第6話 銀髪のじゃロリ学園長
わたしとトトノ先生は保健室を出て、廊下を歩いた。
凄く豪華な雰囲気がして、わたしが通っていた学校の廊下とは大違いだった。この学校は貴族が通う学校だったりするのだろうか。それともこの世界では学校に通えるのが身分の高い者に限られているとか。
片側の壁には大きな窓が並んでいる。窓の外は暗かった。この世界に来たばかりの時はまだ外は明るかったから、割と長い間気絶していたのだろう。
窓から日の光が入らないので、光源は廊下の天井から吊り下がっているランプだ。何を燃料にして光っているのだろうか。中に炎が灯っている感じはしない。けれども、この世界に電気を齎す電線が通っているとは思えない。だとすると、ランプを光らせているのは――魔法、だろうか。
「ここだよ」
暫く歩いた後、トトノ先生が言った。先生が示した方には大きな木製の扉があった。
ノックをして、トトノ先生はその扉を開けた。
きい、と音がして、薄暗い空間が現れる。学園長室。その奥に鎮座するのはこの学園の学園長。どのような人物なのだろうか――。
「はじめましてなのじゃ」
随分と幼い声が聞こえた。
部屋の突き当りにある座席に腰掛けているのは、長い銀の髪の少女――いや、幼女だった。深い黄金の瞳でこちらを見詰め、彼女は告げる。
「わしはこの学園で学園長を務めておる、アグリヴァルズ・プルネトルクじゃ」
銀髪のじゃロリって。属性が凄いな。見た目通りの若さで学園長の地位に就けるとは思えないし、魔法で肉体を若くしていたりするのだろうか――なんて失礼な事を考えてしまった。
「えっと、わたしは
「ふむ、ミハルか。新鮮な響きで、良い名前じゃ。おぬしの事は聞いておるぞ。『魔炎闘技』に参戦し、勝利したと。――そしてその後の胴上げ中に気を失ってしまったと」
「……その節はご迷惑をお掛けしました。なんだか大事な戦いに勝手に参加しちゃって、それでその後看病して貰って……」
「気にするでない。ただ、いかにして『魔炎闘技』に参戦したのかは聞かせて貰いたいのじゃ。あれは特殊な魔法でな。闘技の最中は戦闘領域とそれ以外とが強固な結界で区切られ、人や魔法はその結界を通過できぬ筈なのじゃ。しかし、おぬしはその不可能な筈の事を為してしまった。それが結界の脆弱性を突いた結果であれば、魔法を調整せねばならぬ。その為におぬしがどのように戦闘領域内に侵入したのかを教えて欲しいのじゃ」
学園長、アグリヴァルズの言っている事をわたしなりに解釈して喩えるに、わたしはゲームで本来有り得ない挙動をしてしまった。それはバグを利用して起きた現象の可能性がある。そうならばデバッグをしたいのでそれをどうやったのか教えて欲しい――といったところだろうか。
わたしは逡巡した。異世界転移の事を話してしまって良いものか。話した所で信じて貰えるのだろうか。けれど、真実を誤魔化したまま『魔炎闘技』とやらに参戦してしまった事を論理的に説明出来そうもない。なので、それが他人にとってはどんなに荒唐無稽なものであっても、それを説明するしかない。それに、この学園には迷惑を掛けてしまった事だし、恥をかいたとしても正直に話すのが人としてすべき事だろうと思った。
「実は私、こことは違う世界に元々居まして……けれど、ある時、何でだか分からないんですけれど、この世界に繋がるゲートに呑み込まれてしまったんです。それで、気付いたらあの闘技場の中に居て……そのゲートの出口が丁度闘技場の中だったんだと思います」
わたしは不安を覚えながらも、正直に経緯を説明した。
「ふむ、なるほど。であればおぬしは特殊な空間移動によって戦闘領域に侵入したのであって、結界を通過したわけではない、という事じゃろうか。であれば結界に問題があるわけではなさそうじゃな。ただ、通常とは異なる勝敗の判定が為された事などを踏まえて、魔法に異常が発生していないか精査する必要はありそうじゃな……」
ぶつぶつと呟く学園長。
「あ、あの……」
「何じゃ?」
「驚かないんですね、異世界転移の事……」
全くのノーリアクションだったので逆にこっちがそれに驚きを覚えてしまった。
「うむ。まあ、非常に珍しい現象ではあるがの。ただ、その事に過剰に反応するとおぬしを困らせてしまうであろう」
え、つまり陰キャのわたしに対しての気遣いだったって事? 優しい……好き……。
「珍しい、って事は過去に異世界転生者が居なかったわけではないんですか?」
「うむ。過去に幾つか例があり、文献にも残っておる。そうじゃな、例えばかの魔神と戦い、封印をしたのも異世界からの来訪者だったというのは多くの人間が知っている事じゃ」
魔神と戦って封印、って凄くファンタジーっぽい。
「ところで、おぬしは今後どうするつもりなのじゃ?」
と、学園長が聞いてきた。
「どうする、って……」
「話を聞く限り、おぬしにはこの世界に知り合いはおらぬし、知識も無い。衣食住の確保も難しい状態じゃと思うのじゃが」
「全くその通りですね……」
確かに。今まで気にしてなかったけどわたしのこれからの生活やばいな。
「もしおぬしが良ければ、じゃが――
ウィーテシア魔法女学園に入学せぬか?」
「はい、入学します」
「……自分で提案しておいて、なのじゃが、もう少し話を聞いてしっかり検討した後で答えた方が良いと思うのじゃ」
確かに。入学させてあげる代わりに校舎の掃除は全部お前の仕事な! ホコリ一つ残ってたら服をひん剥いてお仕置きだからな! とかいう条件付きかもしれないし……。
「流石にそんな非人道的な事はしないのじゃ……」
心を読まれた。失礼な事考えてすいません。いやでも、服はひん剥かれたような……。
「それは学園長として深くお詫びするのじゃ」
学園長は深く頭を下げた。あのエロ保健医が勝手にやった事なのに謝罪するなんて人格者過ぎる。
「……それで、入学についての話なのじゃが、本校は高い戦闘の能力を身に着けた生徒を育成する事を目的としておってな。おぬしの『魔炎闘技』での戦果を鑑みるに、入学の基準は満たしておる。それで、本校のカリキュラムをこなしてくれるというのなら、学校からおぬしに食事や衣服の提供、学生寮の貸与などを行う。ただカリキュラムの内容は多少ハードかもしれんが……」
ハード、と言われると躊躇いの気持ちが生まれてしまう。まあ、食事や住む所を提供してくれるっていうのは特待生みたいなものだから、ただ学園に所属して、のんびり授業を受けていればいいってわけにはいかないよね。
まあ、ハードっていってもわたしにはチートスキルがある事だしなんとかなるでしょ!
というか、この話を断ったならば自力で衣食住などを確保しなければいけない。ならば、わたしの答えは決まっている。
「分かりました。わたし、この学園に入学します」
わたしは真っ直ぐ学園長の方を見て言った。
「うむ。入学を決意してくれて嬉しいのじゃ。
改めて、ウィーテシア魔法女学園にようこそなのじゃ」
学園長は笑顔を浮かべて言った。
「それではトトノ教諭。彼女の事を頼めるかの」
学園長はわたしの隣に居たトトノ先生に言った。
「オッケーです! 任せて下さい! ところで学園長、その言葉には彼女を私の受け持ちにするっていう意味も含まれていますか?」
「うむ。彼女はトトノ教諭が担任を務める中等部三年のクラスに配属しようと思っておる。年齢も丁度それくらいに見えるしのう」
はい。バリバリ中学三年生やってたんでそれで大丈夫だと思います。
「分かりましたー! それじゃあミハルちゃん! これからよろしくね! いっぱいしごいちゃうから覚悟しててねー!」
悪戯っぽい笑みを浮かべてトトノ先生が言った。
「は……はい!」
わたしは緊張を覚えたものの、なるべく元気に返事をした。
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