第7話 口から心臓飛び出るかと思った
わたしとトトノ先生は学園長室を後にした。これからどうするんだろうと思っていると、トトノ先生が言った。
「そういえば、お腹空いてない?」
「空いて……ますね」
言われてみれば、空腹感を覚えていた。時間帯を鑑みれば当然の事だろう。
「じゃ、食堂行こっか。普段は生徒はもう夕食を終えている時間帯なんだけど、食堂の人に言えば
「ありがとうございます」
それから食堂に行くと、確かに大きな食堂の構内は閑散としていた。トトノ先生は厨房に入って行って、料理人らしき人に事情を説明してくれた。とてもありがたい。わたしは見知らぬ人と話せないので、自分で食堂の人に話してご飯を作って貰うなんて無理だ。
暫くして、ビーフシチューらしき料理とパンが出て来た。「あっ、あざ、ありがと、です」みたいに料理人の人にお礼を言って、わたしはテーブルについた。
「いただきます」
スプーンでスープ状の料理をすくって、口に入れた。すると、口の中いっぱいに旨味が広がる。
「おいしい?」
「おいしいです!」
わたしはトトノ先生にそう答えて、飢えた獣のように料理を食べた。あっという間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした……! おいしかったです……!」
食器を返却する時、わたしは勇気を出してそう伝えた。すると料理人のおばちゃんはにっこりと笑ってくれた。それが嬉しかった。
「えーと、じゃあ次は服だね」
トトノ先生はそう言って、別の所に向かった。
廊下にある扉から外へと出た。星明りはあるけれど、ライトが無いので暗かった。
のだが、トトノ先生はポケットから何か、機械らしき物を取り出した。そして、そのボタンを押すとそれが発光して辺りを照らした。
懐中電灯みたいだった。けれど、懐中電灯そのものではないだろう。形状も随分と違う。この世界に電池は無さそうだし、何をエネルギーとして発光しているのだろうか。気になったけれど、わたしはコミュ障なので聞けなかった。悲しい。
やがて倉庫みたいなところに辿り着いて、その中に入った。
「えーと、ミハルちゃんの体格だとこれかな」
トトノ先生は棚からパジャマと思しき服を手に取って、わたしに渡した。
「あと下着も……サイズは微妙に違ったらごめんね。割と伸び縮みする素材で出来てるんだけれど、フィット感が気に入らないとかデザインがダサいとか散々言われてて、大体の生徒は街に行った時とかに自分の好きなの買ってる。まあ、その場しのぎのやつって感じだね」
下着の上下セットになったものを三つ渡してくれた。
「それと、ウィーテシア魔法女学園の制服! 明日からはこれを身に着けて授業に参加してね!」
手渡されたものにはずっしりとした重みがあった。
「わ……」
学園の制服一式。かなりしっかりした造りをしているのが感じて取れた。
わたしは目を輝かせた。心の奥から喜びが湧き出してくる。だって、異世界ファンタジーの学園の制服だよ!? それをわたしが着れるんだよ!? 夢みたいじゃない!?
「とりあえず衣類はこれで全部かなー。それじゃあ行こっか。ミハルちゃんの寮の部屋に」
わたしたちは倉庫を出て、学生寮へと向かった。
学生寮の建物内に入って、階段を上る。その最上階、四階に来て廊下を歩く。
「んーと、ここだ」
トトノ先生は『411』と書かれた扉の前で立ち止まって、ポケットから鍵を取り出して開錠した。
部屋の中は暗かった。トトノ先生が扉のすぐ横の壁を示して告げる。
「ここ、触って」
良く意味が分からなかったのだけれど、とりあえず言われた通りにそこに触れると、部屋の中に明かりが灯った。
「わっ」
突然の事にわたしは驚いて声を漏らした。一体どういう仕組みなんだろう?
部屋の中はまさしく学生寮の一室、っていう感じだった。ベッドがあって、窓際には机と椅子のセットがあって、クローゼットもある。それほど広い部屋ではないけれど、まあ贅沢を言うつもりはない。住む所を与えて貰えるだけありがたい。
「そんじゃ、ミハルちゃん今日は疲れてるだろうし、ゆっくり休むといいよ。明日の朝は特別に寝放題。起きたら職員室に来てね。あ、お風呂はそっち」
トトノ先生が指さした方には扉があった。その奥にお風呂があるという事か。寮って共用の浴場しかないイメージがあったから、なんかお得な気分だ。
「分かりました。ありがとうございます」
「鍵はここに置いておくね。それじゃ、また明日よろしくぅ! おやすみー」
「は、はい。おやすみなさい」
トトノ先生は扉を閉め、去って行った。
部屋で一人になるわたし。
「ふう……」
わたしはベッドに倒れこんだ。布団は薄かったけれど、でも不思議とふわふわに感じる。
異世界転生をしてしまった。
そしてその異世界にある学園に入学してしまった。
わたし、これからどうなるんだろう。
学園での生活に想いを馳せる。
前の世界ではわたしの学校生活は孤独なものだった。
けれど、それにリセットが掛かった。
「友達……出来るかな」
呟いた。わたしにとって重要な懸念事項。異世界に来てもわたしはわたしのまま。陰キャの性根が切り替わったわけではない。
でも、前の世界とは違う。
今のわたしには皆が羨む
……まあその後気絶して保健室に運ばれちゃったんだけど。
とにかく! 前の世界で友達が居なかったからって、今度もまたそうとは限らない!
いや、友達出来る! 出来るに決まってる!
「そうだ! 友達、作るぞ! 絶対!」
わたしは寝転がりながら掛け布団を抱え、意気込みを口にした。
その時、不意にバンバン、という音が窓の方から聞こえて来た。
強風で窓が揺れたのだろうか? そんな事を思いながら、そちらへと視線を遣る。
人だった。
窓に人が張り付いていた。
「――ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!」
わたしは絶叫した。
心霊現象じみた窓に張り付く人――少女は笑顔で告げる。
「みはるーん!」
聞き覚えのある呼び方。
そう、窓に張り付いていたのは、わたしと一緒に転移ゲートに入って異世界転移をした少女。
わたしの運命の人やら配偶者やらを主張する謎の少女、
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