それを皆に言っちゃうなんて、すごいわね!」

「羨ましいラブラブっぷり……!」


 黄色い声が教室の中で上がっていた。


「え……へ……?」


 わたしは理解が及ばなかった。何で唐突に自分がお嫁さんである事を唐突に宣言するようなヤバい女に対してこんなに好意的なんだ? わたしの時はお通夜みたいな感じだったのに。


「コイカさん! ミハルさんのどんな所が一番好きなの!?」

「うーん、好きな所がいっぱいありすぎて迷っちゃうけれど、私の事を一番に愛してくれる所かな」


 愛してないけど。


「告白はどっちからしたの?」

「みはるんから。それはもう情熱的な告白を――」


 してないよ!? 強いて言えば恋歌の方からじゃない!?


「二人が付き合い始めたのってどれくらい前―?」

「んーと、だいたい665年くらい前かなー」


 そんなわけがないだろ! わたしたちの年齢考えて有り得ないって分かるだろ!


「デートって何する事が多い――」


 などと、クラスの女子たちが次々に質問を浴びせていく。恋歌はそれに笑顔で答えていた。

 何故……何故だ? ――そう考えていたわたしの頭に不意に答えが降って来た。

 そうだ! この年頃の女子といえば、恋バナが大好物! 餌を水の中に投げ込んだ時のピラニアみたいに、恋バナに食い付く習性を持っている! ……わたしは一度もした事がないからその事に理解が及ばなかったけど。うーん、悲しきモンスター。

 だからその美味しい餌を提供した恋歌は歓迎されている、というわけなのだろう。

 待てよ――。わたしの頭に、一つの神がかった案が降って来た。

 このどん底から這い上がる為の、たった一つの方法。


「み、みんな――そのくらいにしてあげてて欲しいな」


 わたしは、恋歌の方に近付いて、そして彼女の腰に手を回して言った。


「興味津々なのは分かるけど、そんなに次々質問したら、わたしのが困っちゃうでしょ?」


 そう言って、ウィンクをした。


「「キャーーーーーーッ!!!!」」


 歓喜の叫びが教室の中に響き渡った。


「み、みはるん……」


 キュンとしてる感じの表情でわたしの名を呟く恋歌。


「やっぱり固い愛で結ばれたカップルなのね……! そうね、あんまり質問攻めしちゃうのも悪いわよね。私たちは二人の愛を陰から見守らせて貰います……!」


 計画通りだ……!


 女子は恋バナが大好きな生き物。

 ならば、わたしも彼女たちにその恋バナを与える立場になれば良い。そうすれば皆に受け入れられる。今の痛い陰キャという立ち位置を返上する事が出来る……!

 皆のわたしを見る視線が先ほどまでとは変わっているのが分かった。


「はぁ~~~~あまりにも尊すぎる……」

「二人の寝室の壁になりたい……」


 何だか変な目で見られてる感じもするけど。でもこの子たちとは微妙に波長が合いそうだな。


「みはるん、ありがとうね。私の事を助けてくれて。それに、私の事、お、お嫁さん、って言ってくれたのも嬉しかった……」


 赤い顔で上目遣いの恋歌。

 ……あ、もしかしてわたし、陰キャのポジションから脱する為とは言え、まずい事をしてしまったんじゃないか……?

 ま、まあもうなるようになれだ……! わたしはキラキラの青春を謳歌してやるからな……!


「……というわけで、二人とも自己紹介ありがとう! 凄く盛り上がったね! 朝のホームルームはもうこれで終了かな! みんな今日も授業頑張って!」


 というトトノ先生の言葉によって編入生の紹介は締め括られた。

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