第5話 エロ保健医、襲来
温かくて、柔らかい。
朧な意識が形を結んでいく時に、そんな感覚を覚えた。
ゆっくりと目を開く。
目の前に大きな乳房があった。
「ええ!?」
わたしはその事に驚愕の声を発した。いや、目を覚ましたら目の前にデカいおっぱいがあったら誰でも驚くと思いますけど。
もしかして『心が汚れている人にはエッチなものに見えてしまう画像』的なやつかと思ったのだが、どれだけまじまじと見ても大きな乳房以外の何でもなかった。
「あら、目を覚ましたのね」
おっぱいが喋った!
いや、その乳房の持ち主が喋ったのだ。
ウェーブのかかった金髪が特徴的な女性だった。大人びた顔立ちで、泣きぼくろが色っぽい。
いやでも泣きぼくろがどうとかそれ以前に。
その女性は白衣を纏っているのだけれど、前方のボタンは留めていなかった。
そして、白衣の下は全裸だった。
「変質者あああぁぁぁッ!!」
わたしは叫んで、その場から逃げようとした。しかし、わたしの腕を女性が掴み、逃げる事が出来なかった。
「落ち着きなさぁい。私は変質者じゃないわよ」
女性は妖艶な笑みを浮かべて言った。
「……あっ、そうだったんですか? 良かったー。すいませんね、ちょっとびっくりしちゃって。
ところで、何で白衣の中に何も着ていないのか教えて貰えますか?」
「その方が興奮するから、よ……♡」
「変質者ァッ! 110番! ポリスメーン!」
わたしはやっぱり逃げようとしたが、腕を押さえる力が強くて振りほどけない。
「だから落ち着きなさいって。さっきまで気を失っていたんだから。あなたは病人よ? 目を覚ましても暫く安静にしているべきだわ」
「それは……そうですね」
わたしはそこで、自分がふかふかのベッドに横たえられている事に気付いた。
「もしかしてわたしが気絶した後、ここに運び込まれて、看病して貰っていた、って事ですか……?」
「まさしくその通りよ」
「そ、そうだったんですね。それじゃあ、わたし自分を看病してくれた恩人に失礼な事を……ところで、何で白衣の下、裸なんでしたっけ?」
「興奮するから」
「うーん……」
良い人なのかもしれないけれど、やっぱり変質者である事に相違は無さそうだ。わたしはどうするのが正解なのだろう。
「自己紹介をしておくべきね。私はロティカ・アンダーシンク。このウィーテシア魔法女学園の保健医をやっているの。保健を……♡、教えているのよ……♡」
「何でそこ強調するんですか?」
わたしはそう質問した後、ある事に思い至った。
この保健の先生の声音にはどこか聞き覚えがあった。それに、ロティカという名前も聞いた覚えがあるような――。
「あーっ! わたしのパンツを覗いて、それを言いふらした人!」
わたしはロティカに人差し指を突き付けた。しかしロティカは悪戯な笑みを浮かべた。
「上下お揃いなのは良いわねぇ」
上下? 下はともかく、上は見せた覚えが無いのだけれど――そう思って、視線を自分の身体の方に向けると、わたしはセーラー服を脱がされて、下着姿になっていた。
「なっ、何で!? 服! わたしの服!」
「あなたの服ならここに」
ロティカが示した方を見ると、ハンガーにセーラー服の上着とスカートが掛かっていた。
「こっ、このエロ保健医っ、パンツのみならず、上までも……! 何の権限があって」
「それは、保健医として、傷病人の体調を把握する為の触診などをね……」
白衣のポケットから聴診器らしきものを取り出すロティカ。
「……ここまで脱がす必要は無いと思いますけど、分かりました……」
微妙に納得できないけれど、これ以上は水掛け論だろうと思って引き下がった。
不意に、扉が開くような音がした。
そちらを見ると、茶髪でボブカットの女性が居た。
「あー! 割り込みチャレンジャーちゃん! もう目を覚ましたんだ」
彼女は人懐っこい感じの笑顔を浮かべてこっちにやって来た。ロティカと比べると随分と幼い感じがしたが、学園の制服を着ていないので彼女は生徒ではなく、大人の学校関係者だと推測された。
「何で下着姿なの?」
「それはわたしが聞きたいです」
「医療行為~」
ロティカが言いながらわたしの服を渡して来たので、わたしはそれを受け取って着用した。
「初めまして割り込みチャレンジャーちゃん。学園の皆、あなたの話で持ち切りだよ? 皆会いたい会いたいって言ってて、窘めるのが大変だったなあ。
おっと、自己紹介が遅れたね。私はトトノ・ユカルティ。ウィーテシア魔法女学園で教師やってます」
トトノと名乗った彼女は教師との事だった。生徒からナメられながらも好かれる先生って感じだな。あだ名で呼ばれてそう。
「あ……実況の」
わたしはそこで、トトノの声にも聞き覚えがある事に気付いた。
「そうそう! 『魔炎闘技』では実況やらせて貰ってました!」
得意げにダブルピースをするトトノ先生。なんだか可愛いな。今の所ロティカとかいうエロ保健医よりも圧倒的に好感度ゲージが高かった。
「そういえば、体調は平気? そうだったらちょっと来て欲しいんだけれど」
「大声で騒いでたし、多分平気よ」
と、ロティカ。さっき病人だから安静にしてるべきだって言ったくせに。
「どこか行くんですか?」
「うん。学園長があなたと話がしたいって」
トトノ先生はそう答えた。
学園長。どんな人だろう。怖くない人だといいな。あとあまり積極的に話しかけてこない人。とにかく陰キャに優しい人であって欲しい。
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